調査ファイル 032 [幻を追いかけて]
探偵というのは、常にノーヒントの状態から調査に当たるのだろうか。
これが普通なのだろうか。
僕にはわからない、刑事とはいえこの手の事はよーわからん。
そして他人事ではなく、これは僕が関与している探偵事務所の女探偵の事でもあるのだが―――
「では、行こうか」
夏休み最終日の海水浴場で身の入った貝を見つけるみたいだ。
無い知恵を絞り出して考えてはみるが、手掛かりという手掛かりは『この街にソレはある』ということだけだ。
さあ始まりましたショータイム、今宵は何からいきましょうか。
「行くって、どこへ?」
無垢に問う優希。
まあそうだよな、この街のどこから当たればいいのか。
とはいえ、絵を探すなら美術館がベターだよな。
次いでどっかの展覧会や展示会、あとはお偉いさんの家とかそういうとこだろうか。
「まずは美術館とかどうかな?
絵に関してならそこで聞いた方が、何か手掛かりがあるかもしれないし」
「この近辺の美術館は札川美術館、あとは街の方に―――」
刹那、顔色が曇る。
驚いたかと思えば、急に元気がなくなっていた。
そうか、あそこはレイと初めてあった場所か。
怪盗時代、曰く付きの絵を盗んだんだっけな。
たしかそん時の絵も、有名な画家が描いた絵だった。
・・・まさかな。
ここで茶々入れたらこの先支障来すだろう、一応すっ呆けておこうか。
「レイ、どうかした?」
「・・・あ、いや、何でもない。
行こう。」
ミジンコレベルに気まずい空気を纏い、僕たちは美術館へ向かった。
まずはここから近い、札川美術館へ。
因みにもう1件は街中にあり、札川で一番大きい美術館である。
車を持っていない僕は、優希の運転する車で向かった。
脳内をダウジングマシンで探せば出てくるわっかりづらい場所で、優希がいてよかったと思ってしまった。
アッシー認定してしまっては、あまりに失礼だからな。
暫く走らせると、目の前に大きな建物が見えてきた。
札川美術館―――手掛かりの1つになるかもしれない場所だ。
入場料を払い中へ入ると、様々な展示品がある。
壺、剣、重火器、そして絵もある。
「では、担当者か誰か捜そうか」
「そうだね。
優希と春香ちゃんはここで待ってて。
何なら、少し見てきてもいいよ」
そう言って、僕とレイは館長を捜しに向かった。
彼に聞けば、恐らく例の絵に詳しい人を紹介してもらえるだろう。
受付に戻り事情を話すと、今回はすんなりと通してもらえた。
いや、以前があまりにもガンコだったのだろう。
受付嬢の1人に案内されて、部屋に通される。
『STAFF ONLY』・・・そう書いてあった。
更に中へ入ると、館長室と書かれた扉が、そこにあった。
「館長、お客様です」
ノックをして受付嬢がそう言うと、中から男性の声が聞こえる。
『通せ』、そう言われて、彼女は扉を開ける。
社長室のような部屋に、館長はいた。
「やあ、お客人とは珍しい」
少し優しそうなおじさんのように見える。
扉を閉めると、ソファーへ案内される。
僕たちはそのまま座ると、館長は向かいに座る。
自己紹介をすると、続けて館長も自己紹介を始める。
「私はここの館長で、三波 一郎と申します。
それで、私にお話とは?」
「はい、実は―――」
レイは絵に関することを話す。
突然こんな話をされたら、変に思うのは当たり前、『狂言こいてんじゃねーよ』と追い返されてしまう。
しかし彼は違った。
なるほど・・・と言い、真剣な表情をこちらに向けている。
というのも―――
「私もその話は聞いたことがあります。
しかし見つけたという報告もなければ、現存しているのかどうかも怪しいくらいの絵画です。
残念ですが、私のところには存在しません」
さすが館長といったところか、やはりそういう話を知っていたとは。
しかし、ここにはない。
そう簡単に見つかるような代物なら、奴も僕たちに依頼はしないだろう。
「そうですか・・・。
僕たちはそれを捜しているのですが、何か手掛かりになるようなことをご存知でしょうか?」
「残念ながら。
私の友人の考古学者も、遺跡の発掘と同時に絵画や美術品の捜索を行っているのですが、その絵に関しては何もわかりません」
今回の依頼は、幻を追いかけているようなものだ。
実体のないものを必死に手探りしている。
せめて何かヒントがあれば・・・
「絵に金銀財宝の在処が描かれているって・・・本当なんだろうか」
不意に呟いた言葉に、館長が反応した。
「金銀財宝・・・?」
「え、ええ。
地図なのかどうかはわかりませんが、そういう噂があるようで―――」
何やら思い詰めた様子で、考え込んでいる。
ひょっとしたら、何か思い当たることがあるのだろうか。
僕もそう考えていたのだが、どうやら読みは当たりだったらしい。
「・・・お二人とも、こちらへ」
そう言って、館長は立ち上がった。
そして部屋を出て、どこかへ向かっていく。
僕たちは慌てて館長を追いかけると、立入禁止が書かれた扉を開ける。
その奥には―――階段だ。
光のあまり通らない闇への行路を、緊張しながら歩いた。
階段を降り切ったそこには、再び扉があった。
「お二人に、見せたいものがあります」
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




