調査ファイル 025 [交響曲第0番 - 沈黙 - Part 6]
容疑者の3人に声を掛け、大部屋の楽屋へと集める。
不機嫌そうな榊原真理さん、神妙な面持ちの田辺正一さん、不安げな表情を浮かべる山本恵美子さんの計3人。
この中に、秋元昇さんを殺害した犯人がいる―――
さて、全員揃った。
レイは誰が犯人だと思っているのか。
好きだった音楽家を疑うというのも、さぞかし辛いことだろうに。
そして、重い口を開いて、話し出す―――
「皆さんお揃いですね。
それでは、事件の真相を紐解いてきましょうか」
「・・・アンタ、一体誰なのよ。
さっきからずっと思ってたけど、なんで子供がウロチョロしてるわけ?」
そう言って不満を曝け出したのは、榊原さんだ。
そうか、ここにいる方々はレイのことを知らないのか。
一応、説明しておかねば。
「あ、この子は黒川レイといいまして、警察庁管轄の探偵をしています」
・・・苦笑いを浮かべてその場を取り繕ったのがいけなかったのだろうか。
3人共驚きを隠せず、榊原さんに至ってはあんぐりしている。
直後、弱火だった彼女にバケツ一杯の油をぶっかけてしまったようで―――
「ふざけないで!
こんな小生意気なガキが探偵?冗談じゃない!
ままごとやごっこ遊びじゃないのよ!人が死んでるのよ!
それなのにアンタは―――」
「―――だから、何ですか?
探偵が事件を解くのは間違ったことではありません。
それに、今そんなに捲し立てると、余計怪しく見えますよ。
・・・榊原、さん?」
不敵な笑みを浮かべ、冷静に言い返す姿は、とても18歳には見えない。
ましてやファンである人間が本人にする態度でもない。
正直怖いです、色んな意味で。
自分が犯人だと疑われかねないことを渋々理解した榊原さんは、沸々と怒りを露にしながらも口を紡いだ。
レイも1回だけ咳ばらいをし、話を続ける。
「―――では推理を始めます」
まず、開演まであなた方は、秋元さんと共にこの楽屋で待機していました。
チューニングまでの間、どうにか時間を過ごす為に各々色々なことをやっていらした。
榊原さんは衣装合わせ、田辺さんは喫煙、山本さんは読書といったように。
その後楽屋に戻り、チューニングまで待機していました。
そして時間になると、榊原さんがチューニングに向かわれました。
続いて田辺さん、次いで山本さんの順に。
最後に秋元さんがチューニングに向かわれましたが・・・そのチューニングを行う為に向かった部屋で彼は殺害されてしまいます。
この間スタッフは誰も立ち寄らなかった。
ということは、チューニングに向かい人目が付かない隙を見て犯行に至った、ということです。
―――レイは淡々と語る。
胸の奥に突き刺さる辛さの痛覚を堪えながら。
「チューニングルームで殺されたってどうして断定できるの?
ここで殺して運んだって可能性もあるでしょ。
例えば―――山本さんのように」
何を言うかと思えば、榊原さんは山本さんを犯人呼ばわりしだした。
あまりにも無理がある言いがかりに、僕は絶句した。
そりゃあ、だって・・・
「それは不可能です。
仮に山本さんがここで殺害したとしたら、部屋に血痕が飛び散っているはずです。
それに、遺体を別室に運ぶ際、一般的な成人女性が成人男性を運ぶのはかなり厳しいでしょう。
廊下に引きずった形跡、遺体から流れ出る血液が這ったように残るはずですが、それらもなかった」
「だ・・・だったら!別の場所で殺して、台車を使って運んだ―――」
「それも不可能です。
台車はステージの壁を挟んで裏側にある荷物置き場に行かないとありません。
しかもそこにはスタッフが多数いる、もしそこに山本さんが向かったとしたら、スタッフからの証言があるはずです」
・・・妙だ。
榊原さんは山本さんを犯人にしようとしている。
―――いや、そうにしか見えない。
自分が犯人だから、注意を反らそうとしているのか。
それとも、誰かを庇っているのか。
何にせよ、普通ではないことは確かだ。
唇を噛みしめて、再び言葉を紡ぐ榊原さん。
当の山本さんは、やはりと言うべきか、少し怯えている。
無理もない、凄い剣幕で捲し立てた上、自分を犯人に仕立てようとしたんだ。
場の空気が少し落ち着いたのを見て、レイは推理を再開する。
秋元さんが殺害されたのは、3人がチューニングを行っている時間だと思われます。
山本さんがチューニングに向かわれるまで、秋元さんは楽屋にいらっしゃった。
ということは、秋元さんがチューニングに向かい、別室に入ったところを犯人に殺害された、というわけです。
先程申し上げた通り、この部屋に血痕がありませんでした。
つまり、秋元さんがチューニングに向かった後、犯人が何かしらの理由をつけて部屋に入り、所持していた刃物で刺した・・・ということです。
「・・・では、犯人は一体誰なんですか?」
か細い声で山本さんは問いかける。
不安の重圧でかなり参っている様子だ。
榊原さんは先程より強張った表情、田辺さんは相変わらず神妙な面持ち。
僕は生唾を飲みこみ、レイの挙げる犯人の名を待っていた。
「犯人は―――アナタです」
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




