調査ファイル 053 [探偵の一人旅]
封筒のチケットを取り出すと、乗船案内が書かれていた。
なるほど、船で行けと。
日付は今日の14時・・・急かしているのか、あと数時間しかない。
不審に思うレイだが、封筒の中に入っていた手紙に気付き、読み上げる。
「『黒川レイ様、貴殿を当洋館へご招待させて頂きます』―――
・・・差出人はなしか」
封筒同様、差出人は書かれていなかった。
誰が何の為にこんなものを―――
だが、興味深い。
ここまで拵えてあるんだ、乗らない手はない。
元怪盗としては、お宝を盗んでみろという挑戦状のように捉えたようだ。
手に持ったグラスをテーブルに置き、レイは自室へ戻っていった。
10分後、旅行鞄を持ち出して降りてくる。
髪を下ろし、白いワンピースをなびかせ、麦わら帽子を手で押さえていた。
「・・・レイ、その格好は―――」
優希はあんぐりしていた。
無理もない、普段からパンツルックのスーツの人間がガーリーな格好をしているのだから。
しかし隣にいた春香はその逆だったようで。
「わ~!レイさん可愛い!」
声を上げて黄色い成分がもうこれでもかと滲み出していた。
どうやら可愛ければ何でもいいらしい。
レイ自身もフッと笑っていた。
「たまにはいいだろう、こういうのも。
せっかくの旅行だしな」
その姿を見た春香は、レイに留まるよう声を掛けてその場を離れた。
暫くすると色々入っている紙袋を持ってきていた。
彼女なりの餞別らしい。
上から見ると、中にはお茶やお菓子などが入っている・・・子供ながらの気の使いように、すっかり脱帽していた。
「おお、ありがとな。
それじゃ、行ってくるよ」
春香の頭を撫で、玄関へ向かう。
見た目はお嬢様スタイル、だが口調は相変わらずというギャップに魅せられ、少し呆れ気味の優希。
1つだけ溜め息を落とし、苦笑いしながら右ポケットに手を突っ込んだ。
「それじゃ、行きますか」
暫く車を走らせると、景色は港となっていた。
優希は乗船場の中まで見送りに行き、レイは船へと乗り込んでいった。
出港すると、駐車場から手を振る人物が見えた。
ホントに良い子だな、優希は―――
しみじみ思いながら、レイは船旅へと出掛けていった。
甲板の手すりに頬杖をついて海を眺める。
透明な潮風は笑うわけでもなく、怒るわけでもなく、ただただ撫で吹くばかり。
ここのところ津田君と二人三脚を続けていた為、隣に誰かいないのが新鮮だったのだろう。
内心では妙にそわそわしてしまう自分が、どことなくやるせなかったりしていた。
思えば最初は単独で任をこなしていた怪盗、『寂しい』という感情は、自心として今一つ矛盾を孕んでいた。
真実を打ち明けていない以上、私がそう思うのは単なる我儘というものだ。
本当、早めに津田君に話さないとな―――――
「招待状・・・か」
手紙を見返しながら、ふと思う。
少なくとも私を知っている人物が呼んだことに間違いない。
問題は呼んだ『人物』よりも『目的』。
依頼にしては不躾だが、それは何か違う気がする。
まあせっかくの休日だ、旅行がてら謎解きと洒落込もうじゃないか。
とある罪人の言い訳宜しく、手を額に、掲げ目を細める。
そっと目を開けると、そこには大きな島が見えてきた。
先程まで気にはしなかったが、私の感覚では気が付いたら現れた・・・そんな感じだった。
「ここか―――」
如何にもな佇まいは、もう怪しさをドリアンレベルで臭わせていた。
それはもうプンプンと。
潮風に乗せられた怪しい匂いは、私の好奇心をより引き立てていた。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。