調査ファイル 044 [動き始める呪い]
エリザベス―――レオはそう言った。
あのただならぬ黒い乱気流からするに、絵画を奪った連中の親玉だろうか。
ヒラヒラした格好で変装・脱走は難しいだろうな・・・ということは犯人はあの女性ではない。
「天使の絵画を奪った奴は誰だ?
あんたんとこのモンだろ?」
「ええ、その通りよ」
溜め息を1発吐いて、呆れた目で彼女を見る。
さながら、またお前かと言わんばかりに。
「あの館長に変装してたのはカールか?
全く、派手にやりやがって・・・」
不敵に笑い、凄いでしょと軽く受け答える、エリザベスと名乗る女性。
そのカールという男が館長に変装し、僕たちが絵画を見つけ出した隙を狙い強奪したわけか。
そういえば何年か前に、そんな名前の男が指名手配されてたような。
「それで、用件は?」
「悪いことは言わない、奪った絵画を返せ」
悪びれもせず、しれっとした態度で答える女性。
「嫌よ、あれはもう私のもの。
お宝も私が頂くのよ」
やはりこの人もそういう魂胆か。
どうもこう悪い印象の人物は、お宝や金銭についてはがめついな。
そういうものなんだろうか。
「それはお前の手に負える物じゃない。
ましてお宝の在処を示す物でもない」
―――レオと津田君の少し後ろ側で、疑問に苛まれていた。
あの絵画はお宝の在処を示している・・・と、されている。
噂では密かに、密かに、そう広まっている。
しかしレオはお宝の在処『ではない』と断言した。
何故それを知ったのか、いや・・・知っていたのか。
片方の絵画は館長が長らく暗がりに封印しており、もう片方はつい先程まで隠されていたものだ。
レオ、お前は・・・
「―――何故、それを知っている?」
私は思わず彼に問いただしていた。
不意を喰らったのか、少し驚いたような顔をしながら振り返る。
しかし、口を開く様子は、なかった。
「正確には、いつ絵画を見たんだ?
あれはつい最近まで日の目を見ることはなかったんだぞ」
「それは―――」
―――銃声。
刹那、レオとレイの足元に500円くらいの穴が生成される。
金色に鈍く光るのは、銃弾。
跳ね返った小石が足元に散らばる・・・何者かがどこからか狙撃したのか。
レオはこの状況からして、発砲したヌシは察しが付いていた。
「―――カール、やるじゃん」
フランクに言っているが、一歩間違えたら脳天かトルソーに突撃夕ご飯喰らうところだった。
カールって、今銃弾を撃ち込んだ奴の名前なのだろうか。
しっかし、随分とこいつらのことを知っているもんだ。
危害を加えないと言ったのも、イマイチ信用ならん。
「さすがは元盗賊、銃の扱いもお手の物ってか」
暗闇から、薄っすらと影が見える。
エリザベスと呼ばれる女性の少し離れに、それはいた。
「―――久しいな、レオ」
やはりこの男も、レオと知り合いだったか。
北上を知り、レイを知り、彼らとも知り合い・・・果たしてレオとは一体?
ケルベロス・・・グルにしては少し不自然ではあるが―――
「悪いことは言わない、その絵を返せ」
「断る。
これはエリザベス様のものだ」
「なるほど、言葉じゃ通用しないってわけね」
この時点で、私は1つの疑問を抱いていた。
言うまでもない、彼女がこの絵を必要とする理由だ。
エリザベスは『お宝を頂く』と言った。
しかしお宝を盗むにしては、他力本願のような気もする。
あの変装といい、仕込みといい、ここまでやれる連中が表立って行動していなかったのが妙だ。
仮に私たちに絵を見せてくれた三波さんが、カールという男による偶像の人物ではなく、実際にいた本物の館長だとしたら?
カールが変装した理由が絵の捜索ではなく、絵についての真意を求めた上での行為だとしたら?
―――『秘密組織』・・・まさか!
「いい加減にしろ、ベス。
その絵は―――」
刹那、レオの足元が急に弾け跳ぶ。
咄嗟に避けたそこには、先程と同じ穴が空いていた。
違うのは、大きさ。
若干小さくなってはいたが、埋まっている鈍い金色からするに、紛れもない銃弾。
ふと目を上げると、エリザベスが拳銃をこちらに向けていた。
「その名前では呼ばないでって言ったでしょう?
次言ったら、本当に撃つわよ」
このまま指を咥えて逃げるのを待つのか。
対抗する手段もなく、レイとレオは彼女らを睨みつける。
一方津田は、何もできない・・・何もしてやれない自分に苛まれている。
銃もなく、度胸もない自分が情けない、と。
僕は・・・いつもレイに助けられてばかりだ。
こないだなんてレオに助けられたぐらいだ。
銃があれば、多少は力になっただろうけど。
このまま、僕は突っ立ってるだけなのか・・・?
刹那―――
「・・・!
な、なんだ!?」
視界が左右に揺れる。
目の前にある柱が右へ左へとあり得ない動きをしだした。
ここは魔界の城か・・・或いは化け物の体内か。
いやそんなはずはない。
血管もグロテスクな壁もない、そしてこの揺れ―――間違いない。
「・・・地震か!?」
慌てた声を上げるレイ。
それもそのはず、廃ビルで地震ともなれば、突貫工事の建物での地震と大差ない。
建築されて数十年、廃棄されて10年といったところか、これはヤバイ。
それはレオも同じだった。
天井が崩れ始めている。
本格的に、倒壊するぞこれは。
「マズい、崩れるぞ!」
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




