調査ファイル 017 [運命の糸]
日付、時刻不明。
不敵な笑みを浮かべ、彼は言った。
それはもう、気持ち悪いくらいに。
「手っ取り早い・・・だと?」
「ああ。
もし野放しにしておけば、彼らは何かしらの行動をしかねない。
警察に通報する可能性だってないわけじゃないしね」
もし北上に背けば、冬弥君が殺される可能性がある。
それもあってご両親は足掻いたりせず、ただ指示に従っていた。
とはいえ多少なり考える時間があれば、策を練って抗う姿勢も取る・・・人間というのはそういう生き物だ。
・・・もしかして彼は、ご両親を助けたのか?
仮に北上は2人を殺さないと踏んで、敢えて向かわせたとしたら?
仮に僕たちが奴の会社に潜入することを予測していたとしたら?
―――出来すぎている、あまりにも出来すぎている。
疑問は浮かぶが、ここで僕は1つ、彼に問う。
「君は・・・あの2人を『守った』、ということか?」
その問いを受け、青年は口角を上げて小さく答える。
どこか寂し気に、どこか虚ろに。
「さあ、どうかね」
彼は本当に味方なのだろうか。
奴の銃弾から身を守ってくれた上に、冬弥君のご両親を守った。
しかし、その真意はわからない。
モヤモヤが余計に広がっていく。
何なんだ彼は―――!
色々考え込んでいると、倉庫内に轟く雄叫びが1つ。
鼓膜の中、ゼロ距離でウーファー内蔵スピーカーをぶっ放したと勘違いする程に、それはそれは凄まじい声量で。
「―――じゃかあしい!!」
・・・この際、お前がうるさいとツッコんではいけない。
自分だけ仲間外れにされたのが気に入らなかったのだろうか。
驚いた僕たちは、北上の方へ視線を向ける。
「さっきから何話し込んでるか知らねえけどよ、今の状況わかってんのか?
撃ち殺すぞコノヤロウ!!」
再び銃口を向ける北上。
しかし、僕の中ではイマイチ緊迫感にかけていたのである。
それはというのも、あの青年―――
銃弾を弾き飛ばした彼が傍にいるおかげで、どうにか正気を保っていられる。
月光が照らすコンテナの上、青年は北上を見下ろしながら、脅しを含めつつ言葉を放つ。
「状況をわかってないのは君だよ、マックス。
さっきも言ったけど、今暴れたら警察に感づかれるよ?
・・・と言っても、もうすぐこっちに向かってくるだろうけど」
「何―――?」
青年がそう話すと、微かにサイレンの音が聞こえる。
やはり、先程の銃声が聞こえていたのだろうか。
「それとも、警察もろともまだやるつもりかい?」
「・・・チッ」
舌打ちを捨て台詞のように噛ますと、突きつけていた銃を懐へと仕舞う。
そして羽織っていたコートを軽く翻し、その場を後にした。
助かった・・・のか?
北上が去った後、倉庫内は再び静けさを取り戻した。
やっと一息が付ける、そう思った矢先だった。
「貴女・・・怪盗シュヴァルツだよね」
月明りの逆光は、藪から棒に問いかける。
シュヴァルツは男装と変声機により『男性』と認知されいたはず。
にも拘らず、彼は正体を知っていた。
そして正体を知る者は、警察内部でも僕を含めても極少数・・・
何故彼はそんなことを―――
「―――違うと言ったら?」
相変わらず鋭い目つきのままである。
しかもこの期に及んで誤魔化してるし。
「そうか、君が・・・。
なるほど、そういうことだったのか」
勝手に納得して、やや満足そうな顔をしている。
正座させて説明を求めたいところだ、全く。
しかしその後に放った言葉は、僕とレイの脳裏にしつこくこびり付いた汚れの如く、焼き付いて離れないものとなった。
それは、今後切っても切れない運命の糸というべきだろうか。
「僕は君たちの『味方』じゃない。
でも決して『敵』というわけでもない。
いずれまた会うことになるだろう」
そう言って、彼は振り返る。
振り返りざま、何となく笑っていたような気がする。
果たしてそれは気のせいだったのだろうか。
未来の自分はきっと、わからないままであろう。
去り際、レイは大声で呼び止める。
「待って!
最後に聞かせてくれ、君の名前は―――?」
足を止め、再びこちらへ振り返る。
上手い具合に月明りが彼の顔を照らし出した。
そして、彼は名乗る。
一生忘れることのない、その名を―――
「僕はレオ。
犯罪者を葬る、地獄の番犬さ―――」
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。