調査ファイル 050 [見えないいと]
「・・・メッセージ?」
「うむ。
スーザンは絵画の中にメッセージを隠したいたのだよ。
誰にもわからない、秘密のね」
ロベルト警部は電話越しにそう言った。
メッセージを隠すったって、天使しか描かれていないキャンバスのどこに・・・
まあ、あの絵画自体まじまじと見ちゃいないわけで、詳しくはわからないわけで・・・
「修道院のシスター・・・ユリスの同期が証言した。
部屋の窓辺で絵画を掲げているのを見た、と」
そうか、天使の絵画にも仕掛けがあったんだ。
ユリスさんはそれに気付いて・・・だから窓辺で掲げたんだ。
「じゃ、じゃあ、そのメッセージって―――」
耳元スピーカーは、数秒の空白を織り成した。
そしてそれは渋い声で硝子の様にブチ破られる。
「・・・残念ながら、そこまではわからなかった。
証言者もメッセージまでは見ていなかったようだ。
すまない―――」
ロベルト警部との電話でも、絵画にメッセージが隠されていたのは証明済みだ。
しかしその絵画はエリザベスの元、更にメッセージのメモとされる文章も意味不明。
レイ、これをどう紐解く・・・?
「ふむ・・・」
啖呵は切ったものの、少し考え込んでいる。
恩師から弟子に送るメッセージとしても、メモには恩師に向けた手紙のような内容しか書かれていない。
「それにしても、まさかあれがメモだったとは―――」
僕はふとイギリスの洋館の出来事を思い返していた。
「どんなところだったの?」
興味があるのだろうか、宮川さんが食いついてきた。
いずれは行きたいのだろうか。
「イギリスなんですけど、本当に長閑なところでしたよ。
海沿いなんですけど、結構緑が広がってるんですよ。
洋館も広々としていて―――」
つらつらと話し、暫くしてハッとする。
僕、話し込んじゃった・・・?
「す、すみません、1人で喋っちゃって・・・」
「ううん、すっごく面白かった!
行ってみたいな~、イギリス」
やはりそうなのか。
まあ、実際空気が美味しい良いところだったし。
旅行に行くには最適な場所ではあったかな。
「僕もまた行ってみたいです。
今度は事件絡みじゃなく、旅行で」
「旅行―――」
少し離れでレイが呟く。
あれ、もしかしてこれヒントだった?
「何かわかったの?」
「いや、1つ思い出してな」
旅行で思い出すこと・・・ああ、そういえば。
遺体があった部屋、テーブルの上に鞄があったっけな。
大きさ的にも旅行鞄だよな、あれ。
「鞄のこと?」
「ああ。
あの部屋の中で随一の異彩を放っていた」
遺体じゃないのかよ。
そうツッコミながらも、本心を押し殺して話を聞く。
「もしかして、誰かが旅行であそこへ行ったとか?」
「否定はできない。
旅行はともかく、何者かが侵入したのは事実だしな」
問題は誰がそこに、か。
「それにあの鞄、女性の絵画の鞄と色合いや大きさも同一のものだった」
「え、そうだったの!?」
そこまで見てなかったな。
遺体と手紙で頭が一杯だったし。
「ってことは、あの女性のモデルが犯人―――」
「いや、まさか・・・」
すると突然―――
「あ!」
宮川さんが声を上げる。
「どうした!?」
加えて前田さんも声を上げる。
何かあったのか・・・!
「・・・上着がススだらけ」
僕はギャグ漫画よろしく、物凄いコケかたをした。
前田さんは呆れたような表情で彼女を見ている。
「お前さんなあ・・・」
「だ、だって、これ買ったばかりの服なんですよ。
あ~ん、洗ったら色落ちちゃうかな・・・」
「んなモンわかんねえよ。
白は洗っても白だし、その赤いのもわかりゃしねえって」
「色移りとかするじゃないですか!
それにこれはサーモンピンクです、赤色じゃないです」
「同じようなモンじゃねえか。
赤もピンクも変わんねえよ」
「全然違います!
色褪せちゃったらまあ微妙ですけど、まだ新品なのでハッキリわかります!」
「色褪せ・・・?」
またもやレイが呟く。
これも何かのヒントになったのか。
レイは持っていた絵画をバッと開いて眺める。
「津田君、これを見てくれ」
下から除くのではなく、普通に上から見るよう指示される。
どうやらメッセージが焦点ではないらしい。
「・・・女性の絵画、だよね。
これがどうしたの?」
「この絵画、古いように見えるか?」
突拍子もないことを言い出した。
そりゃあ古いでしょうに、このキャンバスの具合からして。
三波さんが長年ここに封印していたんだから、答えは明白だ。
「古いでしょ」
「―――そうだ、これは古い絵画だ。
古い絵画というのは、一般的にどういう特徴を持つ?」
更に突拍子もないことを言い出した。
まるで当たり前のことを確認するかのように。
ふーむ、特徴ねえ・・・
「まずは素材が痛む・・・かな。
よっぽど保存状態が良い場合を除けば、シワや切れが発生するね。
あとは色褪せやカビとか―――」
―――刹那、僕の発言を聞いて、レイは一瞬眉間のシワを鋭く寄せる。
「そう、色褪せる。
津田君は今、そう言ったな?」
「あ、ああ・・・」
「だとしたら、あの人の発言は妙だな。
となれば、これは―――」
手に持った絵画を、今度は下から見上げる。
我慢できずに、僕はレイに問う。
「それ、結局何て書いてあるの?」
「・・・そうか、そうだったな」
―――苦笑いしている。
ちっきしょう、僕もフランス語をマスターしていれば・・・
再び本心を隠し、翻訳を聞こうとしていた。
「では、読むぞ」
To Be Continued...
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