調査ファイル 024 [交響曲第0番 - 沈黙 - Part 5]
「レイ、犯人が分かったのか!?」
「ああ。
あとは、凶器と動機だけだ」
秋元さんを殺害した際に使用された凶器―――
鋭利な刃物ということはわかっているが、今のところ見つかってはいない。
仮にホール内に捨てたとした場合、まだどこかに残っているはず。
「でも凶器なんてどこにもなかったぞ?
楽屋も、現場も―――」
「いや、1つだけ探していない場所がある」
楽屋でも現場でもない場所・・・?
トイレもゴミ箱も探したけど、どこにもなかった。
あとは客席か・・・
「津田君、鑑識さんに頼んでここを調べてもらってくれ。
そこに、凶器はある」
そう言って、レイは『ある場所』を僕に教えた。
普通なら滅多に確認することがない、あるものだった。
それが置いてある場所を、レイは指示した。
鑑識さんに報告をし、僕たちは調律師の方に話を伺った。
田辺さんの供述通り、ピアノの調律に立ち会っていたようだ。
曰く、ピアニストたる者、調律に立ち会ってこそ一流・・・だそうだ。
そんなモンなのかねえ、音楽家というものはようわからん。
「津田君、現場に戻るわよ」
「現場?何で、犯人わかったんでしょ?」
現場に戻ると言い出したのには、正直驚かされた。
ここまで証拠が残っているのに、まだ何か拾うつもりなのか。
「証拠というより、確認よ。
念の為にね」
念には念を・・・か。
皮肉と言うべきか、妥当と言うべきか―――
現場に戻った僕たちは、部屋の内部を見回す。
秋元さんが殺害されたこの部屋には、遺体が運び出されたということ以外はそのままにされている。
血痕の飛び散った、凄惨な光景が、当時のまま。
天井を見渡すレイは、壁を見て、床を見て、もう一度天井を見る。
何度か繰り返した後、無言のまま壁をノックした。
奇妙にも思えるその行動が何を意味しているのか、僕にはわからなかった。
「この部屋―――」
2~3回ノックを試し、何かを考え始めていた。
この部屋に何か疑問があるのだろうか。
そもそも4人が集まっていたのは、いくつかある楽屋の内の1つだ。
この会場には楽屋が複数あり、殺害現場となったここも、その内の1つ。
内装は殆ど同じで、大部屋以外の部屋と同じようになっている。
因みに他の楽屋も事前に調べたが、証拠となるものは何もなかった。
「津田君、ちょっと部屋の外に出てもらっていいか?」
何か策があるようだ。
どことなくそんな表情を浮かべ、僕に退出を促す。
しかし、部屋の外に出て何をすればいいのか。
刹那、レイが出した指示は、『ただ立っているだけ』というものだ。
僕はカカシじゃないんだから・・・
指示通り、部屋の外へ出た。
扉を閉め、向かいの壁へ背を預け、腕を組みながら待つ。
レイのことだ、何かビックリドッキリな事ををするに違いない。
―――はずだった、しかし、何も反応がない。
廊下は静まり返り、オイフォンだけが響き渡る。
それはもう、コンサートホールだけに。
さすがにおかしいと思い、部屋の扉を開けようとした。
その時、僕がドアノブに手を掛ける前に、扉が開いた。
「・・・ん、大丈夫?」
それなりに強く開いた扉が、顔面へ直撃した。
軽く殴られたように地味に痛い。
声にならない声を上げ、レイにたんまを掛ける。
ちょっと待ってね、すぐに落ち着くから―――
少しすると、痛みが引いてきた。
何だか今日は運が悪い気がする。
事件終わったらお参りにでも行ってこようかな。
「―――それで、どうだったの?
何かわかった?」
ドヤ顔、というのだろうか。
目はクッキリとし、口角が上がり、自身に満ちた表情をしている。
なるほど、この時間は無駄じゃなかったのね。
「一体何をしたの?
探し物かなんかだったら、僕も手伝ったのに・・・」
その言葉を発した直後、レイは少し驚いた表情をしていた。
なになに、どゆこと?
「津田君・・・気付かなかったのか?」
気付くも何も、平穏だったよ。
廊下は静まり返ってたし、扉の前の光景も相変わらずだったし。
―――ということは、レイは部屋の中で『何か』したらしい。
その正体こそわからなかったものの、僕の目や耳が反応しなかったところをみると、これが事件の鍵の1つだということか。
「ということは―――」
「ああ、全てわかったわ」
―――鍵は、揃った。
「では始めましょう―――事件の真相を」
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




