調査ファイル 100 [地獄から来た男 Part 9]
「ふむ・・・」
遺体の前にしゃがみ込み、顎に手を当てながら黙り込むレイ。
先生も付き添うように、一緒に見分をしていた。
僕は僕で、他の場所を散策していた。
「なにか手掛かりが・・・あるといいんだけど」
手始めに、飯島氏の寝室を当たってみることにした。
ありとあらゆる引き出し、クローゼット、ドアの類を捜索した。
その姿は、さながら空き巣泥棒。
ある程度落ち着いたのだろう、優希も僕の手伝いをしてくれていた。
「なんか見つかった?」
「んーん、なんもない」
優希の方も、手掛かりはなかったらしい。
手掛かりって言っても、当たる場所があまりにも広すぎる。
名刺や写真はたくさん出てきたものの、小さいとはいえここも事務所・・・これは骨が折れそうだ。
大手企業から一個人まで、事情聴取の範囲が膨大過ぎて、どこから手を突ければいいかわからない。
「これは・・・ポータブルプレイヤーの会社の会長!?
こっちはゲーム会社の取締役、こっちはプロダクションの社長かよ」
どれも大きな会社・名前ばかりが揃っていた。
いくら警察の事情聴取とはいえ、世界を股に掛ける人間を“捕獲”するのは容易なことではないぞ?
これが地球の裏側ともくれば、もはや無理だろうな、HA・HA・HA!
「あー、ダメだ。
もうわけわかんね!」
「諦めないでよアッキー。
刑事がそんなことでいいの?」
「いいんだよ、別に。
ってか、今の僕私服だし、刑事に見えないよ」
「そんなこと言って・・・
レイちゃん怒るよ?」
レイに怒られるくらい屁でもない。
大島さんくらいなら、まだ考えてたけど。
「・・・しっかし、物多いな」
ベッドを除けば、窓際に段ボールが、机にはPC機器の諸々が多数置いてあった。
片付けが苦手だったのだろうか。
「仕方ない、段ボールも見て見るか・・・」
ボソッと呟き、段ボールが積んである方へと向かおうとした。
刹那―――
「おわっと!」
足元にあった何かに躓いた。
そのままケンケンでつんのめり、仕舞いにはベッドの方へと倒れ込んだ。
あろうことか、ベッドの近くで色々物色していた優希諸共。
「うわっ!」
まるで修学旅行に来た学生のように、ベッドへとダイブしていた。
何もそこで立たなくていいのに、優希は僕を受け止めようと立ち上がり、そのまま巻き込まれていた。
僕は偶然100%の、“さながら”『大泥棒ダイブ』を決め込んでいた。
ったく、誰だよこんなとこに物置いたのはっ!
「ったたた・・・」
「だっ!ゴメン!
大丈夫か―――」
押し潰してしまった優希を助けようと、ベッドから離れようとした。
したんだけど・・・
「・・・ぎゅ」
「・・・何やってんの」
優希は僕の背中に手を回し、軽い抱擁をしていた。
「―――いや、なんか雰囲気でないかなって」
「はあ・・・」
思わずため息が出てしまった。
そして、ここぞとばかりに反撃を開始した。
「そんなことして、レイ怒るぞ?」
「やっぱし?」
笑っていらっしゃる、この方は。
顔はケロっと、声はニシシと、それはもうイタズラっ子のごとく。
ようやく手を離したおかげで、、僕はベッドからどけることが出来た。
すぐに手を差し伸ばし、優希を起こす。
「あーあ・・・」
積んであったダンボールが、幾つか散らばってしまっていた。
幸いというべきか、被害は上段の数箱だけに留まっていた。
これまたため息を吐きながらも、僕はダンボールへと手を伸ばした。
一部は無傷だったが、一部はフタが開いてしまい、中身が飛び出していた。
書類が足元に散らばり、一面を白く染め上げていた。
めんどくさい。
「・・・あれ?」
書類の中に、一枚だけやけに小さい紙が混じっていた。
印刷紙ではなく、厚紙のようだ。
「どしたの?」
肩越しから、優希が覗き込んでいた。
「これ、名刺だよね」
「さっきのところにはなかったよな」
お偉いさんの名刺の中にはなかったものだ。
いや、それよりこれは―――
「ガタン―――――!」
大きな物音を前に、僕たちに流れる時間が、少し止まった。
どうやら誰かが入ってきたようだ。
誰だろう、と僕らはコソっと呟いた。
「行ってみよう!」
部屋を出て、リビングの方へと向かうと、青い服を身に纏う集団が、そこにいた。
頭には全員雲のような白い帽子、中にはアタッシュケースを持つ者もいる。
「鑑識さん・・・ですか?」
「ええ。
事情は聞いております、皆さんは一度退室願います」
そう言うと、僕たちは部屋を出ることにした。
玄関には数人の警官、地上にも複数の警官やパトカーも配備されていた。
「これは・・・いよいよ大事になってきたな」
冷静に語るレイ。
まあ、依頼人の素性を聞いてから、こうなることは予測してはいたけど。
「ところで、何かわかったことは?」
先程まで現場検証していたレイに、僕は問いた。
「ああ、そうだな・・・」
真剣な面持ちで僕を見つめ、そのまま冷静に話し出そうとした。
その時だった―――
「―――あ?何だお前ら」
人相の悪そうな男が、姿を現した。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




