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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第六章 ~ 穢れた正義 ~
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調査ファイル 110 [地獄から来た男 Part 19]

事務所を後にした僕たちは、第二の殺害現場へ来ていた。


「ここか・・・」


飯島氏のマンションに比べ、こちらは普通のアパートだ。

駐車場が併設されているものの、気取った外車やゴツい車などはなく。

これだけでも、被害者は彼と真逆の人間・・・だったのかもしれない。

なんて考えながら、僕たちは野次馬の荒波を掻き分ける。


テープ前にいる警官に手帳を見せると、あっさりと通してくれた。

階段を上がると、玄関前でしかめっ面の大蜘蛛警部が仁王立ちしている。

鑑識さん待ちなのだろう。

今鉢合わせすると、これまためんどくさいなー。


が、僕たちが玄関に着く直前、鑑識さんからのOKサインが出た模様。

待ってましたと言わんばかりに、警部は中へズカズカと突き進んでいった。

習うように僕たちも中へ中へ。


部屋の中は、一件目同様、荒らされてはいなかった。

玄関の靴はキチンと整頓されており、リビングの方も綺麗に片付いている。

ベランダからは、溢れる日差し。

明るい暖かさが、暗く冷たいこの空気に混ざり込み、なんとも“不気味”に抱擁されている気分だ。

そして、警部の姿はそこにはない。


「あれ、警部は?」


「多分、ここだ」


レイは、ある一室の扉を開けようとしていた。

七つ道具なのだろうか、いつの間にか用意していた手袋で、ドアノブに手を掛ける。

少し立て付けの悪い扉は、つんざめく悲鳴を上げながら、僕たちを迎え入れる。

そんで、この人も―――




「・・・やーっぱ来たか」


扉の先は、どうやら寝室のようだ。

綺麗に整えられたベッドと、少し傷がついているクローゼットが置いてあった。

どデカイ溜め息を吐き、呆れを通り越し、鼻で一発フッと笑っていらっしゃる。


「お前、俺の話を聞かなかったんか?」


“俺の話”とは、先の署での一件のこと。

たしか警部はこう言っていた。


『お前らは、帰れ』・・・と。




「ああ、聞いたさ」


「だったら―――」


レイは警部の言葉を(さえぎ)り、自分の言葉で空気を埋める。


「帰ったよ―――事務所には。

その足で来たんだ、何か文句でも?」


「トンチじゃねーか!!」


まるで漫才コンビのツッコミである。


「そうじゃねえ!

捜査の邪魔だからついてくんじゃねーって言ってんだよ!」


「心配するな、その手を煩わせるマネはしないさ。

―――探偵だからな」


そう言うと、警部を軽く押しのけて、ベッドの方へと向かう。

ベッドの上には、黒くて大きな物体が横たわっていた。

・・・それは、誰が見てもわかるくらい、最恐に不気味で、明らかなる代物だった。




「・・・“コレ”か」


ポケットに手を突っ込み、冷たいトーンで静かに零す。

目の前にあるそれは、今回の事件の“中心核”。

レイはその物体に掛かっていた布を、一気に引っぺがした。


「・・・死体―――」


つい最近まで、人間として行動していた筈の彼は、今現在、『生物』とは違う存在へと変貌していた。

仰向けになり、目と口を開け、まるでこちらに助けを求めるかのような、苦悶の表情を浮かべている。

そして何より気になるのは、妙に赤く染まる彼の首筋だった。


「レイ、これって・・・」


「ああ」


これまた、誰が見ても一目瞭然。

まるで首筋にも(くち)が出来上がっていた―――といえば、皆も状況がわかるだろうか。

正直、手口が手口なだけに、あまり状況は語りたくない。

だが、刃物で切ったことによる失血死・・・といったところだろうか。


しかし、ここでも疑問が浮かび上がる。


「でもこの遺体、何か変だよ。

というより・・・」


「見覚えがある、だな」


レイも同じことを考えていた。

そう、何故か既視感(きしかん)が脳内を駆け巡っていた。


「お前ら、この仏さん知ってんのか?」


腕を組みながら、警部は言った。

10%くらい怒りを込めたようなトーンで。


「彼の事は知らない。

だが、この状況は、非常に憶えがある」


なんだそりゃ、とでも言いたげな表情の、しぶーい顔をしていらっしゃいますよ、警部殿。

ここでも溜め息を吐くと、警部は胸ポケットから手帳を取り出した。


「被害者は『新谷(にいや) (あきら)』氏。

ごくごく普通のサラリーマンだそうだ」


警部が言うには、第一発見者は新谷氏の奥さん。

旦那が休みということで、留守番をしてもらい、好機として奥さんが買い物に出ていたそう。

1時間くらい買い物して帰ってきたら、既にこの状態だったらしい。

死因は見立て通り、首筋を刃物で切られたことによる失血死。

頸動脈をスパッといっていたらしい。

ただし、司法解剖を終えてみない限り、確実な死因はわからない。

現状での判断、ということだ。


「それで、その奥様は・・・?」


「うちのパトカーに乗ってもらってるよ。

女性警官も同伴でな」


パタッと閉じた手帳を、再び胸ポケットにしまう。

そして左手を腰に当て、相変わらず気怠そうな目で僕たちを見つめる。


「そんで?」


たった一言。


「・・・『そんで?』、とは?」


「だーかーらー・・・

オメエらの言う『既視感』ってのは、一体何なんだよ」


頭をカシャカシャ掻く警部は、イライラゲージ30%といったところか。

ああそのことですか、とレイは遺体を指差す。


「コレですよ」


警部もつられて遺体の方へ目線を移す。


「見覚え、ありませんか?」


敢えて言葉は敬語でジョーク気味なのだが、なーぜーか()だけは真面目なまま。


「ここ最近、これと同じ状況を、あなたは見た筈だ」


レイがそう言うと、警部は眉毛を段違いにズラし、『ハア?』と一言。

そしてアゴに親指と人差し指をあて、『ん~』と考え込む。


刹那、何かに思い出し、声を上げる。







「・・・あ゛っ!」







思いっきり目を見開いた警部は、レイに視線を集中させる。

答えるように、彼女はニヤリと笑っていた。






To Be Continued...
















※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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