表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第三章 ~ 牙を剥く闇 ~
26/129

調査ファイル 020 [交響曲第0番 - 沈黙 - Part 1]

昼の一服をしながら、物思いにふける。

一服といってもタバコではなく、僕の場合は缶コーヒーである。

まだまだ寒い日は続くものの、相変わらず『冷たい』の方を押してしまうのが、ちょっと気が引けてしまう。

自己嫌悪にしては、非常にみみっちいと言ってしまってはアレだが。


署の屋上から見る景色も、相変わらずだ。

遠くに海が見え、まだ所々雪の山が残っている。

ここは札川市(さつかわし)、穏やかな潮風香る港街。

市街地に警察署があり、僕がよく出向く探偵事務所は港の近くにある。

この地に来てからの日は浅い、まだ知らぬ場所や良いところも詳しくはわかっていない。

まあいいか、その内のんびり回れば。

その時は、彼女(あのこ)も一緒に行ければ―――




「おう、いつまで油売ってんだ?」




少し笑いながら注意を促すのは、僕の上司の前田さん。

どこか心の中を覗かれているように、前田さんも怒っているわけではないようだ。

のんびりし過ぎたかな―――そろそろ行かなくちゃ。




車を走らせて暫く、目的地に到着する。

『黒川探偵事務所』・・・ここが僕の務める第二の職場である。

ってか今気付いた、いつの間に看板なんて取り付けたんだ?

小さいけどまあご立派な看板・・・しかも自分の苗字勝手に付けてるし。

因みに僕の苗字は『津田』である、となると犯人は―――


「―――何やってんの、早く入ってきなさいな」


チャイムを鳴らす前に扉を開けて呆れている女の子。

そう、この子がここの探偵殿・・・黒川レイだ。

今日は依頼者が来ないのだろう、私服で登場してきた。

スーツをバシッと決め、髪をポニーテールにしたビジネススタイルとは逆に、可愛らしいワンピースを着て髪を解いている。

・・・うん、今日も可愛い。


「―――何してるの、ほら」


ハッと我に返り、事務所内へ入る。

レイは僕が入る手前で振り返り奥へ入る。

その瞬間、振り返り様に顔が少し赤かったのを、僕は見逃さなかった。

やっぱり年頃の女の子なんだな・・・


さて、今回事務所に来た経緯について。

実は、依頼を持ち込みに来たのではない。

というのも、レイからあるお誘いを受けたのだ。


「それで、今日はどこに行くって?」


「ああ。

今日は音楽鑑賞会に行こうと思っている」


そう、音楽鑑賞会。

いわゆるコンサートである。

オーケストラなのか、ピアノやヴァイオリンのソリストなのか、はたまた声楽なのか―――今のところ何も教えてはくれない。


「何のコンサートなの?

オーケストラ?」


そう聞くと、フフッと笑いながら答える。


「それは着いてからのお楽しみ」


―――お楽しみにされてしまった。

どうせわかるなら今の内に言ってくれ、というのはにべもない。

ロマンチストからバズーカ砲をぶち込まれそうだ、いかんいかん。

行先もイマイチわからないまま、車を出すこととなった。

さて果たして、どうなることやら。




暫く走ると、市街地の郊外にあるコンサートホールへと着いた。

札川ではかなり歴史のある会場の1つだ。

木造だけどしっかりした内観には、ほのかに木の香りがする。

チケットを提示してホール内に入ると、レイはやや小走りで席へと向かう。

表情こそ冷静を装って入るが、どことなくウキウキオーラを放っている。

相当来たかったのだろう。


「んで、今日出るのは何て人たち?」


「グリーンベックカルテットという4人組で、ヴァイオリン、チェロ、クラリネット、ピアノで構成されているんだ」


やや早口で話す姿は、やはり微笑ましい。

横で何やらうんちくじみた何かを話しているが、BGM代わりに聞きながらパンフレットを見る。

カルテット自体は結成してそんなに経ってはいないようだが、各々の経歴は凄まじいものだった。

ヨーロッパの有名オーケストラでコンマス・コンミスだったり、コンテストの世界大会で優勝したりしている。

そんな方々の演奏か・・・少し興味が出てきたな。


とはいえ開演までまだ時間があるな。

今のうちにトイレにでも行っておくか。


「レイ、少しお手洗い行ってくるよ」


ずっと鳴っていたBGMがストップし、少し寂し気な表情を浮かべている。

すまん、トイレぐらい行かせてくれまいか。


トイレに向かうと、来客の人数とは比例せず、意外にも空いていた。

というか、誰もいない。

僕は早々に用を足していると、どこからともなく声が聞こえてきた。

それは個室から、恐らく電話しているのだろう。

しかしその内容は、聞き逃すことのできない内容だった。




「―――開演したら、奴を始末しろ、いいな?」




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ