調査ファイル 013 [垣間見る闇]
2016年2月27日、15時12分。
「ねえ、何とか言いなさいよ、下っ端さん」
「くっ・・・貴様―――!」
ヤクザは挑発に乗ってしまい、銃の引き金に指を掛ける。
スパンもなく、人差し指を手前に軽く引いた・・・刹那。
「―――!」
・・・ヤクザの動きが止まった。
2人揃って片耳に手を当てて何か集中している。
これは好機、今しかない。
「今だ、急げ!」
僕の言葉で、レイと前田さんはその場から走る。
突き当りを右に曲がるとエレベーターがあった、しかもB1で止まっている。
すぐに乗り込んで、上へと向かう。
途中までヤクザも追ってきたが、どうやら指示があったのか、乗り込むときには既に姿はなかった。
あの片耳、無線を聞いていたのか。
このビルは12階建てだが、最上階まで行かないらしい。
11階かその近辺から別のエレベーターで乗り込まないと行けないということだ。
さてこれからどうしよう。
適当に6Fを押したが、ここにヤクザが蔓延っていたら、それこそ終わりだ。
エレベーターはそんな心情を気にもせず、無情にも扉を開ける。
降りて周りを見回すと、そこは廊下一本と部屋が一つだけの奇妙な場所だった。
「ここは・・・なんだ?」
とりあえず廊下を進み、扉の前へと来てはみた。
が、カギが掛かっている為、先には進めない。
言わずもがな、刑事2人の考えはどんぴしゃり同じであった。
「「この部屋、何か臭うな」」
しかし扉が開かない以上どうしようもない。
戻るにしても、ヤクザが待ち構えているかもしれない。
さてどうしたものか―――
「ふむ・・・」
何か考え込んでいたのは、レイだった。
どうしたの―――そう声を掛けようと思った刹那、僕は気付いた。
どうやら、前田さんも同じ考えだったらしい、何たる偶然ですこと。
「「レイ、これ開けられるか?」」
大の男2人が綺麗にハモって発言したことに気色悪いと言わんばかりの表情を、浮かべている。
やめてくれ、たまたまだ、たまたま。
とにかく、元怪盗ともなればこれくらいのカギは開けられるだろう。
・・・これじゃ強引な捜査をしようとしたレイを責められないな、反省反省。
「見たところ厳重にはしていないようだな」
どこからともなく取り出した銀色の細い棒を、鍵穴へと押し込んだ。
3秒程ガチャガチャ動かした後、棒を引き抜きドアノブを捻る。
瞬間、鍵が外れる音が響き、扉が僕たちを迎え入れた。
「さすが怪盗、腕は伊達じゃないな」
「よせ、私はもう怪盗ではない」
・・・まただ、また暗い顔をしている。
事情を話せないと言ってはいたが、露骨にこういった表情をされてしまってはねえ。
仕方ない、レイの為だ、我慢しよう。
僕たちは扉の向こうへと足を運んだ。
2月とはいえ、この時間帯なら曇っていてもまだ多少は明るい。
だがここは、まるで夜みたいに真っ暗だ。
携帯のライトで照らしてみると、どうやらここは倉庫のようだ。
「6階に倉庫っていうのも、妙ですね・・・」
「それも、会社に関係あるとは思えねえな」
ダンボールを確認しながら、ある物を取り出した。
建築会社の倉庫に何故『薬品』があるのだろう。
詳しくはわからない僕でさえ、『クロロホルム』という文字は認識できた。
「く、クロロホルム!?」
ということは、冬弥君の誘拐時に使ったのか。
抵抗の際、これを使えば大人しくさせることだって可能だ。
「いや、これは気絶に使ったものじゃない」
まるで心を見透かしたように、レイは答える。
気絶に使ったものじゃない・・・どういうことだ?
「これを使って暴れる冬弥君を誘拐したんじゃないのか?」
「クロロホルムはハンカチに染み込ませて嗅がせても、すぐには気絶しない。
ましてこれは危険な薬物、冬弥君に使用すれば、最悪死に至らしめる」
どうやらあれはドラマの演出上のものらしい。
曰く、これを口に当てて長時間嗅がせないと気絶はしないとのこと。
もし暴れている冬弥君にこれを使ったとしたら、誘拐にはならないってことか。
「それにこれらは誘拐目的ではなく、ある目的の為のものだろう」
それが決して『良いこと』だとは思えなかった。
状況が状況なだけに、これは完全にヤバイことだと。
重い口を無理やりこじ開け、レイに問う。
「・・・その目的って?」
レイは答えた、それはもう冷静なまでに。
前田さんは辛うじて意識を平静に留めたようだが、僕は絶句した。
体中の血液が一気に冷え切る、そんな感覚に。
そして僕をここまで貶めたのは、質問の回答だった。
それは―――
「―――臓器売買だ」
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




