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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第三章 ~ 牙を剥く闇 ~
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調査ファイル 027 [交響曲第0番 - 沈黙 - Part 8]

俺が秋元(あいつ)と出会ったのは、10年前に共演したヨーロッパのオーケストラだった。

ピアニストの世界一の称号を手に入れた俺は、同時に金と名声も手に入れた。

一方の秋元は実力はあっても、世界一でもなければ金も名声もない男だった。

住む世界が違う俺たちだったけど、オーケストラを通じて俺たちは仲良くなった。

気が合ったんだ、ただそれだけ。

音楽の趣向とか、食べ物の趣向とか、服の趣向とか、女性の趣向とか、そんなものどうでもよかったんだよ。

ただただ波長が合うってだけ、それだけで俺たちは唯一無二の友人同士だったんだよ。


「秋元、これから飲みに行こうぜ」


「あ、すまない、これからオケの練習があって・・・」


そう、あいつはいつもオーケストラの練習に明け暮れていた。

天才肌じゃなく、一般人で人一倍努力家だった秋元は、時間があれば練習練習、そればっかりだった。

そしてわからないところがあれば仲間に聞いたり、時に他愛無い話をしたり、そこからまた仲間が出来ていって・・・

あいつには友達が多かった、俺は友達は少ない・・・というかいないに等しかった。

今思えば、寂しかったんだよ、だから―――


そんな時、真理に出会ったんだ。

真理は秋元の在籍していたオーケストラのコンミスだったんだ。

秋元の紹介で出会った俺たちは、すぐに意気投合した。

秋元の時と同じだ、波長が合ったんだよ。

何をやっても楽しかった、バカやってはしゃいで、時に怒られて。

ホントに楽しかったんだよ。

でも、あの時―――




「なあ秋元、お前端とつるんでるんだって?」


「本当か?やめときなって、アイツと一緒にいてもいいことないって」


俺は、秋元がオーケストラの仲間と話しているのを聞いてしまった。

陰でこれでもかと悪口を言いふらしてたよ、それはもう鬼の居ぬ間にってやつで。

ただ、俺の悪口だけならまだ我慢できたんだ。

俺の、悪口だけなら、な。


「でもよ、端よりもあの女、何てったっけ・・・榊原?あいつの方がとんでもないよな」


「ああ、自分はヘタクソなくせに他人にあれこれ指示してくるんだぜ」


「耳もおかしけりゃ頭もおかしいってか」


あいつら、真理の悪口までしてたんだよ。

俺は友達が傷付けられるのが嫌いなんだよ。

自分はどうなってもいい、忌み嫌うなら勝手にしてくれ。

ただ、俺の家族や友達や仲間が陰で言われたり暴力振るわれたりするのは黙ってられないんだよ。

だから俺は罰を与えた、真理を悪く言った奴らを懲らしめたんだ。


泣きながら命乞いしてきたよ。

なら最初からそんなことするんじゃねえよって思ったけどな。

最後に秋元をシメようと思った矢先、事が発覚して俺はクラシック業界から追放された。

あいつらが告発したんだよ、それで一発レッドカードってわけだ。


荷造りをして日本へ帰るとき、真理が俺の部屋に来たんだ。

思い詰めた顔をしてさ。

俺は誤魔化したんだけど、真相を知ってたらしく、その場で泣いてたんだ。

耐え切れなかったよ、女の涙には。

その後俺と真理は付き合った、けど日本に帰った俺は真理と離れ離れになってしまった。

真理は必ず日本に帰るって約束した、だから俺も真理を失望させないように日本で頑張ろうと思った。

名前を変えて、再びピアノを弾いた、手が真っ赤になるまで弾き切った。

日本でも知名度がかなり上がってきた頃、奴が日本に来たんだよ。

そう、秋元が―――


何も知らないような顔してさ、俺に握手求めてきたんだよ。

『久しぶり』ってな。

その顔を見たとき、俺は怒りを通り越して感じたことのない黒い感情を覚えたんだ。

今になってわかったよ、あれは『殺意』だったんだ。

そして秋元と再び一緒に演奏しようって話になって、グリーンベックカルテットを結成したんだ。

丁度その頃、真理が日本に帰ってきてたんだ。

真理の笑顔を見たとき、俺の中の『殺意』は消えるどころか、どんどん膨らんでいったんだ。

その後、真理の後輩の山本を呼んで、4人でグループを組んだんだ。


暫く一緒に演奏してから、今日のコンサートの予定が決まった時、いよいよこの日が来たと感じた。

今日はな、秋元たちが真理の悪口を言っていた日なんだ。

事前に考えていた計画を実行するのはこの日しかないと思って、俺は行動した。


真理と山本がチューニングに向かい、秋元がチューニングルームに向かったのを確認して、俺はその部屋に入った。

あいつは屈託のない笑顔晒して俺に接するんだよ。

そんで聞いてみたんだ、あの時の事を。

そしたらあいつ、『憶えてない』って言い出したんだよ。

それで俺は頭に血が上って、あいつを殺した・・・と、思う。

―――正直、あれ以降のことはよく覚えていないんだ。

今でも俺の手には秋元を刺した感触がしっかり残ってる、だから確実にあいつを殺したのはわかるんだ。

でも、あいつが死にゆく様が、どうにも思い出せない―――

結果敵には上手くいって、秋元は死んだ、死んだんだよ。

死んだんだけど、俺の心には『嬉しさ』とか『喜び』とかの感情が沸かなかったんだ。




―――何でだろうな、ははは・・・




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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