調査ファイル 014 [BOSS]
2016年2月27日、15時21分。
レイからの爆弾発言を聞き、絶句する。
ヤクザというか、これじゃ完全に犯罪組織じゃないか。
「で、でも、クロロホルムがあるからって断定するのは―――」
「―――ここにあるのは麻酔薬の類だ。
クロロホルムもその一種だろう。
そして子供の誘拐、アタッシュケースの札束、これらから推測すると、自ずとその答えに辿り着く」
つまり冬弥君は・・・臓器売買の為に誘拐された、ということ。
それにしても酷い、酷すぎる。
ただ一つ、気がかりなことがある。
それは、何故冬弥君のご両親が僕たちに依頼をしてきたかということ。
もしヤクザに子供を売ったとして、その身柄を探偵に依頼するのは妙に引っかかる。
しかも事務所に侵入し、春香ちゃんの資料を奪ったというのも、まだ謎のままだ。
「仮にそうだとして、まだ謎が―――」
その時だった。
エレベーターが到着した音が聞こえる。
誰か来る・・・
「こっちだ!」
静かに叫んだレイは、倉庫の奥へと走っていく。
僕たちも慌てて追いかける。
そして暗い部屋の奥にあったのは、またしても扉だった。
鮮やかな手捌きで鍵を開け、中へ逃げ込む。
その姿はまさに泥棒の如し・・・なんかあまり嬉しくない。
先程の倉庫はカーテンこそ掛かっていたものの、窓があった。
が、ここには窓すらない。
光はおろか、空気すら入らない息苦しい場所だ。
碌に掃除もしていなかったのだろう、部屋が埃だらけというのを鼻と目が嘆いている。
「・・・ここ、何の部屋?」
「さあな、照らしてみるか」
前田さんは携帯のライトで辺りを照らし始めた。
すると、そこにあったのは―――
「―――ひ、人っ!?」
40~50代くらいの男性と女性が腕と足を縛られて倒れている。
意識はないが、どうやら生きている様だ。
男性はワイシャツとスラックス、女性は普段着のまま・・・ということは、会社員と主婦だろうか。
男性のワイシャツの胸ポケットに、手帳が入っているのを見つけたレイは、躊躇なく抜き取り、中身を確認している。
僕も上から覗き込み、中身を見ることにした。
どうやらここの会社の人間ではないようだ。
しかし、書いてある社名に覚えはない。
スケジュールには会議や打ち合わせなど仕事絡みの内容ばかりだ。
パラパラとめくると、手帳から何かが落ちた。
パサッと落ちたそれは、1枚の写真だった。
仲睦まじそうに映る2人の男女と1人の子供の姿が―――
「まさか―――!」
何かに気付いたレイは、倒れている男性のスラックスへと手を伸ばす。
ポケットから出したのは、何やら1枚のカード。
どうやら社員証のようだ。
そこに書かれていたのは―――須田という文字だった。
レイは咄嗟に振り返った。
刹那、地面へ叩きつけられるように倒れてしまった。
「どうした、レイ!」
揺り起こそうとした瞬間、首の辺りに表現しがたい感覚が広がっていく。
それは快楽などではなく、圧倒的に不快感を催す粘ついたような『痛み』。
次第に視界がぼやけてゆき、間も無く僕の後ろで物音がする。
恐らく前田さんも同じ状態になったのであろう。
そして力尽き、僕の記憶はここで止まってしまった。
「・・・ろ・・・・・ろ・・・だ・・」
「・・ろ・・・だ・・・きろ・・・だ・・・!」
呼んでいる。
誰が―――
「・・きろ・・だ・・・起きろ、津田―――!」
目が覚めると、目の前にレイの顔があった。
こちらを見下ろして、しかもかなり近く。
暫しぼんやりとした感覚が引き、しっかりとした意識が戻ってきた。
刹那、僕はレイに膝枕されていたことに気付き、慌てて飛び起きる。
「こ、ここは!?」
「わからない・・・どこかの倉庫というのはわかるんだが」
倉庫・・・そうだ、あの時倉庫の奥の部屋で、倒れている人を見つけたんだ。
そして手帳を見たあと、誰かに殴られたんだ。
レイはあのおじさんが誰かわかったみたいだけど、誰だったんだろう。
「レイ、倒れていたあのおじさん、誰だったの?」
「あの人は須田さん―――冬弥君のお父様よ」
・・・お父さん?
何で冬弥君のお父さんがあんなとこに。
・・・ということは、隣にいた女性は―――
「もう1人の女性は、冬弥君のお母さん?」
「おそらくね」
―――おかしい。
奴らの手先として活動していた2人が何でこんなところに。
それも身動きを封じられた上に気絶したまま・・・
色々詮索していると、倉庫の奥から足音が聞こえる。
入口があるのだろう、誰かこちらに向かってくる。
前田さんはまだ気を失っている・・・これはマズイな。
足音は次第に大きくなり、うっすらと姿が見え始めてきた。
外は夜のようで、窓からの日はなく、代わりに月明りが入ってきている。
月のスポットで照らされた場所へ、黒い人影が向かってくる。
「よう、お前らが俺たちを嗅ぎまわっている野郎どもか」
いかにもヤンキーといった口ぶりは、映し出された人間に非常にマッチしている。
そんじょそこらのヤンキーと違うのは、彼が白いスーツ姿ということ。
夜なのにサングラスを掛け、男性としては長い髪をオールバックにし、コートを腕に通さず肩に羽織っている。
明らかにヤバイ奴というのは、雰囲気で分かっていた。
そしてご丁寧に、彼は僕たちに自己紹介を始める。
「俺の名前は『北上 和宏』、北上建設の社長だ。
同時に、鈴木組東日本札川第三支部(すずきぐみひがしにほんさつかわだいさんしぶ)15代組長を務めている」
―――よろしくな。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




