調査ファイル 105 [地獄から来た男 Part 14]
僕たちは近くの公園に足を運んでいた。
缶コーヒーを片手に、これからどうするか考えていたのだ。
「さて・・・」
先陣を切ったのはレイだった。
さあ探偵さん、これからどうするんだい?
「どこから手をつける?」
僕の背後から、ひょこっと現れる優希。
同様に、ひょこっと口にした言葉。
それを受けて、レイは顎に指を当て、ほんの少しだけ考え事をしだす。
「―――もう一度、情報を整理しよう」
かなりドタバタしていたし、得られた情報を共有するのは、当然の事だろう。
各々がコーヒーを一口飲んだ後、互いに情報を交換する。
レイも優希も、時々飲みながら話を聞いている。
それは僕も・・・先生も同様だった。
「―――ということ、だな」
一頻り話し終えたところで、レイは話をまとめた。
「となると、次なる目的地は・・・」
・・・と、僕がその先を言いかけたところで、優希は携帯を取り出した。
どこかに電話するのだろうか、なんて思っていたところ。
「ん」
オパールのような瞳が、僕を見つめていた。
たった一言を発し、画面をこちらに向けてきたのだ。
「・・・え、な、何?」
思わず動揺してしまった。
いやはや。
が、その画面をよーく見た瞬間、僕は違う意味でまた驚いてしまった。
「こ・・・これは!」
「どうした?」
レイも思わず画面を覗き込んだ。
ふわっと甘い香りが、僕の鼻孔をくすぐる。
いかんいかん・・・湧き上がる気持ちを抑え、高揚を悟られないよう、とにかく平然を装った。
「名刺の写真・・・か?」
そう、画面に写っていたのは、現場で見つけた名刺だった。
殺害現場ともなれば、そこにあるモノは全て物証・・・持ち出すことは厳禁。
ならば、ということなんだろうけど、まあ抜かりのないようで。
「―――弁護士さん・・・だね」
いつの間にか後ろにいた先生が、ボソッと話す。
これまた思わず、僕は声をあげてしまった。
「でもまた何で弁護士さんの名刺が?」
きょとんとしている先生に対し、レイは静かに話し始める。
「経営者とはいえ、トラブルやクレームを全て解消できるわけではない。
そこで企業からそういった問題を解決してくれるのが、“顧問弁護士”という存在だ」
つまり、企業のボディガード・・・みたいなものか。
「でもあの事務所、そんなに大企業って感じはしなかったけどなあ・・・」
少し眉を歪め、首をかしげる優希。
確かに、マンションの一室が事務所ではあったものの、とりわけ高級というわけでもなく、大企業のブレインといった感じでもなかったけど。
「中小企業でも、弁護士を雇うところは決して少なくない。
後先の問題を考えて、用心する人が増えているのも事実だ」
「へえ~・・・レイ詳しいんだね」
と、何となく呟くと、レイは人差し指で僕の頬をグリグリと突き刺した。
そんなに痛くはない。
「バーカーにーすーるーなー」
へいへい、すんまへんすんまへん。
「でも他の名刺は大企業の社長さんとかばっかりだったよ。
だとすれば、飯島さんはどうやってこの人と?」
ふと優希がそう言った。
言われてみれば、あそこの名刺は有名人ばかりの名が連なっていた。
「ってことは、その人たちからの推薦もあって、引き受けたのかな?
『この人なら大丈夫』、『俺の友達だ』・・・とかなんとか言って」
優希はお手上げのポーズを取りながら、『どうなんだろうねー』と答えた。
「―――理由はどうあれ、一度当たってみた方がよさそうだな。
恐らく一課は、被害者の知人・友人に回るだろう。
なら我々は、こちらに向かうとしようか」
腕を組み、やや俯きながら静かに話すレイ。
そうだ、今現在出来ること、手掛かりがある内は取り掛かろう。
だが―――
「ちょっと待った」
僕はレイにストップをかける。
「どうした?」
「事件のこと、依頼人に報告した方がいいんじゃないの?」
あの男・・・依頼人は、この件の事をしらない。
探してくれと頼まれて、“死んでました”と報告するのもどうかとは思う。
けど、黙っておくのも探偵としては・・・
「・・・黙ってた方がいいんじゃない?」
やや苦笑いを浮かべながら、優希が答えた。
ちょっとバツが悪そうに。
しかし、レイは首を縦には振らなかった。
「―――いや、報告しておこう。
それに、どのみち時間が経てば報道されるだろう。
知るのが早くなるか遅くなるかの違いだ」
決断に迷いはなかった。
しかし、僕の心には少しばかり引っかかるものがあった。
違和感・・・というわけではない。
ただ、探していた人物が『亡くなっていた』と伝えるのが本当に正しいことなのか。
それも事故や病気ではなく、“殺人”ということ。
僕は探偵課に配属されてはいるが“探偵”ではない。
その方面の法律やマナー、ルールの類は点でダメだ。
いずれかは改善していかなければならない。
でも、だけど・・・
「・・・だ・・・!」
「・・・だく・・・!」
「津田君!」
目の前に、どアップのレイの顔が。
「え、どした?」
「大丈夫か?
ボーっとしているようだが・・・」
色々考え事をしていた。
気が付くと優希と先生はいなくなっていた。
「あれ、二人は?」
「・・・さっきも言っていただろう。
近くまで先生が車で送ってくれるそうだ。
行こう」
「え・・・あ、そ、そうだね―――」
何を考えているんだ僕は。
まずは目の前のことに集中しなくちゃ。
一度だけ大きな呼吸をし、僕たちは先生の車で事務所へと向かった。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




