調査ファイル 051 - EX - [Un-Cleard ~ Elizabeth Side ~]
美術館で絵画を奪取したエリザベスたちは、アジトである廃ビルへと逃げ込んだ。
しかし探偵のレイとケルベロスのレオたちの足取りは早く、即座に見つかってしまう。
互いに姿を晒し、火花が飛び散り合い、一触即発状態の彼らを遮ったのは、大きな地震だった。
二つの意味で逃げる口実が出来たエリザベスたちは、すぐさまアジトから脱出した。
そしてレイは確認したいことがあると言い、美術館へ向かっていたのだが―――
エリザベスたちは、別のアジトへと向かっていた。
レイたちより早く脱出していた彼らは、闇に紛れて車を走らせている。
「申し訳ございません、エリザベス様」
リムジンとも捉えられる胴体の長い車。
対面座席の中には、エリザベスと屈強な男が3人乗っていた。
「構わないわ。
あの場で殺っていたら、私たちも危うかったでしょうし。
それに―――」
エリザベスの手には、1枚の絵画が握られていた。
そこには、堂々たる姿の天使が描かれていた。
「これでお宝は私のモノ・・・!」
すると、屈強な男の内の1人が、エリザベスに問いかける。
「恐れ入りますがエリザベス様、その絵画は一体・・・?」
どうやら部下たちは何も知らされていなかったようだ。
与えられた命令は『絵画を奪え』、ただ1つ。
それを踏まえてか、怒りを露わにすることもなく、少し艶やかな表情を浮かべ、妖艶に話し出す。
「私が探していた絵画には、ある財宝の在処が示されているわ。
その財宝を手に入れれば、永遠の富を約束されるらしいのよ」
更に別の屈強な男の1人が、エリザベスに問う。
「その財宝とは・・・?」
「―――奇跡の蒼炎、そう呼ばれているらしいわ。
ある人物の情報によると、それは蒼々とした美しいダイヤモンドみたい。
はあ・・・早くお目に掛かりたいわ―――」
エリザベスは恍惚の表情を浮かべている。
男たちは言われずとも、命令が上書きされるのを瞬時に悟った。
それは、『奇跡の蒼炎を手に入れろ』。
何故彼らはそこまでエリザベスに執着するのか。
「よく当てなかったな、カール」
別の車両では、レイの足元に弾丸を撃ち込んだ狙撃手、カールが乗っていた。
「あれくらい朝飯前だ。
それより、奴らが追いかけて来ないようだが―――」
「きっと見失ったんだろう。
俺たちは財宝の在処とやらを見つけようぜ」
「おちゃらけるのはその辺にしておけ、アレク。
奴らが先回りしている可能性だってある。
それに、あの絵画が偽物という線も捨てきれない」
話し相手の名前はアレクサンダー、通称「アレク」。
2人はヒュドラーの幹部、エリザベスの側近に当たる人物だ。
エリザベスの乗る車の後方に仕え、緊急時に対応出来るよう敢えて離れているらしい。
「なーに、心配ないって」
「―――だといいが・・・」
一方、エリザベスは。
相変わらず惚けて絵画を見ている。
「はあ・・・」
絵画を眺めながら、財宝がどこに隠されているのか。
そもそもどんなメッセージが込められているのか、胸躍る気持ちを隠しきれずに探している。
そして彼女は、絵画を傾けたりするなど、動かし始めた。
すると―――
「・・・?」
車の窓の方へ向けた瞬間、エリザベスは何かに気付く。
何か・・・光っている・・・?
「これは・・・!」
恐らくメッセージだ!
そう思った彼女は解読をしようと試みる。
が、それは日本語でも英語でもない為、読むことは出来ない。
「あなたたち、これを解読して頂戴」
「どうされましたか?」
「月明りに照らしなさい。
そして浮かんでくる文字をすぐに読み取りなさい!」
男たちは慌てて解読を始める。
すると1人の男が、その文字を見て文章を解読し始める。
しかし、読み終えたその表情は、歓喜のものではなく、非常にマズい・・・といった青ざめるものであった。
「何をグズグズしているの!
早く読みなさい!」
耐え切れず、男は読み始めた。
―――戦々恐々と。
男は、読み終えた。
そう、読み終えたのだ。
それは何を示すのか。
2人の男も何となく察知していた。
そう、『死』―――
こうまで苦労して手に入れた絵画が、隠されたメッセージが・・・
まさか手紙だったとは誰一人思うまい。
当然、エリザベスも。
「何よ・・・これ・・・」
どうやら怒り心頭の様子だ。
少々放心状態のようでもあったが、いつ爆発してもおかしくない状態でもある。
だがタイミングがよかったのか、車はアジトへ到着していた。
男たちは早々に降り、ドアを開けてエリザベスのエスコートを始める。
無言で降り、手に持っていた絵画を地面に叩きつけて、彼女は館の中へと消えていった。
男たちは、館の扉が閉まるまで、ずっと立ち尽くしていた。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。