調査ファイル 055 [子供の心]
袋の中身は統一されておらず、点でバラバラだった。
タオルやティッシュといった日用品を始め、煙管やインスタントカメラといったものまで入っていた。
春香ちゃん、私は喫煙者ではないぞ・・・
「むっ!これは・・・」
見覚えのある球体。
白いそれは掌に収まり、糸のようなものが人差し指の半分程出ていた。
少し震えながら考えて、すぐに結論を導き出した。
「・・・バクダン―――」
危険物を船に持ち込んでいたと考えると、私は恐怖に包まれていた。
これはさすがに、ちょっと・・・
ふと目をやると、バクダンが入っていたところの下に、紙が一枚入っていた。
レイさんへ
じゆうけんきゅうのざいりょうのあまりで、ミニ花火を作りました。
よかったらあそんでみてください。
春香より
―――思わず絶句した。
しかし好意を無駄にはしたくない。
・・・夜に遊んでみるか。
様々なの品を見終わった私は―――笑っていた。
彼女なりの可愛らしさもあるが、気を使ってくれた心が嬉しかったのだ。
常に独りだった私にこんなにも愛情を与えてくれたことが、嬉しかった。
2人は今度、何らかの形で感謝しないとな。
「それにしても広いなここは。
時間もあるし、少し探検してみるか」
妙に好奇心に駆られてしまった私は、部屋を出た。
廊下を歩いてあちらこちらを見て回っていると、部屋が多いことに改めて気付く。
元々ここは大勢の客を呼びこむ為に作られたのだろうか。
反面、人の気配はない・・・妙に気持ち悪い。
トイレ、食堂、応接間などを見て回ったが、特に変わったようなものはなかった。
ただただ広く、高級な西洋感だけが瞳の奥に伝わっていた。
刹那―――
「っうあ!」
廊下左側の扉が突然開き、少年が私にぶつかって倒れる。
手に持っていた本が数冊、辺りに散らばってしまった。
「む、すまない、少年」
私はしゃがんで本を拾おうとした。
「―――!」
ふとあたふたしだし、物凄いスピードで本を回収し、そそくさとその場を立ち去った。
その姿は可愛らしさを潜め、どちらかというと思い詰めたような、何か影を落としているようなオーラをチラつかせていた。
・・・というか、他にも客人がいたのか。
ここでも好奇心が勝ってしまったのだろう、私は立ち上がって扉を開けて中を見てしまった。
「・・・ここも客室か」
先程の少年は数冊の本を持っていた。
もしここが書庫だった場合、彼はここの住人或いは関係者となる。
しかしその実、内装は私の部屋と変わり映えはなかった。
彼も招待されていたとすると、一探偵としての依頼の線は少し薄いかもしれない―――
「次に会ったら、話を聞いてみるか」
私は部屋に戻った。
部屋に戻ってすぐ、執事が声を掛けてきた。
どうやら夕食の案内らしい。
彼の後をついて行くと、昼間に見た応接間へと通された。
10mはあるテーブルに、1人分の食事が用意されいた。
「・・・執事さん、他の方は?」
「黒川様だけでございます」
黒い冷気はそう言い残し、裏へ消えていった。
イスに座り、私は食事をしながら考え事をしていた。
先程の発言・・・あれはどういう意味だったのだろうか。
他に客がいて、尚且つ食事を断ったとするならば、ああいう言い回しはしないはず。
「後で頂く」とか、「食事は遠慮した」とか。
それを『私だけ』ということは、招待客は複数いるということの証明。
恐らく部屋数からするに、あの少年以外に誰かいる―――
そんなことを考えていると、気付いた時には皿の上にはソースだけが残っていた。
贅沢な牛肉は愚か、フレンチは跡形もなくなっていた。
そこまで追い込まれていたのか、私は・・・
部屋に戻ると、ベッドに腰かけ、物思いに更けていた―――何も考えず。
自分でも気が付く程自分らしくない、そう感じた私は、部屋を見回した。
何か気分転換にならないだろうか。
・・・違和感は、ここでも感じている。
見回せば見回す程、より違和感が強まっていく。
西洋感溢れる部屋は居心地がよく、実家の自室を思い出す。
正直実家の事は嫌いだが、あの部屋は長く親しんだ思い出補正もあり、楽しかった出来事が今さっきあったように感じる。
「実家、か・・・
あれ以来帰っていないな。
・・・姉さん―――」
刹那、私はあることに気付いた。
「そういえばこの部屋、電子機器がないな。
テレビはまだしも、蛍光灯もドライヤーもない。
港の方には電柱があった、なのに電気が引かれていないのは何故だ?」
少し情報を得る必要がありそうだ。
それにしても、これはまた妙だな。
この部屋自体も、何かあるのだろうか。
ふと思い、ドレッサーの方へ目をやると、紙の束らしきものが置いてあった。
「これは―――新聞か?」
文字は日本語ではない。
見たところ英語だが、アメリカで見たそれではない。
イギリスだろうか。
「日付は昨日か。
・・・む、これは―――」
新聞をめくると、『日本の島に眠るお宝』と題した記事が掲載されていた。
招待状、お宝、見えない差出人・・・
何となく意図は伝わるが、まだ真意はわからない。
ともかく、明日執事さんに情報を聞き出すしかない。
月明りに照らされながら、私は床に就いた。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。