調査ファイル 016 [月明りの青年]
日付、時刻不明。
死に際に走馬燈を見る・・・というのは、どうやら本当らしい。
メリーゴーランド状に良くも悪くも思い出が過る。
ああ、そういえば前の職場はこんなんだったな。
先輩、元気にしてるだろうか。
ああ、これはレイとの初対面。
ああ、これは最初の事件の時。
なんだか、ハチャメチャだったな。
―――死にたくないっ!
北上は、引き金を引いた。
咄嗟に目を瞑り、銃声を聞く。
暫く僕は視界を失い、暗い世界に取り残され・・・ん?『暫く』?
「―――その辺にしなよ、マックス」
そこにいたのは、見ず知らずの青年。
倉庫の窓辺りにあるコンテナの上に、彼はいた。
一体何が起こっているのか、僕にはわからない。
撃たれたんだよな、僕。
ハッと我に返り、北上の銃を見ると、銃口の位置が少し変わっている。
その位置から目を追ってみると、僕の右足太ももから10cmの場所に、弾丸が撃ち込まれていた。
あんぐりとした僕の元へ、レイが駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「あ、ああ、何とか・・・」
再び北上を見ると、眉間に凄まじい程のシワを寄せて、青年を睨んでいる。
どうやら知り合いらしい。
一方のレイは知らないようで、誰なんだと言わんばかりの表情をしている。
「お前・・・なんでこんなとこに―――」
「頼まれたんだよ、ある人に」
頼まれた・・・?
もしかして、彼も探偵なのか?
「頼まれた?誰に!?」
「―――須田夫妻だよ」
須田夫妻・・・だと?
あの2人は北上の手先じゃなかったのか?
「それにしてもいけないなあ、臓器売買なんて」
「うるせえ!お前には関係ない!」
「ただの殺人ならまだしも、その上で金儲けするのは頂けないな・・・」
「黙れ!」
一触即発の雰囲気が再び伝わってくる。
北上は今にも発砲しそうな勢いだ。
「まあまあ落ち着きなよ、あんまり派手にやると警察来るよ?」
「・・・チッ」
あの青年、何者なんだ?
特に武器を携帯しているわけでもないのに、北上を少し抑えたぞ。
もうわけがわからなくなりパニックになりそうだ。
そんな中、ピリピリした空気を裂く様に、レイは青年に質問を投げ掛ける。
「―――ねえ君、一つ聞いてもいいか?」
「ん?何だい?」
物腰の穏やかな話し方で応答する。
その姿からは、とても悪い人のようには思えない。
しかし何だ、この形容しがたいオーラは。
どこか薄気味悪く感じるこの気配は何だ?
「須田夫妻が依頼してきたと言ったな、あれはどういうことだ?」
「―――脅されていたんだよ、そこにいるヤクザさんに。
子供を返してほしければ、『ある少女を探せ』ってね」
「―――そうか、そういうことか」
どうやら、レイは全てを理解したらしい。
如何せん僕には何のことかさっぱりわからない。
「どういうことだ、レイ?」
冷静に推理を行い、レイは話し出す。
事の発端は北上だ。
彼は顧客と臓器売買の契約を行い、その後冬弥君を誘拐した。
まあ、特に目星は付けていなかったのだろう。
そして誘拐は成功した。
これで全てが終わる・・・はずだった。
しかし、ここで思わぬトラブルが起きた。
それが、春香ちゃん一家だ。
彼女の両親は元々北上の下で働いていた。
恐らく過酷なものだったのだろう、ヤクザの下っ端ともなればな。
嫌気が差した2人は、春香ちゃんを連れて北上の下から逃げた。
その際、先の契約金を盗み出したんだ、餞別とでも思ってな。
3人が逃げ出したことを知った北上は、春香ちゃんたちを捜索した。
金の亡者だからな、血眼だったのだろう。
そしての居場所を突き止めたは良かったものの、肝心の金は春香ちゃんと共に逃げられてしまった―――
当然北上は焦っただろう、総動員での捜索も考えたでしょう。
しかし彼と彼の組織は裏で大きな存在だ、表に出れば警察を招くほどの大事件になるからな。
そこで、冬弥君の両親を利用しようと考えた。
『息子を返してほしければ“ある少女”を探せ』・・・そう連絡し、春香ちゃんを捜索させようとした。
付け加えて、警察には連絡させないようにもした。
もし警察に連絡すると、身元がバレる可能性があるからな。
その点を踏まえて、2人は探偵事務所へ依頼をした。
その後、北上は両親に『探偵事務所にある書類を盗め』とでも言ったのだろう。
書類というのは、春香ちゃんの詳細が書かれたもの。
探偵としては、匿う経緯や居場所も記載するものさ。
機会を図って盗み出した2人は、春香ちゃんがいる警察署へ向かった。
北上建設の変装で挑んだものの、そこに春香ちゃんはいなかった。
隙を見てどこかへ行ってしまったからな。
その旨を伝えに直接本人に伝えに行ったが、逆に捕らえられてしまった。
倉庫の奥に監禁されていたのはその為だろう。
「―――これが事の顛末だ」
長々と推理を披露したレイ。
確かに、辻褄は合っている。
しかし、レイ自身どこか納得がいっていないようで、
「だが、私にもわからないことがある。
君、冬弥君の両親から依頼を受けたのはいつだ?」
「貴女の話からするに、女の子を捕らえに行った後だと思うよ。
作業服を着ていたからね」
ということは、警察署へ行った後か。
あの後この青年が接触して、北上へ直談判するよう唆したのか?
「ではもう一つ聞かせてくれ。
何故2人を北上の元へ行かせた?」
その質問をした時、彼は不意に笑った。
薄気味悪く、不快なまでに。
先程から感じるオーラに加えて、それは凄まじいものだ。
そして、やや嬉しそうに、彼は答えた。
「―――北上なら、きっとこうすると思ってね。
だってその方が、手っ取り早いじゃん?」
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。