調査ファイル 043 [紫炎の女王]
冷静になってよーく考えてみれば、今凶悪犯と行動を共にしてるんだよな。
何気に車内に同席して、少なからず会話というか情報交換してたけど、これってとんでもないことですよね。
アジトと呼ばれる建物の前で車を止め、僕たちは降りる。
地に足をつけた時、色んな意味でちーっとマズイよな・・・なんて考えてみたり。
「・・・大丈夫、君たちに危害を加えるつもりはないよ」
―――見透かされている。
バケモノかこいつは。
口に出さなくても、剰え表情にも出してないのに。
気を取り直して目の前の建物を見る。
・・・どう見ても廃ビルなんだが、違うという意見があるのならこちらまでご連絡を。
お掛け間違えのないように。
「・・・こんなところにいるのか?
車で移動したとして、ここに来たという保証は―――」
「―――嘘だと思うなら、ここでさよならだ。
正直、時間がないからね」
あっさり塩味の切り替えしに、予想の斜め上を射貫かれてしまった。
犯罪者を信用するというのも、警察としてどうかという気がまだ塊として残っているからな。
同じ犯罪者でも、レイとレオとでは月と鼈・・・とまではいかないまでも、差は間違いなくある。
僕は、突き進んでいいのだろうか―――
「津田君の言いたいことはわかる。
しかし、今の彼は少し違う。
不本意だが、ここは信じてみよう」
こそっと耳打ちをしたレイは、振り返って僕の目を合わせず、真っすぐ廃ビルへと入っていく。
レオとレイが並んで入っていくのを見て、何とも言えない気持ちで押しつぶされそうになっていた。
わからない・・・わからないんだ。
それでもレイがそうと決めたのなら、今はそうするしかいのか。
居た堪れない不器用な剣山を心に抱きながら、僕は2人の後を追う。
薄暗い場所と縁があるのか、行く先行く先がこればっか。
それ故、僕は懐中電灯を常備している。
といっても、小型のだけど。
レオも小型の懐中電灯を、宮川さんは携帯電話のライトで辺りを照らす。
廃ビルの入口は金属の細かい廃材が散らばっており、誰かがいる気配もない。
「本当に、いるのか?」
「間違いない。
アイツの性格からすると・・・こっちだ」
しれっと言っていたが、レオは『アイツ』と言った。
アイツってことは、犯人のことだろうか。
苦笑いして言う様を見ると、どうやら知り合いのようだが。
レオについて歩くと、どんどんどんどん地下へと向かっていく。
まるでRPGの世界に入った気分。
ここで気になったのは、道中に誰もいなかったことだ。
もしここがアジトだとしたら、下っ端の1人や2人いるのが筋なのだが。
360°見回してもだーれもいない。
それが返って不気味なのだが―――
「妙だな・・・誰もいない」
レイも気付いたようだ。
潜んでいる気配もなく、内心レオを疑い始めてきている自分を、何となく感じる。
「もしかして、僕が君たちを貶めているとか思ってる?
だとしたら、それはないよ。
まあ、もうすぐわかるから」
軽い感じ、ホントにフランクに伝えるところは、ますます怪しいわけで。
階段からのコンコンが響く、結構降りてきたけど人っ子一人いない。
そして僕たちは、地下の扉の前に来ていた。
ついていった先には、怪しげな扉―――
「・・・もしかして、ここ?」
いかにもな扉を開ける・・・と思っていた僕は、正直愚かだった。
いや、愚かだったのだろう。
バゴン―――物凄い音を立てて扉が開く。
目の前で見ていた僕は、ただただ唖然としていた。
レオは、ポケットに手を突っ込みながら右足で扉を『蹴破った』のだ。
格闘術をやっていたのだろうか、蹴った扉は開いて壁に当たった後、無残にも金具が外れて床に倒れる。
とりあえず彼は・・・味方―――なんだよな?
「おーい出てこーい、いるんだろー?」
声を張って誰かを呼んでいる。
僕たちはライトを当てているが、どこまでも真っ暗で何も掴み取れない。
「―――相変わらず、騒がしい人ね」
かすかに聞こえたのは、女性の声。
ただ、その声と空間の奥から感じるオーラは、尋常ではない。
唐変木な僕でさえ、この背筋から迫る鳥肌モンの悪寒に包み込まれる。
近くにいた宮川さんも感じていたようで、僕の2倍以上は体感していることだろう。
「おーいたいた、随分探してたんだぜ」
奥から現れた姿は、ローブを全身に纏った人間。
その上で怖いのは、それが黒ではなくかなり明るい紫だということだ。
何このラスボス感―――
「あら、情熱的ね。
デートのお誘いかしら」
「寝言言ってんじゃねーよ―――」
『―――エリザベス』
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




