表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第六章 ~ 穢れた正義 ~
126/129

調査ファイル 108 [地獄から来た男 Part 17]

「探偵か」




第一声からこれだ。

『もしもし』でもなければ、自身の名も名乗らない性分。

僕の身の回りには、そんな無粋な人はいない。




「―――誰だ、貴様」


おおっと、ここにいましたか。

女の子がそんな言葉使っちゃいけませんぜ。

・・・なんてツッコミを、心の中でしていた。


レイの携帯に耳を寄せ、会話の続きを待つ。


「バカ言ってんじゃねえよ。

ったく、なんでこの俺が・・・」


電話の向こうで悪態を突くこの男。

どっかで聞いたことのある声だな・・・


「いいか探偵、今すぐ札川署に来い。

聞きたいことがある」


「聞きたいのはお前の名前だ。

名乗りもせず、要求だけ取り付けようとする奴の言葉を、誰が信じる」


至極(しごく)(もっと)も。

電話のマナーがなっちゃいないよ、旦那。

・・・旦那?

そういや札川署って言ってたな。

警察関係者か?

携帯越しにムスーッっとしてる顔が浮かぶようなこのトーン。

少しずつ確信に触れつつある僕をよそに、通話は続けていた。


「だー!いいから来いってんだ!

こちとら聞き込みやら何やらで忙しいんだ。

お前らに構ってる暇ねえんだ、とっとと戻って来い!」




―――その言葉を最後に、携帯からは、一定間隔のシグナルが流れた。


「・・・切られた」


まるで子供のような言い方で呟くレイ。

ポケットに携帯をしまい、軽くため息を一つだけつく。


「・・・行くか?」


何故か僕に選択を委ねてきた。

己で決断したくない、というわけじゃないようだ。

どこか申し訳なさそうなようにも捉えられる表情を、僕に映す。

先程までの氷柱(つらら)のような、冷淡に鈍く輝く瞳は、優し気な眼差しへと変わっていた。


「んー・・・じゃあ、『とりあえず』ってことで」


両肩を軽く上に挙げ、少しお茶らけた表情をレイへ返した。

どのみち署には一度戻るんだ、時間が早まる分には大したことない。

僕たちはクロスフォード・ビルを出て、札川署へと向かった。






車に乗ること数分、僕たちは窓を開けて、突き抜ける風を感じていた。

そして道中、僕は色々なことを考えていた。


まず一つ、あの男は何故『飯島紀洋』さんの捜索に出たのか。

彼は言った、“兼ねてからの知り合い”だと。

だが、飯島さんの自宅には、あの男と結ぶ接点は何一つ見つからなかった。

私物はおろか、一緒に写った写真すらない始末。

本当に知り合いだったのだろうか。


もう一つ、山下弁護士について。

彼は前者の逆パターン・・・接点があるにもかかわらず、飯島さんのことを『知らない』と突っぱねた。

たしかに、あれだけ膨大な案件を抱えていれば、一人くらい顔や名前を忘れてしまうのもわからないでもない。

けれど、彼の激情っぷり・・・何かが引っ掛かる。

依頼者の個人情報を見せてくれ、と言った途端の話だ。

よほどヤバイ“何か”、人に見られてはマズイ『何か』が記されていたのだろうか。

気になる・・・


気になるといえば、あの男と最後にあった時だ。

飯島さんが亡くなったと伝えた後、何も言わずに立ち去ったことだ。

依頼が完遂出来なかったとはいえ、中断も示唆しなければ、続行の意思も示さなかった。

無言=(イコール)続行、を・・・察しろとでも?

アホぬかせ、ムチャ言うな。




―――などと。

すると、助手席のレイが。


「なあ、津田君」


少しクールなトーンで、僕に問いかけた。


「津田君は、先の事件について・・・詳しく知っているのか?」


「先の事件・・・?」


小さな頭が、コクンと頷く。

僕はほんの僅か、脳内の辞書を開き、それが何かを突き止める。


「10年前のこと?」


再びコクンと頷く。

アクアマリンのような瞳は、フロントガラスの奥を向いていた。


「不思議でたまらないんだ。

30人以上の命を奪って、10年という懲役・・・」


レイだけじゃない、僕もそう、当時の世間みな同じ考えだった。

当時学生だった僕でさえ、法とは何なのかって、テレビを見ながら思ったもんさ。


「何か裏があったというのはわかる。

だが、どんな理由があったにせよ、裁きが違う方に傾くことってあるのだろうか?」


腕を組みながら、静かに言葉を吐き出す。

下手をしたら、風の音で掻き消されそうなくらい、寂し気な声。

僕は聞き逃しまいと、目と耳の両方に神経を集中させていた。


「津田君・・・」


まるで子犬のような儚い表情を浮かべる。

すると―――






「法とは・・・一体なんなんだ・・・?」






僕は―――答えられなかった。

“わからなかった”んだ。

確立した唯一無二の正解が何なのか、という意味ではない。

『どの言葉を“正解”として選び、挙げられれば良いのか』が、わからなかったのである。

少し困ったアクアマリンの瞳は、僕の方を向いている。

左頬が、どうしてか・・・温かいのに、少し肌寒い。






そこから署に到着するまで、僕たちは言葉を交わすことはなかった。






To Be Continued...








※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ