調査ファイル 054 [謎の案内人]
船は港へと到着した。
遠くから見た島の景色は、現在荘厳な雰囲気を瞳に焼き付けている。
パンフレットを見る限り、ここは誰かの所有地・・・というわけでもなく、住民も割りと多い。
それでも活気の声は乏しく、人の影は全くと言っていいほどない。
「静かすぎる―――」
ゴーストタウンならぬ『ゴーストアイランド』と言ったところか。
船から降りる客も、私を含めても数えるほどだ。
鞄を持ちながら港を出ると、私は視覚的違和感を感じた。
「・・・お待ちしておりました」
名乗らずとも私を知っていたのは、一人の男性だった。
バシッと決めた紺のスーツ姿は、一周回って“怖い雰囲気”を醸し出している。
60代くらいだろうか、整えられた白髪に髭が、風になびく。
「私を招待したのはあなたですか?」
「いえ―――」
その回答は、意表を突かれた。
それにしても、普段は無口なのだろうか、返事は淡的なものだった。
「では誰かの指示で私を呼んだと?」
「・・・」
男は、黙り。
仮にそうだとしたら、この男は使いの者か執事といったところだろう。
風貌からすれば、後者だろうな。
そして先述の違和感は、背後にあるものに最も集中していた。
「では、こちらへ・・・」
彼が案内したのは、車だった。
島を行くとなると、軽自動車や普通自動車などが一般的だ。
しかしそこには―――リムジンがあった。
世間一般的なリムジンよりは若干小型ではあったものの、内装は高級感が私を包み込む。
男は運転席に乗り、私たちは港を出発した。
少し走ると、車は山の方へと向かっていた。
窓ガラスから眺めると、麓には小さな町があり、その外れにも家が何件か建っていた。
不思議と恐怖感などはなく、ただ無音の車内で揺られている。
目の前にはテーブルと高級であろうシャンパンがあったが、どうも手をつけようという気にはなれない。
私の事を知っているであろう、恐らくこれはノンアルコールだ。
だとしても、まだ懐疑的であることに変わりはない。
「―――そちら、アルコール入りでございますので、お飲みになるのはお控え下さいませ」
・・・見透かされていた。
しかもアルコール入りだったとは―――
一体私をどうしようというのだ彼らは。
ますますモヤモヤを抱きながらも、車は走り続けた。
程なくして、車はスピードを落とし、完全に止まる。
窓ガラスから覗いた先には、大きな洋館が聳え立つ。
姿なき主催者はここに招き、何を企てているのか。
果たして探偵として呼んでいるのか、怪盗として呼んでいるのか。
それとも―――
鞄を持ち、洋館へ足を運ぶ。
山の中腹辺りにあるものの、頬を触れるのは潮風だった。
気温も少し低く、それでも涼しいといったところ。
大きな扉を男は軽々と開け、私は中へと入った。
エントランスホールには巨大なシャンデリアが吊られており、全面へと光を放っていた。
少し感心していると、男はこちらへ振り返り、右腕を腹部へ当て、お辞儀をする。
「ようこそお越し下さいました、黒川レイ様。
私は当洋館主の執事、勘解由小路 忠治 宗右衛門でございます」
日本に来て日が浅いせいか、どえらい名前を聞いたような気がする。
しかし、何が凄いかって、一切名前負けをしていないところである。
まるで気を抜いたら首を掻き切られそうな・・・そんな感じがひしひしと―――
執事は頭を上げると、相変わらずの凍り付いた目と表情で、私に言う。
「暫しの間、お部屋の方でお寛ぎください」
そういうと、冷気を纏いながら振り返り、2階の方へ向かっていった。
階段を登り廊下を進むと、いくつか部屋が見える。
パッと見ホテルのようにも見えるが、当然ナンバープレートもなく、鍵も外側から開けられないようになっていた。
部屋の中に入ると、まるで中世ヨーロッパの貴族の館を連想させる作りになっていた。
まさに『客室』といった雰囲気ではある。
私はベッドに腰かけ、一息ついていた。
「そういえば、春香ちゃんから貰った荷物が・・・」
ふと思い出した、春香ちゃんからの餞別。
袋の上の方にあった飲み物は貰ったが、その他のものには手を付けていなかった。
というより、確認すらしていなかった。
不思議なもので、私は少しワクワクしていた。
今までこういう経験がなかった故のものか・・・いや、今はいい。
ともかく、見て見よう。
そして袋を開けて、中身を洗い浚い出してみた。
「・・・何だ、コレは―――?」
思わず、固まってしまった―――
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。