調査ファイル 033 [綺麗な百合には呪いがある]
館長は、扉を開ける。
鉄製、一見とても頑丈で重そうだが、実際重いのだろう、凄い踏ん張りながら開けている。
慌てて僕も協力しながら、少しずつ扉が開く。
完全に開いたそこは、完全に真っ暗だ。
階段には辛うじてライトこそあったものの、ここには光そのものがなくなっている。
何も見えない、何も見えない。
「今電気を点けます。
少々お待ちください」
そう言って館長は電気を点ける。
刹那、僕たちは・・・特にレイは、驚愕した。
「な・・・何だコレは」
冷たい空気を張り巡らせた部屋には、大きなテーブルが1つ。
驚くべきはそのテーブルではない。
部屋の壁一面に掛けてある、『ソレ』だった。
「これは―――武器ですか?」
「ええ、しかしこれは贋作です。
西洋の歴史的財産を模して作られたもので、殺傷能力はありません」
殺傷能力がないったって、武器が並んだ部屋を目にしたら、誰だってビビるよ。
まるで処刑場だな・・・
流石のレイも、これには驚くよな、うん。
恐る恐る部屋に入ると、テーブルの上に布が掛けられている。
ただならぬ雰囲気が、大嵐のように空間を支配している。
「三波さん、これは・・・?」
「これが、お二人に見せたかったものです」
そう言った刹那、館長は布を徐に捲る。
バサッと舞った布に意識が集中しそうなところだが、その下にあったブツに目が行ってしまっていたのは、言うまでもない。
ちょっと目を覆ってしまったのだが、ゆーっくり目を開けて、確認を取る。
額縁が、そこにあった。
大きな麦わら帽子を被り、白いワンピースを着た女性の後ろ姿が描かれている。
「この絵画は―――」
「これは、かなり昔ある方が所持されていたものです。
最初は綺麗な絵だといって家に飾っていたそうですが、暫くしてご主人のご子息が不審な死を遂げたそうで。
悲しみに暮れる間も無く、今度はご婦人が事故で亡くなったそうです。
その後も立て続けに不運が続いたのを不審に思い、この絵が原因と判断して、この美術館へ預けたそうです。
すると、それから悪いことはピタリと収まった・・・と、私は聞きました」
つまり、これは曰く付きの絵ということだ。
捜している絵とは違い、こちらには『呪い』が施されているようだ。
宝の在処を示す地図とはエラい違いだ。
「でも捜しているのは呪いというか、寧ろ地図というか。
お宝を暗示するものではないですね。
共通する点と言えば、天使というところですかね」
「―――天使?」
―――刹那、三波さんの目つきが変わった。
何かマズいことでも言ったかな・・・
綺麗な女性だったからな、多分僕以外の男でもそう見えてしまうだろう。
ついつい言葉にしてしまったことに、若干後悔している。
まあ・・・ね。
「あー、この女性の場合は比喩表現ですけどね」
「・・・そういうことでしたか。
恐らくお二人が捜していらっしゃる絵は、この絵の作者と同一人物です」
「同一人物!?」
僕たちはハモって声を上げた。
手探りでまさかの情報を手に入れたんだ、無理もない。
「何故それがわかるんですか?」
「以前この絵を見た方が、このような事を仰っていました。
この絵の女性は、後に天使となり・・・どうとか。
しかしそれだけではありません。
この絵にはあるメッセージが隠されています。
絵の女性が立っている場所は、実際にある場所なんです。
そして女性が持っている鞄、ストライプ状に色が入っていますよね。
この色を調べたところ、以下の色だったことがわかりました」
懐から出したのは、1枚の紙だった。
そこに書かれていたのは、色の名前だった。
赤、エメラルドグリーン、銀、珊瑚、琥珀、エジプティアンブルー、モーブ、エクリュベージュの8種類の色が書かれいてた。
赤と銀はわかるけど、それ以外はイマイチピンと来ない。
エメラルドグリーン・・・南国の海の色か?
「―――まさか!」
突然叫び出したレイ。
色の名前を見た途端、何かに気付く。
「何かわかったの?」
「これらの色を英語にして、頭文字を合わせてみて」
・・・とはいえ、僕は英語はからっきし苦手なもんで。
それを見越してか、話を続けて読み上げる。
すみませんねえ、知識なくて。
「赤はR、エメラルドグリーンはE、銀はS、珊瑚はC、琥珀はU、エジプティアンブルーはE、モーブはM、エクリュベージュはEだ。
そしてそれらを繋げると・・・」
「R・E・S・C・U・E・M・E・・・
あ、『Rescue me』、つまり『助けて』!」
レイは頷く。
ヘルプミーと書かないという部分も、どうやら何か訳がありそうだな。
しかしこの絵は相当年季の入ったもの、今更助けに行っても遅いだろう。
そもそも何に対して助けを求めたのか、そして差し出し人は誰なのか。
そして何より―――
「三波さん、この場所ってどこなんですか?
実際にある場所、なんですよね?」
「はい。
ここへ行けば何かわかるかと思われます。
しかし日本からかなり遠い場所ですし、確認しようにも単身では足が折れますし・・・」
「ご心配なく。
手掛かりになるのであれば、労力は惜しみません」
三波さんはエラく驚いた。
自分でも成し得なかったことをやろうとしている人物を目の前にしているような。
本当の意味での破天荒を目の当たりにしているような。
そして反応も、当然のものだった。
「まさか―――現地に行かれると?」
「探偵は些細な事でも気になる性分でね、追及する為ならどこへでも向かいます。
それで、その場所とは?」
レイは問う。
その真剣な眼差しを受けて、彼女の本気具合を確認したのだろう。
観念したような表情をし、その重い口を開いた。
「―――イギリスです」
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。