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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第三章 ~ 牙を剥く闇 ~
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調査ファイル 029 [交響曲第0番 - 沈黙 - Epilogue]

こうして、事件は幕を閉じた。

とんでもない動機を聞いてしまった僕は、現実の残酷さを改めて知った。

そう、人は誰しも『犯罪者になる』ということだ。

まさかこんな些細なことが殺人の引き金になるとは・・・

呆れるだろうけど、起きてしまったのもまた事実、この事件を僕は一生忘れないだろう。


楽屋を出て、会場の出口へと歩いていた。

やはりと言うべきか、レイは落胆していたわけで。

そりゃそうだよな、僕だって落ち込むよ、今回ばかりは。


「つ、疲れたね、レイは大丈夫?」


『元気出して』とはとても言えなかった。

だって出るはずないし、好きなアーティストが亡くなってるんだし。


「ああ、大丈夫だ・・・」


「そ、そうだレイ、あの時殺害現場に行って何確認してたの?

写真とキーホルダー探してたなら僕も手伝ったのに」


「いや、それはオマケだ。

本命は、あの部屋が防音かどうか調べてたんだ。

津田君に退室してもらった後、私は思いっ切り叫んだ。

しかし君の反応を見ると声は聞こえていなかった・・・ということは、あの部屋はチューニングルームだったというわけだ。

何故あの部屋で殺害されたか、わかるか?」


あれは田辺さんが殺害するタイミングを見計らって、個室に籠ったのを好機として犯行に及んだ・・・ってことでしょう?


「これも私の推測だが、田辺さんは榊原さんに心配させない為に、『無意識』にあの部屋を利用したんじゃないかな。

もし防音室以外のところで殺害した場合、第1発見者が彼女になってしまう。

そうなると彼女を大きく悲しませるだけでなく、心に大きな傷を負わせてしまうと思ったのだろう」


叫び声を聞いて駆けつけたら人が死んでいた、となれば、結構トラウマものだしな。

死体に慣れていないと、悪い意味でグッとくるものもあるだろうし。

・・・というか、死体に慣れるって何だよ、不謹慎だな僕。


「ところで津田君、客席にいた時、私に何か言おうとしていなかったか?」


不意打ちを喰らってしまった。

よく憶えていたな。


「僕がトイレに行った時、個室に不審人物がいたんだよ。

電話で『開演したら始末しろ』とか何とか言っててさ。

それで出てきたところを職質したら逃げられちゃって・・・」


「ふむ・・・。

結果的に狙撃や射殺されたという報告がない以上、不発に終わったか、止む無く中止になったのだろう。

しかし、いずれその人は再び動き出すでしょう。

いずれ、ね―――」


レイは何かを臭わす様な言い方をした。

それはまるで、これから何かが起きるような・・・そんな気がする。

北上か、ケルベロスか、それとも―――




僕たちは警察署へ向かった。

今回の事件についての書類を提出する為だ。

結構量のある内容を目にして、骨が折れるねえこれは。

冷静に書類を書き始めるレイを見て、僕は更に落胆していた。


この時、僕たちはまだ知らなかった。

彼が動き始めたことを。

そして、新たな脅威がすぐそこまで迫っていることを―――







「―――余計なことをされたら困るんだよね」


暗く電気も点かない、倉庫と(おぼ)しき建物。

背筋良くスラッとして立ち尽くすのは、1人の青年。

その手には・・・銃が握られている。

見下ろすように掲げた銃口は、地べたに腰を抜かして座り込んでいる男性へと向けられていた。


「お、俺はただ指示されただけで―――」


「言い訳は結構。

誰の指示か知らないけど、邪魔する以上許してはおけない」


青年は怒っていた。

声は至って冷静だったが、その表面に隠されて表には見えない芯の部分は、真っ黒な炎を(たぎ)らせている。

触れた瞬間、全てのものを塵と化すような、異常な程の憎悪。

それは銃弾にも宿っていた、故に銃口は動くこともなく、震える男を睨みつけたままだ。


「た、頼む、撃たないでくれ!

何が目的だ、金か?情報か!?」


どちらにも反応しない青年は、引き金へと人差し指を掛ける。

カウントダウンはすぐそこまで迫っていた。


「俺の望みは1つ。

障害を排除する―――それだけさ」




覚悟は、いいか。




―――サイレンサーは非常に優秀だった。

外まで響く程の悲鳴は、赤子をあやす母親の如く、意図も簡単に(なだ)めてしまっていた。

跳ね返った雨粒は、青年のジャケットを紅く染める。


「最後の抵抗、というわけか。

まあいい、許してあげるよ、おじさん」


青年はジャケットに銃を仕舞い、そのまま脱いだ。

腕に持ち倉庫を出る、外は月明りが映える港の傍。

軽く深呼吸するその顔は、どこか晴れやかなものに。




「次に逢えるのを楽しみにしているよ、シュヴァルツ―――」




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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