調査ファイル 057 [Bad "Sea"quence]
「どうして海岸沿いなんですか?」
「洋館を出て外の景色を見た時、船が一隻もなかった。
海沿いの町・・・ましてやこういった島の場合、漁業が盛んの筈。
しかし時化ているわけでもないのに漁船がないということは、海岸沿いには誰も立ち入っていない可能性がある。
そういう場所というのは―――」
私が説明をした後、コウキ君はようやく気付いた。
「―――隠したい何かがある!」
「そういうことだ。
少し歩くことになるが、大丈夫か?」
「はい、もちろん!」
こうして2人は、歩き出した。
陽は真上へ向かい、間も無く傾こうとしてきた頃。
互いに汗だくになりながらも、どうにか島の海岸沿いを半分程見ることができた。
ここに来た時に感じた心地よい潮風も、今では納涼要因でしかないのが非常に残念である。
それでも私は少し満足していた。
何故なら―――
「・・・ここで間違いなさそうだな」
「そうですね・・・」
いかにも怪しい洞窟が、そこにはあった。
何だろう、入口を見ているだけで気持ち悪くなりそうな、暗くて大きな穴。
一歩前へ進むだけで吸い込まれそうな―――そんな気分に堕しめられそうになる。
「こうもあっさり見つかってしまうとは、いやはや」
とはいえ、内部がわからない以上油断はできない。
トラップが待ち構えている可能性だってある。
番人なんていた日には、疲れも増してもはや発狂しそうだ。
恐る恐るテトラポッドを降りつつ、洞窟へと向かった。
内部はよりひんやりしており、入口から数メートル進んだだけで明るさがガクンと落ちていた。
よくもまあこんなところに・・・お宝を隠してしまって。
多少なり呆れてしまったが、弱音も愚痴も吐いていられない。
言うまでもなかろう、コウキ君だ。
彼の前でそんなことを言おうものなら、私は一探偵として失格の烙印を連打されてしまうだろう。
それ以上に、彼を悲しませてしまう。
額を拭って、真っ暗な道を懐中電灯で照らす。
「足元、気を付けろ」
「は、はい」
身体は冷えてきているものの、汗は止まらない。
恐らく体温を上げようとして吹き出しているのだろう。
反面、コウキ君は完全に汗を引かし、肌は割と平然な状態に。
これが若さ・・・というべきだろうか。
足元ばかり見ていたせいか、周りに気を止めてはいなかった。
その為、目の前に現れたものには、少々動揺を隠せなかった。
「い、行き止まり―――!」
言葉には出さなかったものの、私も驚いたさ。
コウキ君はナイスな表情を顔に見せていた、ナイス。
ここまで来て行き止まりというオチは流石にないだろう。
そう思い、辺りをパントマイムの要領で隈なく手で探る。
すると―――
「・・・おや?」
掌には、微かに風を感じた。
勿論手の甲ではなく、掌の方にだ。
ということは―――
「この先に、道はある」
しかし押してどうこう出来るものだろうか。
薄い壁故に風を感じるとはいえ、コウキ君と力を合わせても壊せる保証はない。
何より後が怖い。
なるほど、今日はここまでか・・・
「仕方ない、一旦帰ろう」
「えぇ!ここまで来て引き返すんですか!?」
当然のリアクションだろう。
これも若さゆえか。
「気持ちはわかる。
だが軽装備で突入する程私もバカではない。
それに、もうすぐ陽が落ちる。
明日の朝、改めて来よう」
来てみてわかったことだが、ここは目につきにくく、特に人気がない。
というより、敢えて誰も近づいていないように見える。
やはり何かあるのだろう、それも“特盛”の『ヤバイ奴』が。
「・・・わかりました」
私の気持ちが伝わったのだろう、どうにか折れてくれた。
どうせまだ通れないんだ、仮に誰か来ても何か起きるわけではなし。
少し準備を整えておかないと―――
私たちは洞窟を後にした。
洋館に戻り、夕食を取った。
ワンピースが所々泥や砂で汚れていたが、執事は顔色一つ変えやしなかった。
もっと心配しろ、ばかもの。
それでも昨日とは一つ違うところがあった。
その答えは、テーブルの向かいにあった。
「このお肉、美味しいですね!」
口の横にソースを付けながらニッコリ笑う少年。
彼もまた食事が寂しかったのだろうか、ここぞとばかりに喜んでいる。
それを見て、思わず微笑みを零してしまう。
食事を終え、部屋に戻ろうとしてた。
雑談をしながら部屋の近くまで行くと、見慣れない顔がゾロゾロと―――
「ん、あんたらは・・・」
ヒゲを蓄えた男が、ボソッと喋る。
そうか、この人たちも―――
「あんたらも招待された口か?」
「ええ。
あなた方も?」
「おうよ。
俺たちはみんなオカ研で、課外調査の一環で来たんだよ」
オカ研・・・正式名、オカルト研究会。
様々な超常現象や未確認の生物・物体の調査を行うことを主としている団体。
彼らは同じ大学の研究会に在籍しているメンバーで、たまたまここに調査に向かおうとした矢先、招待状を貰ったとのこと。
「俺は剛田 雄吾、オカ研のリーダーだ」
最初に挨拶してきたのは、いかにもと言うべきか、見るからにリーダーっぽい男だった。
体格のいいスポーツマンのようにも見える。
「私は大原 瀬奈、よろしくね」
次に挨拶してきたのは、可愛らしい女性だった。
どうやらこの中では紅一点らしい。
「俺は松島 智也。
ま、仲良くやろうや」
若者らしく、フランクに挨拶してきた。
眼鏡を掛けているのだが、インテリ系なのだろうか。
「僕は堂島 芳次、よろしく。」
先程の青年とは正反対に、爽やかな好青年だ。
こちらもインテリ系のような雰囲気を醸し出している。
「大石 勝弘・・・よろしく」
無口なのだろうか、表情も妙に暗い感じだ。
執事の1/5といったところか。
一通り挨拶と握手を交わす。
因みにコウキ君は私の後ろに隠れて身を潜めている。
一応社交辞令変わりだ、聞いてみよう。
「みなさんに問いたい。
ここに招待された理由はご存じで?」
私としては的確な弾丸を込めたつもりだったが、的には当たらなかったようで―――
「・・・いや、俺たちもよくわかんねぇんだわ。
悪いな、嬢ちゃん」
・・・剛田と言ったか、彼はそう答えた。
全く、ここの主とやらは何を考えているんだ。
物探しなら正式に依頼すればいいのに―――
「まぁ何だかよくわかんねぇけど、同じ境遇の者同士、楽しくやっていこうや」
ニーッと笑うスポーツマン。
同じ穴の貉・・・というのは聊かどうかと思われるか。
何にせよ、彼らとも暫くやり過ごさなければならなくなったわけ、か。
(オカ研・・・ねぇ)
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




