調査ファイル 037 [2人だけの秘密]
「ひ、人の骨―――!?」
かなり月日が経っているものだった。
年齢はおろか、性別すらわからない。
拡散していたところを見ると、横たわって亡くなったわけではないようだ。
頭蓋骨がこちらを見ているような感覚に襲われて、少し気持ち悪い。
「どういう・・・ことだ」
「わからない。
だが、あの絵が関係しているのは間違いないようだな」
そして、レイはテーブルの方へ視線を送る。
あのカバン・・・何が入っているのか。
僕は春香ちゃんと優希を部屋の奥へ入らないよう、入口付近に留まらせるようにした。
こういったものは、見慣れていない一般人が見たら、トラウマになりかねないからな。
「では、開けてみましょうか」
生唾を1回、音を立てながらも飲みこむ。
まさか、凶器なんて入ってないだろうな―――
ガチャリ、鞄を開ける。
アタッシュケースのように開いた中には、色々なものが無造作に入れられていた。
衣類が多い様だが、レイはあるものに目を付けた。
左手には、色褪せた古い紙が1枚、握られていた。
「何だそれ?」
「手紙のようだな。
所々霞んでいるから、全文はわからないけどね」
かなり年季の入ったその紙には、日本語ではない異国の言葉で何か綴られていた。
正直、パッと見呪文というか、いたずら書きというか、そういう風にしか見えない。
知識なきが故か、何とも・・・
「内容わかる?」
「フランス語のようだな。
どれ―――」
スラスラと読み上げるのは、フランス語らしい。
洋立ちの顔だとは思っていたが、まさかここまで語学に特化していたとは。
ホントに日本人か、彼女は・・・?
読み終えた後、咄嗟に質問を投げ掛けた。
「なんて書いてあったの?」
「ふむ・・・」
お久しぶりです、ご機嫌如何でしょうか。
私は教師になり・・・
しかし、ある生徒は未だに私を好かず・・・
悩みもありますが・・・
・・・・・・協力して・・・・・・・・
そうそう・・・の為に用意した贈り物、気に入ってもらえたでしょうか?
次は・・・で逢いましょう。
「なんだその手紙。
旧知の人に出した手紙?」
「恐らくな。
だがこの『贈り物』という部分が気になる」
贈り物―――
普通ならお歳暮やお中元を思い浮かべるが、イギリスではそういう文化はあるのだろうか。
仮にそうでないとしたら、誕生日とかそんな感じかな?
受取人へ送ったものなんだろうけど、それが何かという記述はないし、第一この2人の関係もイマイチわからず仕舞いだ。
「こうやって手紙を送るっていうことは、結構親しい仲なのかな?」
「当時は電子メールがないから、こういった手紙を送るのは当たり前の時代だ。
決して親しいから手紙を出したということではない。
だが、『久しぶり』とあるだけに、少なからず知り合いだったようではあるな」
「だとして、それがこの遺体と何の関係が―――」
仮に遺体の正体がこの手紙の差出人だとして、受取人がこの屋敷にやってきて殺害を―――
いや、それは考え過ぎか。
手紙の内容からして殺害の動機がわからないし、時間が経過し過ぎているから色々なことが欠落し過ぎている。
せめて、何かもう少し手掛かりがあれば。
・・・そうだ、遺体をもっとよく見てみよう。
致命傷だけでもわかればいいのだが。
箱の中から頭蓋骨を取り出した。
まず骨だけで見れるところといえば、ここだろう。
頭を殴れば、陥没するか穴が空いている筈だが・・・
「・・・ビンゴ」
頭蓋骨には陥没した箇所があった。
恐らく犯人は鈍器か何かで殴って、この人を殺害したのだろう。
凶器の特定は難しいけど、犯人はこの鞄の持ち主で間違いないな。
「どうした、津田君」
「この遺体、頭蓋骨に陥没痕があった。
恐らく犯人はこの屋敷にやってきて、鈍器のようなもので殴って殺害したんだ。
そしてこの箱の中に閉じ込めて、ここを後にしたんだ」
「なるほど。
ではこの鞄は?」
「犯人が置き去りにしたんだと思う。
どうせ足が付かないと踏んでね。
手紙の内容からして、差出人に逢いに行くのを装ったんじゃないかな。
そして所持していた凶器で―――」
考え込むレイ。
珍しく僕が推理したのにも関わらず、驚く様子もなく無言で考えるポーズを組み俯いたままだ。
なんか悔しい。
「どう、辻褄は合ってるでしょ?」
冷静な眼差しは、冷え切った弾丸のように―――
「不自然すぎないか?
凶器を持参したなら、鞄に隠して持ち込み、鞄に隠して持ち帰るはずだ。
その鞄をむざむざと置いていくものだろうか。
それに、手紙の意図もよくわかっていない」
ワン、ツー、フィニッシュッ!!
もうやめて、僕のライフは残り1だ。
慌てて弁解するが・・・そこには既に威厳など欠片もなかった。
というか、端からない。
「ほ、ほら、アレだよアレ。
手紙をやり取りしている人にしかわからない暗号みたいな。
何かの言葉に置き換えてる的な―――」
刹那、レイの表情が変わった。
稲妻が走ったように、すぐさま鋭い目つきになる。
どうやら、また何かわかったらしい。
「暗号・・・置き換える・・・天使・・・」
「レイ、何かわかったのかい?」
「確証はない。
だが、試してみる価値はある」
糸口を見つけたようだ。
しかしこの遺体はどうするつもりだろうか。
まさかこのまま闇に葬るつもりじゃ―――
「ここの件については、イギリス警察に任せよう。
私たちはこれから日本に戻る。
推理が正しければ、絵画の場所はあそこだろうな」
そうか、よし行こ―――え、今何て言った?
もしかして『日本に戻る』って言った?
そんなバナナ、聞き間違えだよな・・・
「レイちゃーん、日本帰るのー?」
「ああ、すぐに出発しよう」
「わー、お姉ちゃん大胆」
うっそぴょん、マジかよ。
滞在時間1時間ちょいだぞ、本気か?
旅費こそ経費で落ちるけど、こんな短い調査ってあるかよ・・・
僕はうな垂れながら、部屋を出ていくレイたちの後をついていった。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。