表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第四章 ~ 呪いの絵画 ~
54/129

調査ファイル 048 [マリオネット]

「おい黒川、さっきから何してやがる」


前田は私に向かってムスっとした表情で問いかける。

そうか、彼には見えていないのか。


「ならば見てみるか、これを」


私は取り出した絵画を、前田に渡す。

宮川もつられて見に行くが、2人とも難色を示している。


「・・・ただの絵じゃねえか」


「これが・・・何?」


そう、普通に見れば鞄を持った女性と洋館が描かれた、言ってしまえば“それだけの”絵画。

ならば普通に見なければどうなるか。

私は2人を手招きし、窓の下―――月明りが輝く陽だまりに呼び寄せる。

未だ腑に落ちない困ったような顔をしたまま、こちらに歩み寄る。


「それで、何だってんだ?」


・・・相変わらず頭が固いことで。

どうやら宮川は気付いたようで、ハッとした表情をようやく浮かべ、前田から絵画を受け取る。

そして、(そら)へと翳す。


「・・・なるほど、そういうことね」


「な、何がだよ」


「この絵画、切れ込みが入っているんです。

だから上から光を当てると、切れ込みの中を光が通って文字が見えるんです」


ムスッとしたまま絵画を覗くと、前田は瞬時に驚いた顔をする。

だが、再びムスッとし―――


「でもよ、これ何て書いてるんだ?

日本語・・・じゃあないよな」


「そう、これはフランス語。

そしてこの絵画を描いたのもフランス人。

恐らくモチーフは・・・」


フランス出身のあの画家だろうな。

参考にしているのが手に取るようにわかる。

人物画を得意としていたからな、間違いないだろう。


「よくわかるなあ、オイ。

それで、何て書いてるんだ?」


「日記のようだな。

でも何故・・・」




「・・・そうだったんですか」


「・・・事件の概要は以上だ。

ピースはこれで足りるだろう、あとはレイに―――」


通話を終えた僕は、居た堪れない気持ちで溢れ返っていた。

まさかそんな事があったとは・・・

僕は無意識に、レイの方へと視線を向けていた。

気付いたようで、こちらに視線を返してくれた。

この気持ちを汲み取ってくれたのか、軽く頷く。


「レイ、ロベルト警部補から連絡あったよ」


「それで、結果は?」


受け取った結果を、なるべく簡潔に説明する。

話し終えると、次にレイは日記の内容を教えてくれた。

何やら絵画に記されていたようだが、まさか切れ込みが入っていたとは。

レイの中で内容が纏まったようで、前田さんと宮川さんの方を向いている。

そして、表情が引き締まった。




「では始めよう―――事件の真相(なぞとき)を」







まず天使の絵画と女性の絵画の作者から説明しよう。

天使の絵画を描いたのは『スーザン』、女性の絵画を描いたのは『ユリス』という名前だ。

スーザンはフランスでも有名な画家で、人物画がとても人気の画家だった。

ユリスは彼女に憧れて、弟子入りしたんだ。


スーザンも彼女の絵のタッチに目をつけ、才能を買って開花させようとしていた。

厳しくもちゃんと指導だったのだろう、ユリスはめくめく上達し、知名度を挙げていった。

それは互いに喜ばしいことだった―――筈だった。


そしてユリスは一大決心し、最後の晩餐を描こうとしていた。

勿論ダ・ヴィンチの贋作だが、彼女以外に作ろうとしている者は誰もいなかった。

そこに目をつけ、ユリスは描いた。

影響された画家のタッチと、スーザンの技術が上手く組み合わさった結果、完成品は良作となった。

ここで終われば、いたく普通のハッピーエンドだったろう。


しかし、スーザンは違った。

その出来栄えを見て、彼女は嫉妬した。

そしてその嫉妬は募り募って、爆発してしまう。

我を忘れたスーザンは、ユリス名義ではなくスーザン名義で絵画を発表してしまったのだ。


当然ユリスは激怒した。

この絵を描いたのは私だと、何度も何度も・・・幾日も幾日も訴え続けた。

しかし上げた声は衆に届かず、挙句『嘘つき者』として最悪の烙印を押されてしまう。


結果、スーザンは画家としての知名度を更に上げ、ユリスはどん底に落ちていく。

この頃スーザンが天使の絵画を描いたとされる。


一方ユリスは画家の道から退き、修道女として数年間過ごしていた。

教会に助けを求め、それからは道なりだったようだ。

そしてある日、彼女はある人物に相談したが、それが大きな失態だった。

その人物が提案したのは、スーザンの殺害。

ユリスは戸惑ったものの、自分を救ってくれた恩人を裏切ることは出来ない・・・

まずはスーザンの元へ毒を盛った飲食物を送った。




「そうか、あの手紙にあった毒の(くだり)はそれだったのか」


「・・・手紙?」


そういえば前田さんと宮川さんは、この事を知らなかったんだっけ。


「先日絵画の調査に向かった場所で見つけたんです。

一件何気ない内容なんですが、どうやら含みがあるものらしく―――」


そうなんだ、と深く感慨深い表情を浮かべる。

前田さんは静かに話を聞いて、微動だにしていない。




スーザンはユリスの荷物を受け取った。

それが毒だとも知らずに。

しかしスーザンはそれを口にしなかった。

にも関わらずスーザンはその命を落としてしまった。

それは何故か―――




僕は考える。

毒を摂取せずに亡くなった理由を。

・・・たしかあの時―――




『この遺体、頭蓋骨に陥没痕があった。

恐らく犯人はこの屋敷にやってきて、鈍器のようなもので殴って殺害したんだ』




「第三者の介入・・・」


「それって、ユリスって人以外に殺意を持っている人がいたってこと?」


「そうだ。

そして真犯人はユリスの心に付け込んで、(あまつさ)え彼女を利用してスーザンを殺害した」


ユリスの恩人で、且つ彼女の相談を親身に聞ける人物。

立場の面からみれば、僕ならあの人を想像する。




「真犯人は―――」




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ