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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第六章 ~ 穢れた正義 ~
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調査ファイル 103 [地獄から来た男 Part 12]

「いいか、リビングには遺体周りを除き、血痕はなかった。

だが、被害者は犯人によって喉元を斬られた―――大量出血を伴ってな」


脱衣所で、レイは話す。

あくまで冷静に、冷静に。

“不思議”とそれを黙って聞く警部は、相も変わらず眉間にシワを寄せたままだ。


「・・・となると、殺害現場となるのは、もはやここしかない」


―――そうレイは結論を出した。


「密閉空間で、且つ飛び散った血を洗い流すのには、もってこいの場所。

そう思わないか?」


レイは斜め後ろにいた警部に目配せをする。

ちょっとばかしニヤッとした表情を、警部はなんだか複雑そうな顔で受け止めていた。


「まあ・・・そうだろうな。

シャワーでちゃちゃっと洗えばどうとでもなる」




「それに―――」




目配せを解き、浴槽の方へ視線を送るレイ。

顎を指先でなぞる警部は、レイの言葉を復唱していた。


「・・・それに?」


「―――気付かないのか?」


呆れた、といわんばかり表情をし出す探偵様。

なんだろう、この二人はやけに表情豊かである。

・・・不謹慎だけど、なんかちょっと面白い。


―――なんてアホなことを考えていると、警部は若干の怒りを滲ませながら、レイに問いた。


「なんだよ」


「・・・いや」


諦めたのか、再び話を始める。


「風呂場で殺害された・・・ということは、考えられるのは二通り。

一つは、入浴中に殺害されたパターン。

シャワー中にシャンプーしていたとすれば、不意を打つことは決して不可能ではない」


「・・・ま、たしかに」


僕もそう思った。

まさか背後から襲われる・・・なんて考えながら入浴する人なんて、どこにもいやしない。

いや、正確には、『そういった危機的状況下にいない人間ならば』、だ。

だが、それだと不自然な点がある・・・と、レイは言う。


「矛盾点は、遺体の状態だ。

服を着ている上に、肌は平常時同様に乾いていた。

入浴中に殺害したとすれば、服を着せる行為は難しい上に、何故着せたかと疑問にすら思う」


「あ?」


警部、イライラしない。

じれったいのか、目障りなのか、そのボルテージは徐々に徐々に上がりつつあるのも、僕にはわかった。

というか、ゲージが見えてきてますよ、怒りの。


「犯人が空き巣の場合、口封じが出来ればそれでいい筈。

何も服を着せる必要はない。

ましてや、浴室からリビングまで移動させてなんて」


「まあな。

でもよ、敢えて服を着せて、リビングに移動させた方が、こう・・・捜査を攪乱(かくらん)できるんじゃねえか?」


「一秒でも早くその場から去りたい人間が、そんな面倒なことをすると思うか?

第一、“全裸”、“びしょ濡れ”、“横たわっている”といった状態の身体に服を着せるのは、至難の業だぞ」


頑張って出した予想を、あっけらかんと翻す。

悔しそうに歯をギシギシやっている警部をよそに、レイは話を進めた。


「そこで、だ」


「もう一つの・・・パターンですね」


先生が冷静に相槌を返す。

そのおかげで、場の空気が一瞬にして引き締まるのを、僕は見逃さなかった。


「リビングの状況、遺体の状況、風呂場の状況・・・これらを考慮して導き出される答え―――」


目線は外さず、ポケットに手を入れ、静かに・・・冷たい息吹を纏うように言葉を放つ。

冷静に、あくまで冷静に。




「―――犯人に呼び出されて、殺害されたパターン」




・・・今朝、僕は耳掃除をしたはずだ。

特に聞こえにくいとか、聞き取りにくいとかそういうのも、全くと言っていいほどない。

だが、僕の耳にはそう聞こえた。

素っ頓狂な声で放った、警部の『は?』という言葉。

漫画でいうところの、グルグル白目で口ポカーンのやつです。

はいそうです、笑うとこです、そこ。


・・・というのは冗談で、レイは至って真面目だ。

僕はレイにどういうことか、質問をぶつけてみた。


「どういうこと?」


「仮に被害者が“入浴後”に殺害されたとする。

当然服も着れば、肌の乾燥具合からして、おかしくはない。

だが、キチンと身体を拭いたとはいえ、入浴後は多かれ少なかれ汗が出る。

肌に触れている衣類は、濡れているはずなんだ」


皆もそういう経験はないだろうか。

風呂上がりに新しい衣類に身を通しても、すぐに服が湿るということが。

特に首回り、背中、脇などが湿る・・・キチンと拭いても湿る。

あれ嫌なんだよねー。


「だが、遺体にはそういった湿った部分はなかった・・・

故に被害者は入浴そのものを“していなかった”ことになる」


「『していなかった』って・・・じゃあ何で被害者はここへ―――」




すると・・・




「・・・っ!」


先生が何かに気付いたようだ。


「なるほど、そういうことか・・・」


「何かわかったんですか!?」


先生は微かに笑みを浮かべた。

ガッチリ固められた鎖が、綺麗に解けたかのように。

レイはチラッと先生に視線を送ると、すぐに会話を戻した。


「被害者はあの服装・・・今着ている服のまま、浴槽へと向かった。

犯人となった“何者か”に呼ばれてな」


その言葉を放った途端、警部の表情がみるみる変わる。

重大な事実を知った、驚きの表情に。


「おいちょっと待て・・・!」


(つら)れて僕も同じ感じになっていた。


「それってまさか・・・!?」




「犯人は――――――被害者に近しい人物だ」




To Be Continued...








※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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