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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第六章 ~ 穢れた正義 ~
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調査ファイル 105 [地獄から来た男 Part 14]

僕たちは近くの公園に足を運んでいた。

缶コーヒーを片手に、これからどうするか考えていたのだ。


「さて・・・」


先陣を切ったのはレイだった。

さあ探偵さん、これからどうするんだい?


「どこから手をつける?」


僕の背後から、ひょこっと現れる優希。

同様に、ひょこっと口にした言葉。

それを受けて、レイは顎に指を当て、ほんの少しだけ考え事をしだす。


「―――もう一度、情報を整理しよう」


かなりドタバタしていたし、得られた情報を共有するのは、当然の事だろう。

各々がコーヒーを一口飲んだ(のち)、互いに情報を交換する。

レイも優希も、時々飲みながら話を聞いている。

それは僕も・・・先生も同様だった。




「―――ということ、だな」


一頻(ひとしき)り話し終えたところで、レイは話をまとめた。


「となると、次なる目的地は・・・」


・・・と、僕がその先を言いかけたところで、優希は携帯を取り出した。

どこかに電話するのだろうか、なんて思っていたところ。


「ん」


オパールのような瞳が、僕を見つめていた。

たった一言を発し、画面をこちらに向けてきたのだ。


「・・・え、な、何?」


思わず動揺してしまった。

いやはや。

が、その画面をよーく見た瞬間、僕は違う意味でまた驚いてしまった。


「こ・・・これは!」


「どうした?」


レイも思わず画面を覗き込んだ。

ふわっと甘い香りが、僕の鼻孔をくすぐる。

いかんいかん・・・湧き上がる気持ちを抑え、高揚を悟られないよう、とにかく平然を装った。


「名刺の写真・・・か?」


そう、画面に写っていたのは、現場で見つけた名刺だった。

殺害現場ともなれば、そこにあるモノは全て物証・・・持ち出すことは厳禁。

ならば、ということなんだろうけど、まあ抜かりのないようで。


「―――弁護士さん・・・だね」


いつの間にか後ろにいた先生が、ボソッと話す。

これまた思わず、僕は声をあげてしまった。


「でもまた何で弁護士さんの名刺が?」


きょとんとしている先生に対し、レイは静かに話し始める。


「経営者とはいえ、トラブルやクレームを全て解消できるわけではない。

そこで企業からそういった問題を解決してくれるのが、“顧問弁護士”という存在だ」


つまり、企業のボディガード・・・みたいなものか。


「でもあの事務所、そんなに大企業って感じはしなかったけどなあ・・・」


少し眉を歪め、首をかしげる優希。

確かに、マンションの一室が事務所ではあったものの、とりわけ高級というわけでもなく、大企業のブレインといった感じでもなかったけど。


「中小企業でも、弁護士を雇うところは決して少なくない。

後先の問題を考えて、用心する人が増えているのも事実だ」


「へえ~・・・レイ詳しいんだね」


と、何となく呟くと、レイは人差し指で僕の頬をグリグリと突き刺した。

そんなに痛くはない。


「バーカーにーすーるーなー」


へいへい、すんまへんすんまへん。




「でも他の名刺は大企業の社長さんとかばっかりだったよ。

だとすれば、飯島さんはどうやってこの人と?」


ふと優希がそう言った。

言われてみれば、あそこの名刺は有名人ばかりの名が連なっていた。


「ってことは、その人たちからの推薦もあって、引き受けたのかな?

『この人なら大丈夫』、『俺の友達だ』・・・とかなんとか言って」


優希はお手上げのポーズを取りながら、『どうなんだろうねー』と答えた。


「―――理由はどうあれ、一度当たってみた方がよさそうだな。

恐らく一課は、被害者の知人・友人に回るだろう。

なら我々は、こちらに向かうとしようか」


腕を組み、やや俯きながら静かに話すレイ。

そうだ、今現在出来ること、手掛かりがある内は取り掛かろう。

だが―――




「ちょっと待った」




僕はレイにストップをかける。


「どうした?」


「事件のこと、依頼人に報告した方がいいんじゃないの?」


あの男・・・依頼人は、この件の事をしらない。

探してくれと頼まれて、“死んでました”と報告するのもどうかとは思う。

けど、黙っておくのも探偵としては・・・


「・・・黙ってた方がいいんじゃない?」


やや苦笑いを浮かべながら、優希が答えた。

ちょっとバツが悪そうに。

しかし、レイは首を縦には振らなかった。


「―――いや、報告しておこう。

それに、どのみち時間が経てば報道されるだろう。

知るのが早くなるか遅くなるかの違いだ」


決断に迷いはなかった。

しかし、僕の心には少しばかり引っかかるものがあった。

違和感・・・というわけではない。

ただ、探していた人物が『亡くなっていた』と伝えるのが本当に正しいことなのか。

それも事故や病気ではなく、“殺人”ということ。


僕は探偵課に配属されてはいるが“探偵”ではない。

その方面の法律やマナー、ルールの類は点でダメだ。

いずれかは改善していかなければならない。

でも、だけど・・・




「・・・だ・・・!」


「・・・だく・・・!」




「津田君!」




目の前に、どアップのレイの顔が。


「え、どした?」


「大丈夫か?

ボーっとしているようだが・・・」


色々考え事をしていた。

気が付くと優希と先生はいなくなっていた。


「あれ、二人は?」


「・・・さっきも言っていただろう。

近くまで先生が車で送ってくれるそうだ。

行こう」


「え・・・あ、そ、そうだね―――」


何を考えているんだ僕は。

まずは目の前のことに集中しなくちゃ。




一度だけ大きな呼吸をし、僕たちは先生の車で事務所へと向かった。




To Be Continued...






※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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