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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第二章 ~ 探偵の夜明け ~
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調査ファイル 007 [嘘と真実の交差点]

2016年2月27日、13時10分。

防犯カメラの映像を貰った僕らは、一度事務所に戻った。

誘拐されたという線は濃厚になったものの、まだ確証はない。

ましてや、そうだったとしてもその後の手掛かりが何もない。

この展開、レイならどう切り抜ける―――


社長室にありそうな革製の椅子に座り、ふっかふかな居心地をガン無視しながら考え事をしている。

眉間にシワを寄せて腕を組む姿は、とても未成年の女の子には見えない程に。


「そんで、このあとどうするんだよ?」


わかっている、わかってはいるんだ。

しかし、手がない・・・そんな表情のレイ。

このまま黙って考えているだけでは、時間の無駄遣いだ。

一分一秒が惜しい、行動に移さねば。


「そうだ、防犯カメラの映像に誘拐に使われた車は映ってなかったのか?」


レイの推理が正しければ、2人を誘拐した際に使われていた車が映っているはず。

画面外に全体図があったとしても、通り過ぎた部分なら、車種まではわからずとも色や形は断定できる。


「確認したよ。

しかし、どれが犯人のものかはわからなかった・・・」


誘拐されたと思われるタイミングでの車の通過は、1台だけではない。

公園傍の道路では数台通過した上に、画質が荒いせいで車の詳細が確認できない。

更に言えば、今回は警察の協力がない―――鑑識さんに調べてもらうことが出来ないのは、かなりの痛手だ。


「現場に戻って、もう一度調べ直してみるか・・・」


そう切り出したレイに、僕は一つの疑問をぶつけた。

それは、冬弥君のご両親の話を聞いてから、ずっと思っていたことだ。


「なあレイ、何故犯人は冬弥君のご両親に連絡してこないんだ?」


普通、誘拐の目的といえば『金銭の要求』がまず最初に出てくる。

次いで犯人の指示した人物の身柄の引き換え、あとはその他諸々といったところか。

男児ということもあって、性的欲求からくる誘拐とは考えにくい。

身柄の交換の線も、最近に至って特に目立った人物を捕まえたわけでも、誰かに恨まれているわけでもない。

となれば消去法で金銭の要求が出てくるが、その電話は『なかった』と語っていた。


「さあ、私にもそれはわからない。

ただ、犯人もこのまま沈黙を守り続けるつもりはないだろう」


「そうだな、とりあえず僕たちは今やれることをやろう。

レイの言う通り、一度現場に戻ってみようか」


僕は車を回し、誘拐現場へと向かった。

見落としていることがあれば、いいのだが―――




同日、13時27分。

公園に到着し、先程と同じ場所に車を止め、今一度現場検証を行った。

多少時間が経っている為、何かしらの要因によって証拠が消されているかもしれない。

1時間前同様、二手に分かれて捜索を開始する。


今度は公園全域を隈なく探した。

ゴミの一つでも重大な証拠になりかねない・・・物凄いプレッシャーに苛まれながらも、僕らは懸命に探した。

腕に傷が出来ようと、虫に襲われながらも。

必死に、必死に―――


捜索から30分、一度合流して経過報告を行った。


「何か見つかった?」


「いや、何もない。そっちは?」


「こっちも何もなかったよ・・・」


再び手詰まりといったところか。

状況は、1時間前と同じである。

よくある例え話だが、砂漠に落とした指輪を探し出すようなもの・・・といった具合に、極めて困難を迎える事象であることは間違いない。

少し息を切らしているレイは、深呼吸を一度した後、お決まりのポーズで考え始めた。

何だか『独りにしてくれ』と言われている様な雰囲気を感じ取った僕は、レイを公園に残してその場を離れる。

飲み物でも買って、落ち着こうかな。


少し離れた場所に、自動販売機があった。

コーヒーを2つ買った僕は、その場でふと考え事をした。

それは、警察に届け出ず隠密に捜査を依頼してきた、冬弥君のご両親のことである。

探偵という職業柄、近隣住民や親族など身内に迷惑を掛けたくないという気持ちはわからんでもない。

それでも情報提供を求めるのであれば、普通は警察に届けれるものだろう。

そこがどうも、喉に引っかかる小骨のように違和感を生じている。

あとでお宅へ伺って、もう一度理由を聞いてみようかな―――


少し冷えてきたかな、早く渡してあげよう。

ホットコーヒーを両手に持ち、元の場所へ戻ろうとしていた。

すると、向こうから手を挙げて向かってくる2人の男性がいた。


「あれ、前田さん?」


そこにいたのは、前田さんともう一人の刑事だった。

どうやら、別の事件についてこの辺で聞き込みを行っていたらしい。


「お前たち、何やってるんだ?」


「え、あ、いや・・・」


迂闊に話してしまってはマズイ。

あたふたしていると、その様子に気付いたレイがこちらに向かってきた。

た、助かった・・・


「あら警部さん、どうされました?」


「おう探偵、元気そうだな」


前田さんは、レイのことを『怪盗』ではなく『探偵』として接していた。

どうやら、心の中でスッパリと区分できている様だ。

彼の目を見る限り、そう感じ取れる。


「今津田に何やってるか聞いたんだが、話してくれなくてよお」


「生憎探偵の仕事内容は秘密厳守なものでして。

残念ですが、概要をお伝えすることはできません」


警察からの依頼ではないという旨も付け加えて、レイは前田さんに説明する。

探偵が警察を介さず個人で受けた依頼は、あくまで依頼人と探偵だけの秘密、言わば『プライベート』だ。

プライベート・アイという言葉も、そこから来たのであろう。

・・・多分。


そんな僕たちを見て、前田さんは苦笑いを浮かべた。

『頑張ってるんだな』という気持ちと、『俺には教えてくれないのか』という少し残念がる気持ちの半々で。

しかしすぐに真顔に戻り、真っすぐこちらを見てある質問をしてきた。


「おう、それよりお前ら知ってるか?

ここらで誘拐事件があったんだってよ」


―――また誘拐事件。

ここ何日かで立て続けて起こるともなると、聊かここの治安はどうなってるんだと疑いたくもなる。

実際問題僕たちも誘拐事件の捜査を受け持っている、他人事ではないにせよ、さすがにマズいんじゃないかコレ。


「それで、誘拐されたのは?」


「それがな―――」




刹那、僕は凍り付いてしまった。

背筋に走るゾクッという衝撃は、あまりにも大きすぎるもので、一瞬呼吸を忘れるほどだった。

目では追わなかったものの、恐らくレイも同じ状態だったのだろう。

隣で何もアクションを起こしていない、ということはそういうことだ。

何が僕たちをここまで戦慄させたかというと、前田さんが述べた人物の名前だ。

そう、その名前は、僕たちもよく知っている名前だ。




「―――小学3年生の、須田冬弥っていう子供だ」




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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