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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第四章 ~ 呪いの絵画 ~
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調査ファイル 038 [遠回りの答え合わせ]

―――帰ってきました。

か、帰ってきたって思っちゃダメですよ、これも仕事ですから。

参ったな、日本にある絵を捜すのに海外くんだりとは、これ如何に。


くったくたの身体にムチ打って、一度事務所へ戻ってきた4人。

これからどうするかをレイから聞く他、状況整理もしなければ。


「それで、絵画の在処は?」


そう、一番気になるのはそれだ。

当初の目的だからな。


「さっきも言ったが、確証はない。

だが、あの手紙にはヒントが書かれていたんだ」


「あの古ぼけた手紙か。

所々掠れてたけど、ただの文通でしょ?」


これといって目立ったことは書いてなかった。

何かの暗号にしても、僕にはさっぱりなわけで。


「いや、あれはれっきとした暗号文だ。

津田君は言ったよな、『何かの言葉に置き換えてる』って」


そういえばそんなことを言ったようなそうでないような。

そりゃあまあ暗号だもの、置き換えるわな、普通は。

レイは相変わらずの冷たい刃のような目をし、手紙について話し出す。


「まず最初に気になったのは、『贈り物』という言葉だった。

フランス語で『贈り物』はcadeauカドー、またはキャドーと読む。

そしてこれを英語で言うと、何て呼ぶかわかるか?」


贈り物か、その英単語ならわかる。

そう思った矢先、ここぞとばかりに春香ちゃんが手を挙げて声を上げた。


「わたしわかる!Giftギフトでしょ!」


「正解だ。

さすがは探偵2号、素晴らしいぞ」


エヘヘと可愛らしく笑う彼女を見て、微笑ましい表情を浮かべるレイ。

そしてすぐに元の目つきへと戻る。


「そう、『贈り物』は英語でGiftギフトと読む。

しかし、Giftには『贈り物』という意味の他にもう1つ、別の意味を持っている」


「別の意味・・・?」


すると今度は優希が声を上げる。


「あ、それってもしかして―――」


「優希、わかるのか?」


「うん、前に大学の講義で聞いたことがある。

Giftという単語はドイツ語にもあるんだよ。

英語では『贈り物』という意味だけど、ドイツ語では―――『毒』」




毒―――!?

所謂(いわゆる)Poisonポイズン』ってヤツですか?

ってことは何か、差出人は受取人に毒を送って、殺そうとしてたってことか?

ならあの一文は、皮肉って書いたわけか・・・

だとしたらあの手紙、相当恐ろしいものだぞ。


ふと左を向くと、どこから取り出したのか、優希は辞書を引いていた。

ペラ、ペラ、と(めく)った(のち)、開いた項目を僕に見せる。

『Gift』と書かれたそこには、『毒』という訳が乗っていた。

本当だったのか―――


「じゃああの遺体は―――」


「手紙の差出人が殺したのだろう、毒殺で。

手紙と同時に送った飲食物を食べたのか。

或いは、毒が塗られた『何か』を触り、それを何らかの理由で体内へ摂取してしまったのか」


なんという―――

古くからの友人に殺められるとは、如何ともしがたい。

しかし、動機がない。

何が理由で彼へ手を掛けたのか。

そしてこの殺人と絵画に何の関連性があるのだろうか。


「でもさ、レイ。

この殺人、捜している絵画と何の関連性があるんだ?

それに、手紙の暗号がそれだけだったら、とんだ時間の無駄になりかねないぞ?」


冷たい目のまま、フッと笑う。

まだ何かあるのか、あの手紙に。


「―――まだ続きがある。

手紙には、差出人自身を『教師』と称していた。

しかしそれは差出人のことではなく、ある人物を指しているんだ」


自分の事ではないと?

手の掛かる生徒を持っているとか、まるで軽い教員の愚痴のような感じに捉えたんだけどな。

だったら誰の事を言ってるんだ?


「恐らくこの『教師』というのは、キリストを暗示していると思われる」


「キリスト?

なんでキリストがここに出るの?」


突然の答えに、僕はビックリした。

絵関係ないじゃん、と思いながらも、レイのことだからきっと何か考えがあるのだろう。


「正確には『神』といった方がいいだろう。

そして神に仕える者を、一般的に何という?」


「神に仕えると言ったら・・・あ!」


ここでピーンときた。

そうか、それで―――


「わかったようだな。

そう、『天使』だ」


天使は神に仕える従者で、主に人々に教えを説き、死後の魂を正しく案内すると言われている。

宗教によっては解釈の違いがあるものの、キリスト教ではだいたいそんな感じに書かれている。

因みにこの知識は先輩の受け売りです。

変なとこで役に立つな、先輩の知識。


「教師が『神』とするならば、生徒は『天使』。

そして天使といえば―――」


「そうか、北上が言っていた―――」




「ああ、どんな絵かは知らねーけど、名前なら聞いたことあるぜ。

たしか・・・『天使の歌声』だったかな」




『天使の歌声』・・・奴はそう言っていた。

でもこれだけだは、在処はわからず仕舞いだ。

クロワッサンの1層に過ぎない、内面もすっかすかのところを見ると、現状がどれだけ雲の中か。


「これも私の推測だが、『教師』という言葉は、三波さんが見せてくれた絵の作者も示しているのだろう。

となれば、『生徒』という言葉は彼が描いてきた作品と捉えることができる。

そして『未だに私を好かず』という部分は、彼の作品の中でも曰く付きか何かの『訳あり』のものを暗示している。

『天使』、『訳あり』・・・これらの言葉から導き出されるものは、1つしかない」


「―――例の絵画。

でも待って、だったら在処は?

札川にあるんでしょ?」


「・・・神に仕える天使は、神のところに居続ける。

こう言えばわかるか?」


神のいるところと言えば、神社・・・いや、それはない。

神は神でも、あっちは天照様やゴーダマ様などの方々だ。

ではキリストのいらっしゃる場所か。

キリストのいらっしゃる場所・・・キリスト・・・キリスト・・・


僕が考えていると、右側からひょこっと顔を出す優希。

ふわっと香るシトラスの匂いが、煩悩を呼び起こしそうだ。


「それって、もしかして教会?」


「―――そうか、教会!

あそこならキリストのステンドグラスや銅像がある」




僕たちは、要約手掛かりを掴んだ。




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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