表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第四章 ~ 呪いの絵画 ~
52/129

調査ファイル 046 [もうひとつの絵画]

どうやら今夜は長いらしい。

時間はかなり経ったものの、空は相変わらずの黒だ。

まだ目を覚ますつもりがないのだろう。


おしとやかな看護師とは思えない、荒々しい運転の甲斐もあり、早い時間で美術館に着いた。

どうしてみんなはケロッとしているのだろう。

僕はドアから降りてすぐ、えづくスタイルになっていた。

スラリとした顔で降りるレオ、ごめんなさいと苦笑いする宮川さん、そして・・・無言で背中をさするレイ。

すみませんねえ、お手数をお掛けして―――




美術館の前には黄色いテープが張られ、人だかりとパトカーが押し寄せている。

それもそうか、あの派手な逃げ方は・・・


「お、津田!お前!!」


心の中で『ゲッ!』って思ってしまったのは、言うまでもない。

札川の鬼が、こちらに向かって早歩きしている。

あー、これは展開が読める。


刹那、鬼は金棒のような腕の先端で、僕の脳天を垂直からハレー彗星を落とす。

物凄い激痛が頭から徐々に身体全体まで行き渡っていく。

正直、不快です。

何故前田さんはこんなに怒っているのか。

それはまあ、当然と言えば当然なわけで―――


「津田!何で俺に連絡よこさねえんだ!」


「い、いや、これは探偵の仕事で・・・」


「そんなモン知ったこっちゃねえんだよ!

お前に何かあったらどうする!

お前は警察だが俺も警察だ、こういう時は素直に頼れ。

今更他人行儀するんじゃねえバカモン」


その怒りは、一警察としてのものより、親のそれにどこか似ている。

そういえば、前田さんもご結婚なさって、子供も何人かいらっしゃったっけ。

なるほど、それで僕は―――


「すまなかった、警部補。

私も探偵の仕事だからと言って、ずっと秘匿を通そうと意地になっていた。

責任は私にもある、だから・・・」


レイは申し訳なさそうに、顔に影を落としている。

年下に言われてしまっては、僕の面子もない。

何だか非常に情けなくなってしまうな。

でも、それでも前田さんは優しい口調で話す。


「シュヴァルツ・・・いや、黒川。

とりあえず、こう大事になった時は俺に連絡よこせ、いいな。

俺の言いたいことは、それだけだ」


頭の痛みも、少し和らいできた。

さすりながら、また一つ人として教訓を得た・・・といえば綺麗な話になってしまうが。

ともあれ、前田さんの協力の元、美術館は封鎖してもらえた。

あとは、レイの考えに従って動くしかない。


「レイ、中へ―――」


「ああ」




扉の奥には、ガラスが散乱していた。

入口にまで破片があるということは、あの時の衝撃がどれだけ凄まじいものだったかを物語っている。

2階に上がり、最後の晩餐のあった場所へと向かった。

絵画は降ろされ、当時のまま現存されていた。


「それで、何をするの?」


宮川さんは問いかける。

乗り掛かった舟というべきか、ここまで来たらとことん付き合う・・・そういう性格なのだろう。

だが、レイは返答することなく、辺りを見回し、額縁を調べている。


「すみません、一度スイッチ入ると周りが見えないもので・・・」


代わりに謝る僕は、彼女の保護者ではない。

でもまあ、社会人の常識として謝っておかねば。

宮川さんも苦笑いして許してくれているみたいでよかった。


一頻(ひとしき)り調べた(のち)、僕の方を見るレイ。

そして彼女は僕に一つお願いを言い出した。


「津田君、携帯電話持っているか?」


「え?あ、ああ・・・」


素っ頓狂な声を上げてしまったが、素直にレイに携帯電話を渡す。

すると何やらピポパポ押して、どこかへと電話し始める。

さすがに聞き耳を立てるわけにもいかず、僕も額縁を調べることにした。


大きな額の中は、引き裂かれた台紙と最後の晩餐が入っている。

しっかし、よくもまあこの中に絵を入れようと思いついたもんだ。


「・・・あれ?」


台紙にサインが書かれている。

右端の方に小さく書かれているが、英語と思しき字が筆記体で綴られていて読めない。

そして台紙を(めく)って中を見ると、同じく筆記体でサインが書かれていた。

しかし、どこか違和感を感じる。

何だろう、この感じ・・・ひょっとしてレイもこれに―――?


すると、レイが僕に声を掛ける。

ふと視線を上げると、既に電話を終えて僕の方へ手を伸ばしている。

その手には、携帯電話が折りたたんで乗っかっていた。

ありがとう、と言って僕に渡したのだが、誰に電話していたのだろうか。

プライベート?・・・いやまさか。




「よし、行こうか」


「行こうか・・・ってどこに?」


「三波さんが所持していた、もう一枚の絵だ。

たしか地下にあったな、そこに行こう」


前田さんを加え、僕たちは地下へと向かった。

鍵は外にいた受付嬢から預かった。

暗い階段を下り、地下にあるあの処刑部屋へと辿り着く。

いや、あれはどう見ても処刑部屋だよな、武器いっぱいあったし。


「しかし、三波さんはどこに行ったんだろうね。

カールって人が変装してたのはわかったけど・・・」


「どこかに監禁か、或いは始末したか―――」


「し、始末って・・・」


ぬるりと僕の後ろから出てきた宮川さんが、さも幽霊のように言い出す。


「い~や、もしかしたらどこかで殺されて、その怨念が今も彷徨って―――」


乾いた呆れ笑いをかまし、ドアを開ける。

部屋の内部は、相変わらずだ。

中心にあるテーブルには、以前同様絵画が置かれていた。


「あ、ちょっと、レイ!」


レイは額縁から絵画を取り出そうとする。

最後の晩餐と違い、こちらは広げた新聞紙1枚分の大きさ、さすがに中に絵を隠せない大きさだ。

止めようとしたのだが、彼女の目を見て、僕はやめた。

冷たい弾丸のような目ではなく、暖かくて芯のあるくっきりとした目を。


「いいんだ、これで―――」




レイは、額縁から絵画を取り出した。




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ