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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第五章 ~ 名もなき招待状 [前編] ~
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調査ファイル 056 [お宝への第一歩]

翌朝、カーテンから(にじ)む朝日で目覚めた。

気持ち悪いくらい、心身共に清々しい気分だ。


部屋を出ると、扉の前の床に紙が落ちていた。

拾って裏返すと、どうやらメッセージらしい。


『朝食の用意が出来ましたので、応接間までどうぞ』


インクと線からするに筆ペンだろう。

それにしても彼、達筆である。

もしかして、一番の謎は執事なのではないだろうか―――




「おはようございます・・・」


幸薄そうな、幽霊のような、そんなオーラを纏った言葉だった。


「執事さん、少々お聞きしたいことが―――」


刹那、彼は動き出す。

無言で踵を返し、厨房の方へ消えていった。

昨日もそうだった、どうやら本当に知られたくないことがあるようだ。

このままじゃラチがあかない、何か行動を起こさねば・・・

そう思った私は、咄嗟に叫んだ。


「あ、あの・・・!」


執事は動きを止め、そのままの姿勢で立ち尽くしている。

一応聞く耳を・・・立てているのだろうか。


「朝食の後、出掛けても?」




―――暫しの間があった。

内部に知られたくない秘密があるなら、外部から解き明かす・・・それが答えだった。

外へ出れば、ヒントくらいはあるはず。

沈黙は続いたが、目線をこちらに寄せ、その重圧な口を開く。


「・・・かしこまりました」


そして・・・消えていった。

とりあえず外出の許可は得た、まずは朝食を済ませよう。

どこへ行くかの目途(めど)もついていないが、まあいいか。

急ぎの旅でもなさそうだし。

テーブルに着き、オレンジジュースを一口飲む。

独りの朝食は、意外にも美味しかった。




部屋に戻り支度をし、洋館の外へ出た。

風は先日よりひんやりしている。

さて、どこへ行こうか―――


坂を下り、昨日来た道を辿ってみた。

当たり前ではあるものの、やはり歩きでは遠く感じる。

ガードレールの向こう側には蒼い海が広がっていた・・・


朝方に黄昏ていると、坂の下の方に誰かいる。


「・・・!」


近付く私に気付いて、驚いた表情を浮かべている。

気配はおろか、足音にも気付かなかったらしい。

しかし、よく見るとどこかで見たことある顔だな・・・


「―――あ!」


そうだ、この少年、昨日洋館にいた―――

手には手帳、鞄にははみ出るほどの本が入っていた。

この子も何かの調査に出ていたのだろうか。


「君は何を調べているんだ?」


私は優しく問いかけたつもりだった。

だがその親切心は達人の瓦割り然り、粉々に砕け散っていた。

・・・何を隠そう、少年は怯えていた。


「―――あ・・・あ・・・」


言葉にならない言葉を発している。

少年、そこまで引かれるとこちらもショックだぞ。


「―――私は黒川レイ、探偵だ。

あの洋館の(あるじ)に招待されてここに来たんだ。

君は?」


人に名前を尋ねる時は、まず自分から。

今度は怯えられないように、しゃがんで目線を下げて問いかける。


「・・・あ、あの・・・コウキ、です」


少年はボソッと、ボソッと言った。

小学生くらいだろうか、まあ無理もない。

それにしても、まさかここまで怖がられたとは―――


「コウキ君か、よろしく。

それで、何をしていたんだ?」


「あ、はい。

この島に眠る財宝を・・・調べてまして・・・」


財宝―――

こんなに小さいのに、一人で調査を行っていたのか。

そういえば新聞にも書いてあったな、財宝がどうとか。

彼も調べているということは、知名度はそれなりにあるらしい。

やはりその財宝に何か鍵があるのやもしれん。


「コウキ君、よかったら私と一緒に探さないか?

私の目的も、おおよそそれ絡みなもんでな」




・・・するとどうだろう、私は驚愕した。

さっきまでガクブルしていた姿は、どこ吹く風。

目をキラキラと輝かせ、胸の前で両手をグーにして合わせ、私にグイグイと押し寄せる。


「あなたも財宝を!?

そうだったんですか・・・あ、それなら一緒に探しましょう!

良かったぁ~、怖い人かと思っちゃいましたよ~」


その仕草は、まさに女の子。

私より女子力が高いんじゃないかと・・・ちょっと思ってしまった。

ちょっと、ちょっと、悔しい。

それでも心を少しでも開いてくれたことに安心した私は、彼と行動を共にすることになった。


「ははは・・・

それじゃ、行こうか」




改めてコウキ君に聞くと、先程見ていたのは道端にあった植物だったらしい。

どうやらこの島に自生する植物は、他の地方にあるものとは少し異なるとのこと。

原型や元の種類は同じでも、この島においては独自の生態を築いていったようだ。

それがこんな道端の植物にも片鱗が見えていた・・・ようだ。


「しかし、よく調べたな」


「父親の影響なんです。

知らない物事は雑学から博学まで調べる性格でして」


ふと彼が手に持っていた手帳を覗く。

そこにはイラストと細かい文字が端から端まで目一杯描かれていた。

本当に好きで好きでやっていたようだ。

ふいに微笑みを浮かべた私だが、ある一文を見て一瞬眉間に亀裂が走る。


「コウキ君、これは?」


彼の手帳に指を()す。

それに気付いて彼も手帳に目を落とす。


「ああ、これはとある文献にあったんです。

僕もこの文字は読めなかったんで、そのまま写したんです」


「これは・・・」


見覚えのある文字が書かれている。

この文字、祖母が所持していた壁画に使われていたものだ。

私もさすがに解読は出来ないが、ある一文だけは読むことができた。




『その目を見てはいけない』




「レイさん、それはどういう・・・?」


私にもわからない。

しかし前に見た時、祖母はそう言った。

それと同じ文字がここに記載されている。

関連性はわからないけど、やはり臭うな・・・


「コウキ君、行こう」


「行くって、どこに?」




「―――海岸沿いだ」




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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