調査ファイル 030 [悪魔からの依頼 前編]
久々の休日を得た僕は、ベッドの上で横になっていた。
寝巻のままで、テレビを点けながら。
探偵業が思いの外忙しかったのは、恐らく以前起きたコンサートホールでの殺人事件がきっかけだろう。
どこで嗅ぎ付けたのか、レイが事件を解決したという情報を入手し、新聞紙一面にこれでもかと報道していたのだ。
こんちきしょうめ、おかげで休日返上で依頼をこなさなきゃならなくなったんてんだい。
幸い、事件の依頼が1つもなかった。
もしあったら、それはそれはめんどく・・・大変だったと思う。
昼間にやっている情報番組を見ながら、マヌケ面をしながら呆けていた。
この番組、学生時代以来見てなかったな、ざっと5年ぶりだろうか。
あー・・・暇だ。
忙しかったら忙しかったでなかなか辛いものだけど、暇になったら暇になったで辛いもんだ。
チャーシューでも作ろうか。
それとも、思い切ってどっか出掛けてみるか。
「さて、どうしたものか」
とりあえず起きよう・・・そう思った時だった。
枕元にあった携帯電話が鳴り出した。
丁度いい、出掛けるきっかけが出来そうだ。
何となしに、電話に出てみた。
「はいもしもし、津田ですが―――」
「黒川だ。
休暇中悪いが、事務所に来てもらえないだろうか?」
電話の主はレイだった。
依頼は春香ちゃんと2人で回すと言っていたけど、やっぱり厳しかったのだろうか。
まあ、片や小学生だしな、無理もない。
「わかった、今行くよ。
少し待ってて」
電話を切った僕は、割かしのんびり着替えながら支度する。
一応・・・スーツで行くか、依頼の可能性が高いし。
支度し、戸締りをした後、部屋をあとにする。
今日は非番、署の車は使えないだろうな。
仕方ない、レンタカーでも借りるか。
マンションを出て、向かいの横断歩道を渡ろうとしていた時だった。
右側から車がやってくる。
普段ならスルーしていたのだが、乗っていた人物が人物だった為に、無視どころか軽くあしらうことが出来なかった。
「見つけた、アッキー!久しぶりじゃん!」
お忘れの方もいらっしゃるであろう、なので今一度確認しておく。
僕の名前は『津田 明彦』だ。
両親を除き、皆は苗字で呼ぶ。
しかしそこをフランクに、必要以上に馴れ馴れしく『アッキー』と呼ぶのは、記憶の中では1人しか思いつかない。
ということは、奴か―――
「優希・・・!」
神山 優希、僕の幼馴染だ。
幼稚園の頃に知り合い、10年以上共にしてきた、所謂『腐れ縁』ってやつだ。
前述の口調といい、とても明るい性格で物凄くフレンドリー。
携帯電話の電話帳には、500件以上の電話番号及びメールアドレスが登録されている。
ある意味、バケモノだ。
地元の大学へ進学したのを最後に会っていなかったのだが、何故今ここに・・・?
「なんで優希がここに!?」
「アッキーの母ちゃんに聞いたよ、異動でこっちに来てるって。
だから遊びに来た!」
遊びにって・・・相変わらずだな。
無鉄砲の鉄砲玉と言いますか、猪突猛進タイプと言いますか。
考えたら即行動がポリシーのようだ。
「あ、悪いけど、これから用事があるんだよ。
仕事の関係で―――」
「じゃあ送ってやるよ。
乗んなっ!」
とびっきりの笑顔で親指を挙げて腕を振る。
よくドラマや映画にある『座席に乗れ』というポーズだ。
そうそう、今頭の中に浮かんでるそのポーズだよ。
個人的にはクールなレディにやって欲しかったのだが・・・まあいいか、この際。
溜め息を吐き、苦笑いしながら助手席に乗る。
軽自動車じゃないところを見ると、どことなく懐かしく感じる。
セダンタイプの普通自動車か、優希らしい。
車を走らせながら、行先を問われた。
「それで、どこへ向かおうとしてたの?」
「探偵事務所だよ。
最近出来たとこなんだ」
予想通りの表情をなさった。
そりゃそうだよ、何でお前なんかが・・・って思うでしょうよ。
しかし僕が刑事だと告げると、優希は何となく納得したようで―――
「・・・そっか。
アッキー、刑事になったんだ。
ということは、事件の推理を依頼するんだね」
「んー・・・まあ、そんなところかな」
半分正解といったところか。
実際問題、今回の依頼者は寧ろその『探偵殿』なんだけどね。
ってこれじゃあ僕が探偵みたいじゃん。
まあ・・・ずっとレイの相棒やってきたからな、ある意味僕も探偵かもしれない。
頭の回転悪いし、結構鈍感だけど。
それからは、他愛のない話ばかりしていた。
地元の連中の話、馴染みの店の話、そして優希自身の話。
盛り上がった、それはそれはもう。
ここ時間を凍結してビンかなんかに閉じ込めておきたいくらいに、楽しかった。
ホント、そうしたかったよ・・・
―――なんでこんなに落胆しているか。
それは探偵事務所に着き、中で待ち構えていた『あいつ』を見てしまったからだ。
まーた厄介な事態になりそうだ。
というか、『厄介』を通り越して『恐怖』だよコレは。
事務所に着いた僕は、チャイムを鳴らす。
暇だったのだろうか、優希も着いてきていた。
まあ、事情は後々で話せばいっか。
とりあえず、レイの話を聞かねば。
間も無く、扉が開く。
スーツ姿のレイが、そこにいた。
ということは、やっぱり依頼か。
しかしその表情は、いつものクールなものではなかった。
どこか、助けを求めているような、何かに怯えているような・・・そんな風に思えた。
不思議に思いながらも、中に入っていく。
そして、それはいた。
「よう、ご無沙汰だな」
「北上・・・和宏―――!?」
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




