表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第三章 ~ 牙を剥く闇 ~
29/129

調査ファイル 023 [交響曲第0番 - 沈黙 - Part 4]

扉の横には『グリーンベックカルテット控室』と書かれていた。

いわゆる楽屋というやつだ、ここに3人はいるのだろう。

本当なら、レイは喜々としていただろうに、そう思えない様子がこちらからも伺える。

レイの為にも、早く犯人を見つけなければ。


ノックをし、返事が聞こえた(のち)、扉を開ける。

鏡台の前に女性が1人、テーブルの椅子に座っている男性が1人、部屋の隅の椅子に座っている女性が1人、そこにいた。

ただならぬ空気を(かも)し出していたのは、言うまでもない。


「失礼します、警察です。

事情聴取を行いますので、お話を聞かせていただけませんでしょうか」


そういうと、鏡台の前にいた女性が睨みを効かせてこちらを見る。

あからさまに嫌そうな表情だ、これは。

それでも怯まず、まずはこの人から聞こう・・・そう思った。


「では、貴女からお願いします」


仕方ない、と言わんばかりの態度を取り、身体ごとこちらを向いた。

脚を組み、肘を突く腕の組み方をし、目は相変わらずギラッと。

・・・やりづらいことこの上なし。


榊原(さかきばら) 真理(まり)、ヴァイオリニストよ」


ゴミを放り投げるように吐き捨てたのは、自分の名前と職種だった。

ヴァイオリニストは、オーケストラの中でも多くのリードパートを取ることがある。

かなり目立つパートだけに責任感も大きく、その分プライドも高いと言われている。

故の事だろうか、ヒジョーに態度がデカい。


「最後に秋元さんと会われた際、どのような感じでしたか?」


「どうもこうもないわ、至って普通よ。

それまでずっと衣装合わせしてたし、チューニングの間は別室だったし。

・・・何アンタ、アタシを疑ってんの?」


―――That's(ザッツ) right(ライト)、それが職務ですから。

このムスッとした態度、彼に対する恨みも含まれているのだろうか。


続いて僕はテーブルの前の男性へ。


「では次に貴方、お願いします」


「僕は田辺(たばた) 正一(しょういち)、ピアニストです」


「最後に秋元さんと会われた際、どのような感じでしたか?」


「特に変わった様子もなかったかな。

そんなに会話もしなかったし、誰かが来たということもありませんでしたよ。

僕はスタッフに呼ばれるまでタバコ吸って時間潰してました。

榊原さんも仰っていたように僕もチューニングは別室で行ってました、ピアノですし」


ピアノのチューニングというのは、ギターやヴァイオリンのように個人で行えるようなものではない。

というのも、ピアノのチューニングは『調律師(ちょうりつし)』と呼ばれるチューニング専門の職人によって行われる。

ピアニスト直々に行う人も稀にいるが、大多数は調律師に任せっきりだ。

しかし田辺さんは調律に立ち会ったようだ。

となると、あとで調律師の方にも話を聞かねば―――


最後に、部屋の隅に座っていた女性へと問う。


「では次に貴女、お願いします」


「私は山本(やまもと) 恵美子(えみこ)といいます。

クラリネット奏者をやっています」


彼女は、優しそうな声で話し出した。

それはどこか、儚げな雰囲気を纏いながら―――


「最後に秋元さんと会われた際、どのような感じでしたか?」


「お2人同様、変わった様子はありませんでした。

榊原さんと田辺さんが別室へ向かわれた後、暫くして私が部屋を出たので、最後に見たのは多分私です。

待ち時間は本を読んでました、別室でのチューニングが終わった際もこちらに戻ってきましたけど、その時には秋元さんはいらっしゃいませんでしたよ」




一通り事情聴取を行った僕は、別の部屋でレイと話し合いをしていた。

あの後もう少し詳しく聞きたかったのだが、榊原さんの逆鱗に触れたらしく、部屋を追い出されてしまった。

容疑者扱いされたのが気に食わなかったのだろう、多分。


「それで、どう思う?」


「あの人の発言が少し気になるな。

けど、凶器は見つかってない上に動機もわからない。

それに―――」


懐から携帯電話を出し、紙に同じものを書き始めたレイ。

画面には秋元さんが書いたと思われるダイイングメッセージが表示されていた。

先程写真を撮ったのだろう。


「これ、何だかわかるか?」


「んー・・・線が5本だから、楽譜じゃないのかな?」


見てくれは正しくそうだ。

ではこの点が意味するものとは?


「となるとこの点は音符ということか。

符尾(ふび)符幹(ふかん)がないところを見ると、音符の長さや種類には関係ないみたいだな」


秋元さんは何でこの楽譜を残したんだろう?

しかもこんな短い曲を―――

まさか死に際の作曲・・・ではないよな。


「それにしても、何の曲だろうね。

ミ、レ、ソ、ミ―――何だろうコレ」


僕たちは携帯の画面を凝視していた。

すると、誰かがこちらへ向かってくる。

あれはたしか―――


「―――山本さん!」


そこにいたのは、山本恵理子さんだった。

聞くと、あの楽屋の雰囲気に耐え切れず、飛び出してきたらしい。

一応、警官の許可を得ているそうだ。


「何見ているの?」


そう言って彼女は紙を覗き込む。

―――ひょっとしてこれは好機なのではないだろうか。

音楽のプロなら、何かわかるかもしれない。


「山本さん、これ何だかわかりますか」


「これは楽譜かしら。

エー、デー、ゲー、デー・・・」


―――僕は一瞬、何を言ったのかわからなかった。

どこかの国の古い呪文を聞いたような気分だった、というか呪文そのものだ。

ゲー・・・何だって?


「あ、あの・・・」


「あ、やだ、ごめんなさい。

クラシックでは、音符の音を和音名で読むことがあるのよ。

『ミ』ならE(エー)、『ソ』ならG(ゲー)といった風にね」


やや恥ずかしそうに、彼女はそう答えた。

刹那、向かい側に座っていたレイの表情が変わった。

目を見開いている・・・どうやら何かわかったようだ。




「そうか、そういうことだったのか―――」




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ