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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第六章 ~ 穢れた正義 ~
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調査ファイル 101 [地獄から来た男 Part 10]

「人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗ったらどうだ?」


ああ、また悪い癖だ。

うちの探偵様は、それはそれはもうおっかない目をしていらっしゃる。

どっちが殺人鬼だよ・・・と、ツッコミたくなるほどに。


「生意気なクソガキだな。

だが、まず最初に名乗るのは・・・お前らの方だ」


人相の悪い男は、よく見るとスーツ姿。

そして懐から何かを取り出し、それは目の前でパカッと割れた。


「え・・・?」


金色に光るエンブレム―――彼は刑事だった。


「さあ、名前を教えてもらおうか。

守秘義務は与えられんぞ、クソガキ」


職務質問という名の“強制尋問”・・・まだこのご時世にあったのかよ。

これ捕まるよね、違法だよね。


「フッ・・・」


だが、それを前にしても、レイは平然としていた。

というか、嘲笑っていらっしゃる。


「警察手帳をひけらかしていては世話ないな。

・・・変わった名前だ、覚えておこう」


見下すかのような表情・・・あなた本当にレイさんデスカ?

心底ドMじゃなくてよかったと、本当に思った。

そんな僕の心情を余所に、彼は頭にハテナを3つ浮かべていた。


「何言ってやがる、お前」


「その手帳は何の為にある?」


「んだよ、ったく・・・

これは己の身分を示す為・・・あ―――」


気怠(けだる)そうに髪を掻きながら話し、次第に表情が変化しだした。

ようやく気付いたらしい。

徐々に顔が真っ赤になっていっている。


「ま、よろしく頼むよ、スパイダー先輩」


そう言うと、レイは部屋の方へと戻っていった。

さながらキャリアウーマンのオーラを、少し(まと)いながら。

一方のスーツ男は、歯をギリギリと食い縛り、怒りに燃えていた。

・・・スパイダー?


「あ、あのー・・・」


「あ!?

んだよコノヤロウ!!」


物凄い剣幕で返事をしだした。

相当癪に障ったのだろう。


「うちの人間が失礼しました。

あ、僕も警察なんですよ」


同様、警察手帳をパカッと開き、彼に見せた。

すると、その表情は少し和らいだ・・・ような気がした。


「探偵課・・・ねえ」


この人も、どこか見下している雰囲気を漂わせていた。


「俺は大蜘蛛(おおぐも) 和繁(かずしげ)、一課の警部だ」


意外にも、役職としてはかなり上層の方だった。

とてもそうには見えない、なんて言ったら殴られそうなので、やめておくことにする。

すると、警部はため息混じりで呟くように口を開いた。


「刑事で且つ第一発見者とはいえ“部外者”だ、あんまり出しゃばるんじゃねえぞ」


捨て台詞のように吐き、レイの後を追うように彼も部屋へと戻る。

だが、そのトーンは先程とは比べ物にならない程優しいものだった。

一応警察の人間というだけあって、同族には多少なり肩を持つのだろうか。

それとも、現場に入る“資格”を持っているから・・・だろうか。




「あ、ちょっと!」


「邪魔はしない、許してくれ」


鑑識さんの制止を振り切り、部屋の中へと入っていく探偵様。

改めて遺体を見つつ、顎に手を当て、再び考え出していた。

その型破りな行動に一瞬驚きつつ、僕も部屋の中へと入った。


「こらこら、鑑識さんの邪魔したら・・・」


レイを連れ戻そうと入った、のだが―――

今度はリビングから離れ、何故か風呂場の方へと向かっていた。


「レイ?

ちょ、ちょっと!」


「・・・・・・」


一言も喋らず、風呂場をまじまじと眺めている。

因みに、マンションのバスルームというだけあって、少々狭い。

あまりここに留まりたくはないのだが、彼女はそうもいかないようで。


「何か気付かないか?」


唐突に質問をぶつけてきた。

何の変哲もない風呂場を前に、一体何に気付けというのかこのお方は。


「皆目見当もつかないですが」


どうやら大蜘蛛警部を引きずっていたようだ。

少々ため息交じりの言葉が、(にじ)み出るようになっていた。

そしてその答えを聞くや否や、そのまま風呂場を後にした。


足早に向かったのは、再びリビング。

鑑識さんの冷たく鋭い、ホント痛々しい視線を受けながら、遺体を三度見つめている。


「今度は何?」




「・・・やはりな」




彼女もまた呟くように、そう言った。


「どういうこと?」


その声に反応したのか、大蜘蛛警部もやってきた。


「おいおい、ここは子供の遊び場じゃねえんだぞ。

邪魔だからとっとと出てけ」


「・・・わからないのか?

この状況をみて、何も気付かないのか?」


「あ?」


警部は苛立ちを込めた返答を挙げた。


わかることといえば、被害者は喉を切られ失血死ということだけ。

部屋を荒らされた形跡もないし、空き巣強盗の線はほぼないに等しい。

いや、たまたま強盗と鉢合わせたという可能性もあるか?


「空き巣犯と鉢合わせた、とか?

そして犯人は咄嗟に飯島さんの背後に回って、腕で首を絞めて、持っていたナイフで切りかかった・・・」


僕は、一つの可能性を示した。

しかし、レイは表情を変えることはなかった。


「たしかに、空き巣犯の可能性もある。

だが、それだと殺害の方法が(いささ)か不自然だ」


「・・・と、言うと?」


呆れた様子で腕を組みながら、静かに続きを催促する。

警部の顔は、より怖いものになっていた。






To Be Continued...








※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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