調査ファイル 009 [宣戦布告]
2016年2月27日、13時45分。
「レイ、どういうことか説明してくれないか?」
運転手を焦らせちゃいけない、という暗黙の了解をこの人は平気でぶち壊していく。
さすがに気が気ではない、教えてくれないだろうか。
そう思い、レイに問いかけていた。
「―――探偵事務所が危ない」
どういうことだ?
事務所が・・・危ない?
それはアレか、何者かが重機で壊そうとしているというのか?
「危ないって・・・事務所を壊して何になるんだ?」
「物理的な意味じゃない。
ある人物が、事務所に侵入している可能性がある」
ということは、狙いは金目の物?
いや、それだけであの慌てようはないだろう。
となると、光物以外で重要なものといえば・・・
「そうか、調査ファイル!」
「そうだ。
奴はそれを狙って侵入している・・・現在進行形でな」
それはかなりヤバイんじゃないか!?
よく犯人と鉢合わせして殺傷事件になったケースはあるが、これは犯人がいることを知ってて向かうということだ。
よりリスキーな事象だよコレ・・・どうしよう。
でもその犯人は何の為調査ファイルを?
それと、何の調査ファイルを狙っているんだ―――
「仮にそうだとして、理由がわからない。
何が目的で、何のファイルが―――」
「―――犯人は、私たちが事務所を空けるよう仕向けたのよ。
何を言えば外へ繰り出すかを計算したうえでね。
そのうってつけの事象があるじゃない」
事務所を空けるよう仕向けた・・・?
そのうってつけの事象?
うってつけ―――まさか。
「気付いたようね」
「冬弥君の捜索依頼!」
レイは『その通り』と言わんばかりの表情をした。
ということは犯人は冬弥君のご両親か。
なるほど、彼らなら僕たちが出掛けるということを事前に知っていてもおかしくはない。
依頼内容が『捜索』ともなれば、必ず一度は外に出ることになるし。
しかし、目的がまだ不鮮明なままだ。
「でもさ、犯人が冬弥君のご両親だったとして、目的は何なんだ?」
そう、目的がわからなければどのファイルが盗まれたかというのもわからない。
依頼書は少ないとはいえ、それなりの量から探し出すのは極めて困難だ。
まして『侵入』ともなると部屋を荒らすだろうし、一筋縄ではいかないだろう。
「これは私の推理だが、恐らくあの2人は春香ちゃんを襲ったヤクザたちの仲間」
「冬弥君のご両親が・・・ヤクザの?」
レイは無言で頷き、推理を続ける。
「最初はあのヤクザだけで事が足りると思っていたのでしょう。
しかし私たちが春香ちゃんを匿ったという、想定外の出来事が起こってしまった」
私―――というか、レイ一人でやったんだよな、アレ。
腕は鈍っちゃいないというわけか、さすが元世紀の大怪盗。
「そりゃあ、普通に考えれば、大人数人で小学3年生を捕まえるのは造作もないことだしね」
「その後、ヤクザたちは上に報告した後、再び春香ちゃんを奪回する機会を伺っていた」
そこで冬弥君のご両親というわけか。
レイに息子の行方不明の情報を流せば、手掛かりを頼りに捜索に出る・・・そう踏んだんだな。
でも、だからといって自分たちの子供を使ってまでそういうことをするだろうか?
「奴らは冬弥君の両親を探偵事務所に向かわせ、冬弥君の行方不明の依頼を受けさせ、私たちを外に出させるよう仕向けた。
しかし、彼らはすぐに侵入はしなかった」
「ど、どうして?
いないのを見計らったらすぐにでも行動できただろうに」
「思い出して、あの時のことを。
誘拐現場を捜索して、映像を貰った後、一度事務所に帰ってきたのよ。
その時、部屋はどんな感じだった?」
そうだ、あの時部屋は異常なかった。
散らかった形跡もなければ、誰かが侵入した痕跡もなかった。
でも何故―――
「さあ、そこまでは私にもわからない。
きっと何かトラブルでもあったのでしょう。
そして2回目に捜索に向かった際―――つまり先程、家を空けたのを確認して、侵入を試みたのね。
今頃、事務所に侵入してあちらこちら派手に荒らしまくっているのかしら」
一度目は何らかの理由で失敗しているが、二度目は予定通り行動しているわけか。
そして今侵入された事務所で探されている書類というのが―――
「春香ちゃんの書類、彼らはそれを狙って血眼になっているでしょうね」
「『でしょうね』って、そんな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょう!」
もし彼らが春香ちゃんの所在を突き止めたら、冬弥君同様誘拐されてしまう。
警察署で匿っているとしても、『春香ちゃんのパパとママの代わりに迎えに来た』と言えば、警戒されずに連れ出される可能性だってある。
「とにかく、もうすぐ事務所に着く。
準備はいいかい?」
「それはこっちの台詞。
もう少ししっかりしなさい、男なんだから」
酷く痛いところを突いてくるうちの探偵殿のおかげで、少し緊張が解れた。
車内で小さくストレッチを始め、終わる頃には目つきが少しキツくなったのを、僕は見逃さなかった。
探偵事務所に到着すると、扉に複数の傷があり、窓ガラスが割れていた。
静かに鍵を開けた後、一つ呼吸を大きくし、扉を開ける。
意を決して入った先に、見えたものは―――
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




