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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第四章 ~ 呪いの絵画 ~
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調査ファイル 049 [光の道標]

僕はその名を聞いた途端、一瞬だけ驚いた。

モヤモヤを抱いたはいいものの、それを理解するのに脳が追いつかなかった。


「真犯人は―――大シスターだ」


大シスター・・・修道院にいるシスターの(おさ)

学校でいうところの先生に当たり、修道院を統括する地位を持つ人物を示す。

では何故その大シスターがスーザンを殺したのか。


「ユリスが相談したのは大シスターだ。

元々シスターは悩める人を導く役目を持っている。

当然その長ともなれば、自分の話を真摯に聞いてくれる。

そこに目を付けたのだろう」


「でも何で大シスターが?

自分の知らない、まして面識のない人物を殺そうなんて―――」


仮にある出来事がきっかけで強い殺意を持ったとしよう。

それを向けるとしたら、普通であれば渦中の人物となる。

喧嘩相手とか、恋人の元カレ・元カノとか。

しかし大シスターはそのどれにも当てはまらない。


「大シスターは教え子の悩みを、自分の悩みのように受け止めた。

多分、そうとう辛かったのだろうな。

そこで彼女は、1つの決断をした。

それが―――復讐」


目には目を、歯には歯を・・・というのはハンムラビ法典の一節だけど、これはどうなんだろう。

自分を地獄に落とした相手に死を以て制すというのも、どことなく逆恨みのような気がしないでもないような。

とはいえ、可愛い生徒が辛い目に遭っていたら、それを助けるのが教師の務め。

それが動機・・・なのだろうか。


「そして大シスターは他のシスターを連れて、スーザンの家へ向かった。

夜中に寝静まったところへ侵入し、スーザンを―――

その後遺体を遺棄した後、彼女らは修道院へと帰っていった。

スーザンの描いた絵画と共に」


「絵画って、あの天使の?」


「そう。

ユリスはスーザンの作品を戦利品か何かとして持ち帰ったんだ。

そして自室でそれを見た途端、彼女は酷く落胆した」


絵を見て落胆とは、これ如何に。

自身の功績を強奪しておきながら、のうのうと生活してきた人の絵を見て何故落ち込む。

膝から崩れ落ちる程の素晴らしさ・・・ではないだろうな。


「ユリスは天使の絵画に隠されたメッセージを見つけた。

隠されたといっても、見つけるのは安易なものだ」


そういうと、レイは懐中電灯を求めてきた。

前田さんが手に持っていた懐中電灯をレイへと投げ渡す。

・・・おいおい、落としたらどうするんだよ、ただでさえ暗いのに。

しかし、そんな不安をよそに、意図も簡単にキャッチしてしまっている。

しかも下からキャッチではなく、まるで野球のキャッチャーのように真正面から。

さすがです、ええ流石です。


「津田君、これを」


今度は僕に懐中電灯を持たせる。

レイは先程の絵画を両手で持ち、懐中電灯を上から照らすよう指示をする。

そう、2階で見て絶句した、それは現れる。




懐中電灯に照らされた絵画は、光を遮ることなく床を照らす。

尤も、全ての光ではなく、微量なものではあったが。

そして床へと到達した光は、何やら文字のようにも見える。


「絵画に隠されたメッセージはこれだ。

ご覧の通りね。

スーザン殺害後、ユリスは持ち帰った絵画を見た。

その時、月明りに照らされて同じような光景を目の当たりにしたんだ」


まさか絵画から文字が現れるなんて、普通は思わない。

2回目とはいえ、内心では僕も驚いていた。


スーザンが絵画に隠したメッセージ。

自身が描いた絵画に何を記したのか。

その続きも、レイは冷静に話し始める。


「恐らくスーザンは過去の出来事を悔いていた。

名誉が欲しいばかりに、自らの弟子を利用したことに。

しかし手紙にして、まして口に出して直接謝罪するのも気が引けていた。

だから絵画にこっそり記して渡すつもりだったのだろう。

その矢先の出来事だった」


「ユリスさんは絵画を受け取る前に、スーザンさんは殺害されてしまった。

そして、事後に真相に気付いた・・・」


「ああ。

さぞ悔いただろうな、ちゃんと話せばよかったと。

そうすればもっと良い方向へ進んだのかもしれない、と」


スーザンさんのやったことは、決して許されることのないこと。

それでも彼女なりに謝ろうとしていた。

残念ながら前向きに進んだ彼女を、ユリスは大シスターと協力し殺めてしまった。

皮肉なものか、被害者だった人物が犯罪者になるとは。




「ところでよ、その天使の絵には何て書いてたんだ?」


唐突に前田さんは話す。

そういえばそうだ、そんな崩れ落ちる程の手紙とは一体何だ?


「全文はわからない。

しかし、それを記したメモなら、津田君も見ただろ?」


は?メモ?

そんなモンみた記憶ないぞ。

殴り書き・走り書きの紙なんてどこで―――







「何だそれ?」


「手紙のようだな。

所々霞んでいるから、全文はわからないけどね」


「内容わかる?」


「フランス語のようだな。

どれ―――」







あ、見たわ。

堂々と見たわ。

そういえば殴り書きっぽかったな、アレ。

でもたしか手紙だったよね、そう思って見てたけど・・・あれメモだったの!?


「―――気付いたか」


「あれ手紙じゃなかったの?」


「私も最初はそう思っていた。

しかし、ロベルト警部の話を聞く限り、それは天使の絵画のメッセージで間違いないだろう」




誰にも聞こえない小さな声で、前田は呟く。


「・・・あ?ロベルト?

そのいけ好かなねえ名前、どっかで聞いたような・・・」



To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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