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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第六章 ~ 穢れた正義 ~
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調査ファイル 102 [地獄から来た男 Part 11]

「考えてもみろ、この状況を」


そういうと、レイは辺りを見回した。


「この場所・・・このリビングで空き巣犯と鉢合わせし、殺害されたとしたら、一体どうなる?」


今度は僕たちに向けて、質問を投げかけてきた。


「あ?どうなるって・・・そりゃあ―――」


大蜘蛛警部が眉間にシワを寄せながら、何故か律儀に答えようとしていた。

そんな彼をよそに、僕も僕で彼女の質問を解いていた。

リビングで首を斬られて殺害・・・なんという(むご)たらしい状況だこと。

・・・いや待てよ、それって―――




「・・・っ!」


僕はレイに倣って、辺りを見回した。

慌てて行動をとる僕を、冷ややかな目で警部が見ていた。

何してんだコイツ・・・と、言わんばかりに。


「気が付いたか」


探偵は、ニヤリと笑う。

それでもまだピンときていない警部を気遣ってか否か、探偵様は解説を始める。


「何なんだよ一体・・・」


「いいか、仮に被害者と空き巣犯がここで鉢合わせし、犯人によって殺害されたとする。

それも、被害者の背後をとり、腕を首に回し、ナイフで首を掻っ切ってな」


「ンなこたぁわかってる。

だから何なんだっつーの」


「被害者は喉仏を横一文字に斬られていた。

その際に吹き出る血液は、壁や床に大量に飛び散るのは・・・当然警部もご存じの筈」


「たりめーだ。

御託はいいから早く話せ」


腕を組み、イライラモード全開でいらっしゃる。

レイさん、早く話して差し上げなさい・・・僕は素直にそう思った。

すると、今度は両手を広げ、さながらオペラをやっているかのような振る舞いをしだした。


「何故、壁に血痕がついていない?」


「それは・・・」


首には太い血管が通っており、大きな傷を負えば、それだけ多くの血が飛び散る筈。

首に限らず、ナイフでの傷を負えば、そのナイフが斬りつけた反動により、刃に付いた血が壁や床に付着する可能性は大いにある。

当然、被害者が抵抗もすれば尚更に。


「首を斬られたんだ、血がついて然るべしだ。

だがその痕跡もない。

おかしいとは思わないか?」


「・・・犯人が拭き取ったんだろうよ。

壁に指紋やら何やらが付いたから、それを消すために―――」


―――と、警部が最後まで言い切る前に言葉を遮る人物が一人。


「いや、それは無理だろう」


「最後まで聞け!

・・・って、お前誰だ?」


「ああ失礼、僕は高柳。

札川中央病院で医師をやっている者です」


警部のお怒りをよそに、高柳先生が間に割ってきた。


「一般的に、人間の首を斬れば、大量の出血を伴う。

壁に付着した場合、タオルなどで拭き取ることはできるけど・・・並みの作業ではない。

それに、この部屋の壁紙は真っ白―――真っ赤な血液が大量に付着すれば、いくら拭き取っても、ここまで純白にはなりませんよ」


メガネをクイッと上げ、冷静に語り出す先生。


「でもよ、根気よく拭き取れば血液なんぞ・・・」


と、話し出す警部を、再び言葉の刃が遮った。


「それも無理ですね。

たしかに、血液の成分を分解・・・つまり、痕跡を綺麗に消せるものは実在する。

しかし、この部屋にその道具は存在しないようだ」


続けざまに僕も参戦する。


「それに、犯人は空き巣となれば、いちいち血を拭き取るなんて時間のかかる作業、しないと思いますけど」


「ぬう・・・」


よりしかめっ面になってきている。

あー怒らないで怒らないで・・・!


「そういうことだ。

それに―――そもそも血液は壁に付着していなかった」


「・・・あ?」


『どういうことだ?』と言わんばかりの顔。

警部の頭に、ハテナマークがいくつか浮かんでいるのが、僕の目でも確認できた。


「津田君の言う通り、空き巣犯は血を拭き取る時間なんか持ち合わせていない。

盗るものとって、早々に立ち去りたいからな。

そして、首斬られて出てくる血が、床にあるこれっぽっちのわけもない」


遺体は床にうつ伏せの状態で転がり、首元が重点的ではあるが、血溜まりが出来上がっていた。

だが、大量出血を要する傷とは比例しないほど、血は少なかった。





「この状況から察するに、殺害されば場所は―――」


レイは、言う。






『『『バルスーム!』』』






・・・いや、正確には3人だった。

レイと僕が同じタイミングで言葉を放った。

だが驚いたのは、そこに先生が加わっていたことだ。

先生やるじゃん、なんて。




「風呂場ぁ!?」


警部は素っ頓狂な声を発していた。

おお、しかめっ面の眉が左右高さズレて八の字を描いている。

面白い。


「奇遇だね、黒川さん」


「先生こそ」


レイと先生は、互いにウインクをしていた。

なんだろう、同じ回答したのに・・・この置いてけぼり感。

なんて妙な気持ちに振り回されそうになったが、何とか踏みとどまった僕は、レイたちとバスルームに向かった。




「・・・で、ここが何だってんだよ」


警部は再びしかめっ面の逆八の字眉に戻っていた。


「まだ気づかないのか?」


呆れた・・・と言わんばかりに、小さなため息をつくレイ。

その苦笑いに苛立ちを覚えながらも、一応回答を求めていた。


「いいから言えって」




「やれやれ・・・」




警部の眉が、またもやズレた。




To Be Continued...




※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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