調査ファイル 015 [金に魅せられた男]
日付、時刻不明。
「北上、和宏・・・」
こいつが、ヤクザの総大将。
この威圧感、レイと美術館で会った時以上だ。
下手に動こうものなら―――死ぬ。
「ん、お前もしかして怪盗んとこの」
「そうか、アンタだったのか・・・」
その半端ないプレッシャーに似つかわしくない砕けた言い方で、レイに問う。
どうやら以前会ったことがあるのだろう。
全く見えない話の流れに、僕は取り残されたままだ。
「この人は誰なんだ?知り合いだったのか?」
「奴はこの地域のヤクザを統括している。
そのカリスマ性は凄まじいもので、表では会社を一大企業に築き上げ、裏では敵なしの組織を築き上げた張本人だ。
政界や警察と手を組み力を得ていると噂されていたことから、奴の組織は『キマイラ』と呼ばれ、恐れられている」
キマイラ・・・名前だけでも悍ましい。
そんな組織の親玉に目をつけられたってことか、僕たちは。
「何だよ~、そんなホメんなって。
ホメたって―――逃がしやしねえぞ」
コートから銃を取り出し、僕たちに突きつける。
そりゃ自分の会社を荒らした人間を許しちゃくれないよな、うん。
僕たちだって、事務所荒らした人間を許しちゃいないわけだし。
「お前ら、うちで何してやがった?」
「私の事務所を襲った人間を探している」
「事務所?あ、お前今何やってんの?」
「探偵だ―――」
ほお、と関心するヤクザの親玉。
どうやら仕出かした事を粗方理解してくれてはいるらしい。
とはいえ、やはり解放してくれる気になるわけではなく。
相変わらず銃口はレイの眉間にロックオンされたままである。
「ところでよ、あのガキ知らねえか?」
春香ちゃんのことか。
そもそも春香ちゃんを追い回す理由が今一よくわかってはいなかった。
「答えてほしければ私の質問に答えろ。
何故彼女を付け狙う?」
「ギブ&テイクってわけか―――いいだろう」
会社を経営しているからだろうか、こういう話は意外にもスムーズに進んでいく。
普通は『お前たちには関係ない』と一蹴するところなのだが、さすがは社長といったところか。
「あのガキの両親、取引で受け取った金を盗みやがったんだよ」
取引・・・やはり臓器売買していたのか。
しかし、春香ちゃんはそういった旨の供述はしていなかった。
どういうことだ?
「部屋を見つけて押し掛けたんだけどよ、逃げられちまって。
んで部下から強い女がガキを匿ったって報告があってよ。
あれってお前だったんだな」
半笑いで喋る様は、狂気にしか感じなかった。
銃口は相変わらず下ろしてくれない、唯一の救いは引き金に指を掛けていないことだ。
それでも彼は態度を変えず話し続ける。
「いや~俺ってば超ラッキー!
んじゃ、居場所を教えてくんない?」
「―――わからない」
レイは冷静に、ありのままを伝えた。
刹那、先程までおちゃらけていた北上が、瞬く間に態度を変えた。
「・・・あ?今なんつった?」
「わからない。
私たちが合流しようとしたら、既にいなかった・・・」
やれやれ、そういう表情とポーズをしている。
右手には銃が握られていなければ、ただのおちゃらけポーズなのだが。
そして目つきを変えた後、レイの額に銃口を突きつける。
皮肉か、ゼロ距離に。
「ふざけてんなら殺すぞ」
冷淡に呟く言葉は、どんな弾丸より鋭く、心をえぐるようなものだった。
このままでは撃たれるのも時間の問題だ。
これは賭けだ、どうせ撃たれるなら先に聞いてしまえ。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「あ?何だお前」
「彼女の助手です。
何故冬弥君を・・・子供たちを誘拐したんですか?」
「教えてほしければ見返りをよこせ」
眼光は相変わらず鋭い。
しかしここで引いてしまっては意味がない―――
「どうせ撃つのなら、冥途の土産に教えてくださいよ」
「・・・いい度胸じゃねえか。
いいだろう、特別に教えてやる」
銃口を下ろし、僕の目を見て彼は話す。
キツい目つきはわかるかわからないかくらいのレベルで柔らかくなり、少し落ち着いて、淡々と。
「はっきりいうと、ガキを誘導する為だ。
こいつらを誘拐すれば、ガキは自分の責任を感じて出てくるかもしれないと思ってな。
しっかしあのガキも薄情だよな、ここまでしても顔すら見せねえとは」
笑いながら春香ちゃんを侮辱する姿に、僕は怒りを覚えていた。
彼女がどれだけ怯え、どれだけ苦労してきたのか。
そんなに金に拘っていたのか、この男は―――
「・・・そんなにあの金が重要ですか」
「ああ大事だね!
世の中金、金さえあれば何でも買える。
衣・食・住―――命だって買える。
金は素晴らしいモノなんだよっ!」
彼は、腐っている。
過去に何があったかは知らないが、人の命を金の下に置くのは間違っている。
その上春香ちゃんを侮辱するこいつが、許せない―――
「・・・ふう、話し込みすぎちまったな。
んじゃ、死ね」
下ろしていた銃を持ち上げ、銃口を僕の眉間に合わせる。
引き金にはすでに指が掛かっていた。
「ヤメローーー!!!」
いつにもなくレイが叫んでいる。
珍しいことなのに、なんだか驚けないでいる。
僕はもう死ぬんだ。
北上は、引き金を引いた。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




