調査ファイル 011 [脆刃の剣]
2016年2月27日、14時20分。
「春香ちゃんが・・・いなくなっちまった」
「いなくなったって、どういうことですか!」
慌てふためく前田さんは、非常に珍しい。
普段は陽気なおじさん、事件となれば冷静な刑事として活躍していたのに。
責任感故のことだろうか・・・いや、今はどうでもいい。
「とにかく、今からそちらに向かいます。
詳しい話はその時に」
そう言い、電話を切った。
レイに事情を話すと、3秒間何か考え込んだ後、承諾してくれた。
僕は再び車をぶっ飛ばし、警察署へと向かう。
13分後、警察署へ着いた。
いくら刑事でもそりゃ捕まるよってレベルの運転と駐車を決め込み、前田さんの元へと向かう。
あれだけ頼れる上司のオーラも、今では欠片も感じていない。
「前田さん・・・」
相変わらず冷静なレイ、撃沈している前田さん。
重苦しい空気の中、事情を聞くことに。
誰もいない会議室へ向かい、三者面談としゃれ込む我々。
レイ、脚組んで踏ん反り返るのは、話聞く態度ではないよ。
心の中で軽く突っ込みながら、話を進める。
「それで、何があったんですか?」
「実はな―――」
話をまとめると、春香ちゃんは自分からいなくなったらしい。
事の始まりは僕たちが冬弥君の捜査を始めた直後。
春香ちゃんは署内で大人しくしていたが、時折何か思い詰めたような顔をしていたそうだ。
職員の話によれば、直前までテレビを見ていたとのこと。
ニュースなのかドラマなのかまではわからなかったみたいだが。
その後、レイが推理した事務所襲撃を確認する為戻っていた時・・・春香ちゃんは既にいなくなっていた。
「同僚や職員にも、あの子を署内から出さないように連絡してあったんだ」
「自発的に出て行ったのなら、仕方ないですよ」
それでも尚、落ち込む様子は変わらない。
「俺が目を離した隙に・・・面目ない」
「そんな、前田さんだけのせいじゃ・・・」
そうだ、前田さんはあの時誘拐現場の公園にいた。
別の事件の捜査で出払っていたんだ、その上で春香ちゃんを守れというのはあまりにも酷な話だ。
そんな矢先、取り付く島もない彼をフォローしようとしている僕の努力を、ハンマーであっけなくぶち壊す人物が約一名・・・
「いや、貴方のせいだ」
何故にこの人は追い詰めようとする。
今は誰のせいとか言ってる場合じゃないのに。
「そうだ、俺のせいだ。
俺のせいであの子を危険な目にあわせてしまった。
俺はもう―――」
「辞職すると?」
初対面の時と攻守交替といったところか。
とことん責め続けようとするレイも、弱気になる前田さんも、僕はもう見ていられない。
止めよう、こんな不毛な会話を。
「レイ、いい加減に―――」
「―――ふざけんな!」
レイは、前田さんへ喝を飛ばした。
俺もさながら、前田さんも驚きを隠せなかった。
「無責任もいいとこだ。
どうせ辞めるなら、命懸けで守り通してから辞めろ」
「・・・当たり前だ馬鹿者」
どうやら、端からそのつもりだったらしい。
前田さん―――
「では、行こうか」
「宛てはあるのか、探偵」
口角を少し上げたレイは、まるでその表情で前田さんを励ましているのではないだろうか。
さっきまでのキツい目つきは解け、今はクールな普段のレイに戻っていた。
18歳でこの性格、最近の子供はこうも大人びるものなのか?
それとも、やはり過去に何か―――
「行くぞ、津田君」
「え?あ、おう・・・」
僕は素っ頓狂な返事をし、椅子を立ち上がる。
そしてレイは、前田さんの肩を後ろから軽く叩き、会議室を出て行った。
生意気だぞ小娘、そう言いたそうな顔を浮かべ、前田さんも立ち上がる。
会議室を出る間際、僕の方を向いた
「津田―――ありがとうな」
スッと静かに振り返り、会議室を出た。
僕も後を追い、新たな手掛かりを探しに向かう。
「待ってろよ、春香ちゃん―――!」
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。