調査ファイル 034 [奈落への誘い]
皆の者、紙とペンをお持ちだろうか。
まず紙に円を書いてもらいたい。
そして円内の上部に点を2つ、最後に点の下に頂点を上にした三角形を書いてほしい。
すると顔のようなものが出来たであろう―――出来たよな?
これは何かというと、今の僕の表情だ。
何でそんな表情しているかって?
そりゃあ勿論、唖然呆然としているからで。
しかもただ呆けてるだけじゃない。
只今、高度15000mで朽ち果てておりまーす。
というのも―――
「い、イギリス!?」
「はい、イギリスです。
イングランド南部の海岸沿いではないか、と私は推測しております」
「イギリスか・・・。
よし津田君、2人を連れてイギリスへ向かうぞ」
―――なんてな事がありまして、飛行機に乗って5時間揺られております。
あと7時間ちょい・・・気が遠くなりそうだ。
「・・・津田君?」
「ん、どうした?」
「いや、さっきから呼んでいるんだが、返事がなくて」
何ということか、レイに心配されていたらしい。
僕としたことが。
しかし、札川へ来る前にビザ取っといて良かった。
まるで今日の事を予見していたように、取っとけ取っとけと煽られていたからな。
先輩、今回の事だけは一応ミカヅキモレベルで感謝しています。
「・・・津田君、またボーっとしてる。
本当に大丈夫か?」
そう言って僕の顔を覗き込む。
潤った綺麗な瞳が、目の前で少し揺らいで見える。
いつかのテレビ番組の20点満点のゲージじゃないけど、徐々に徐々に顔色が上がっていく。
案の定20点満点を迎え、慌ててそっぽを向いてしまった。
「だ、大丈夫だよ。
それより寝よ、寝られるうちに寝ないと、現地で眠くなるよ」
話を切るのが強引過ぎただろうか。
少し、悪いことをしたかもしれない。
目を少し瞑り、暗闇に包まれた後、これ以上考えないようにしようとしていた。
気付けば、飛行機はイギリスに着いていた。
「着いたー!」
「イーングリーッシュ!」
「イングランドって結構遠いんだな・・・三波さんの話、もう少し聞いておけばよかった」
「さて、行こうか」
三者三様ならぬ、四者四様。
優希と春香ちゃんはいつの間にか意気投合していたようで、肩を組んで何やら喜び合っている。
美術館と飛行機で何があったのやら。
ともあれ、疲れた体にムチを打って、海岸線を目指すことに。
電車に揺られ、バスに揺られ、最後は歩き。
頬を撫でるような風を受けながら、その美しい景色を目に焼き付けながら進む。
札川も自然はあるものの、イギリスの風情も悪くはない。
「・・・着いたようだな」
「ここは―――」
―――断崖絶壁。
日本ではよくある2時間ドラマのラストに登場しそうな崖だ。
まあ緑が見えるだけ、まだマシか。
それにしてもこんな危なっかしい場所、本当に何かあるのか?
「あれ、アッキーあそこ!」
優希が指さす方向に、洋館のような建物があった。
いや、この場合洋館という言葉は正しいのだろうか。
外国で洋館・・・まあいいか。
ともかく、僕たちはそこへ向かった。
築20~30年は経っているであろう、古い洋館がそこにはあった。
草が外観を覆い、まるで手入れがされていないようなその佇まいは、非常に不気味なものである。
「なんだここ・・・使われていない別荘かなんかか?」
「ふむ・・・妙だな」
「お姉ちゃん、なんか怖い・・・」
「大丈夫大丈夫!私がいるから!」
シリアスな津田・黒川チーム、コミカルな立華・神山チーム。
僕はコミカルチームのおかげでどうにか気を持ちなおせそうだ。
ってか、春香ちゃんすんごいビビってんのにコミカルかよ。
洋館内部はガラスが散らばり、スタンドやクローゼットなどは倒れ、カーペットもかなり黒ずんでいる。
人のいた形跡こそあるものの、それは数十年前までのもの。
気味が悪い、そう思いながらも、札川美術館で撮ってきた絵の写真をもう一度見返す。
「レイ、この絵の場所ってここで間違いないよな?」
「ああ、しかし―――」
手掛かりがない。
まあ常にないようなものだが、イギリス組んだりでこれは流石に・・・
「この絵には、洋館が描かれていない―――」
「ってことは、描かれた時にはなかった?」
「可能性はある。
もしかしたら、ここではないのかもしれない」
場所を間違えたのか。
同じ海岸線沿いでも、ここから少し離れたところという線もなくはない。
また・・・歩くのか。
「それじゃ、別の場所へ―――」
「―――あれ?」
優希が不思議そうに言い出した。
僕の後ろの方で彼女はしゃがんで何かを見ている。
すると、何か物音がした。
ガコン、と。
自動販売機で飲み物を買った時に鳴る、取り口に缶やペットボトルが当たるあの独特の音。
それをノーマライズで音をでっかくしたような感じに聞こえた。
刹那―――
「あっ・・・」
その一言を聞いて間も無く、優希は消えた。
いや、消えたわけじゃない、床が抜けたんだ。
モノマネしたわけでもないのに、奈落へ放り込まれてしまったのか。
「優希っ!!」
叫んでも、彼女へは届かない。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




