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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第三章 ~ 牙を剥く闇 ~
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調査ファイル 021 [交響曲第0番 - 沈黙 - Part 2]

「―――開演したら、奴を始末しろ、いいな?」




始末・・・って言ったよな、今。

物騒な物言いからするに、これは『暗殺』か何かだろうか。

まさかトイレの個室でゲームの話をするわけはない、となるとこれは本当に―――


僕はトイレの入口で待ち伏せをし、個室の客が出てくるまで待つことにした。


「―――ちょっとよろしいでしょうか?」


そう切り出し、個室から出てきた客へ駆け寄る。

初老ぐらいだろうか、厳つい顔をした男がそこにいた。

傷が入っているわけでもなく、武器を携帯しているわけでもなく、強面という部分を除けば至って普通の人のようだ。


「あ?何だよ・・・」


ぶっきらぼうに返す様子は、見た目通りといったところか。

とりあえずここは身分を明かして、事情を聴かなければ。


「実は(わたし)こういう者でして、少しお話を―――」


懐から出した警察手帳を、彼に見せた。

刹那、その強面はより強面・・・基、引きつった表情をし始める。

それはまるで、幽霊を見てしまったかのように。


不自然に思った僕は手を差し伸ばして容体を伺おうとする。

すると彼は何を思ったのか、踵を返して一目散に走り出した。

やはりさっきの会話は、ヤバイ方の内容だったか。

被害が拡大しない内に捕まえなければ、そう思い僕も体に鞭を打ち走り出す。

しかし不意を突かれた僕は、マニュアル自動車のエンスト(よろ)しくすぐに走り出すことは出来なかったのだ。

そりゃそうさ、突然逃げ出したんだから。


慌てて追いかけたが、トイレとエントランス間の廊下を抜けた途端、そこに彼はいなかった。

いや、恐らくそこにはいたのだろう、その時は。

如何せん人混みが凄く、誰が誰だかわからない状況だ。

そのビックウェーブの中に挑む程のナウでヤングなチャレンジ魂は持ち合わせていない。

そして立ち尽くして10秒、男を完全に見失ってしまった。


一旦ホールの席に戻り、少し考え事をしていた。

内容は勿論、先程の男の事だ。

仮にあの会話がイタズラやゲームの話だった場合、警察を動かして捜索してしまえば、多方面から大目玉を喰らいかねない。

クビだけじゃ・・・済まないよな、きっと。

しかし実際に殺人計画が行われていたとしたら、今現在対処できるのは僕だけだ。

応援がない上、奴は死角から牙を光らせている・・・さて、どうしたものか。


「どうした?さっきから浮かない顔をして」


心配そうに僕の顔を覗き込む。

綺麗な瞳は少し潤み、ブラックホールの如く一瞬で吸い込まれそうな程に。

どうにか自我を保てたものの、すぐに不安で頭が一杯になってしまう。

レイに協力を仰ぐか―――

・・・いや、それはやめておこう。

今日の日を楽しみにしていた彼女を、事件かどうかわからない茶番に付き合わせるわけにはいかない。

あまりにも可哀想だ。

では前田さんだけにでも連絡するべきか―――

・・・いかん、これもダメだ。

協力こそしてはくれると思う、しかし前田さんなら応援を引き連れて来るに違いない。

そうなると、やはり会場内がパニックに陥ってしまう。

その光景が考えなくても目に見えてしまうのが、何か嫌だ。


四面楚歌、僕の脳内ではウィーン会議が開かれていた。

どうする、どうするよ、どうするんだ・・・




「お、そろそろ開演するぞ!」


上ずった声で知らせるレイ。

周りの人も、暗転の様子を見て同じような反応を取り始める。

正直、それどころじゃない。

人が死ぬかもしれないこの状況、何もできない自分が少し、いやかなり情けない。

せめてでもの足掻きだ、辺りを隈なく観察しておこう。


ブザーが鳴り、開演を告げる司会者が始まりの挨拶を述べる。

最初こそその言葉を聞いていたレイも、キョロキョロしている僕のことが段々気になっていたようで、


「どうした?」


―――やはりと言うべきか、レイはそう聞いてきた。

自分自身でも無意識に、不自然な態度を取っていたのだろう。

そしてそれを見受けてか、先程から開催されていたウィーン会議は、一つの決断を下した。

苦渋の決断、それは―――レイに打ち明けることだ。

楽しみにしていた彼女を巻き込むのは避けていたかったが、これ以上心配させるわけにはいかない。

汗が止まらない、それを見るなり余計に悲しそうな顔をしてこちらを見てくる。

やむを得ん・・・


「実はな―――」


その時だった。




ステージ袖付近がやけに騒がしくしている。

司会者とも何か話し合っている、どうやら何かあったようだ。

そして僕は、気付く。


「まさか―――!」


慌ててステージの方へ向かい、スタッフに警察手帳を見せる。

丁度良かったと言わんばかりに、彼らは僕を袖の更に奥へと案内する。

異変に気付いたレイも、僕の後ろを追いかけてきた。

廊下を進み、暫く進んだ後、ある部屋へと連れてこられた。

その扉を開けた途端、僕は確信した。




あの会話は、本当だったということに―――――




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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