調査ファイル 099 [地獄から来た男 Part 8]
「ここ、なのか?」
「ここ、だね」
僕と優希は、飯島氏の事務所と思われる場所に到着していた。
事務所・・・というか、普通のマンションだった。
2人揃ってポカーンとした顔をしてしまったが、気を取り直して中へと入っていく。
「たしか、304号室だったはず・・・」
優希は郵便受けを確認し、先にエレベーターの方へと向かっていた。
「・・・あれ?」
はみ出すように投函された新聞。
時間的はまだ昼だし、厚さから見て朝刊のようだ。
ひょっとして留守かな?
「何してるのー?
ほら行くよー!」
こちらへ手を振り、搭乗の催促をしている。
はいはい、今行きますよっと。
3階ということもあって、あっという間に到着した。
ここが依頼人の求める人がいる事務所・・・304号室。
表札には『飯島』の文字があった。
「ここで間違いないようだね」
「でも留守かもしれないよ?」
優希は首を傾げ、少し不思議そうに問う。
「え、なんで?」
「だって朝刊がそのままだったし、多分どっか出掛けてるんじゃない?
あるいは、まだ来てないとか」
腕を組み、『たしかに』と言わんばかりに唸り始めた。
しかしそこは神山優希、次にとる行動は決まっている。
「まあ大丈夫っしょ!」
躊躇なくインターホンを鳴らす。
なんというか、優希らしいな。
考えるより先にまず行動・・・変わらないな、ホントに。
だが、優希の突発的行動を前にしても、扉が開かれることはなかった。
「あれ、やっぱ留守?」
「ほれみろ」
まだ出社してないんだよ。
とはいえ太陽は随分と高く昇ってるから、おそらくはどっか出掛けているパティーン。
仕方ない、出直すか、と踵を返し、帰ろうした・・・刹那―――
「あれまあ」
金属音の気持ちいいトーンが響く。
・・・僕の耳がおかしくなければ、今『ガチャ』って言ったよね?
『ガチャ』って鳴ったよね?
振り返ると、優希の左手は・・・ああやっぱり、ドアノブに掛かっていた。
「何やってんの!?」
「いや、もしかしたら開いてるかなーって」
わかるよ、その気持ちはわかる。
でも一探偵がやっちゃいけないことでしょ!?
「あのなあ・・・」
「飯島さーん?
お邪魔しますよー?」
住居不法侵入・・・こりゃ逮捕モノだな。
「おい待てって!」
乗り掛かった舟は、今にも沈みそうなものだったのかもしれない。
はあ・・・
「結構綺麗にしてるんだね」
「あまり物色するなよ」
玄関から辺りを見回し、少しはしゃいだ様子の優希。
念を押して言うが、僕たちは探偵であって、泥棒ではない。
僕に至っては刑事、令状もなしに捜索するのは気が引けるというものだ。
「って言ってもねー・・・あれ?」
優希の足が、止まった。
その眼差しは、リビングの方へと向いていた。
どうしたのだろう。
「今度は何だ?」
「ねえ、何か床に転がってない?」
テーブル越しに、何かが見える。
よく見ると、優希の言う通り、そこには転がっている“何か”があった。
「優希、ここで待ってて」
少し怯えた様子で、小さく頷いていた。
僕は静かにリビングに入り、テーブルの奥にある“もの”の正体を確認しに向かった。
そしてその正体は、一瞬で判明した。
「・・・おいおい、マジかよ」
転がっていたのは、“人”だった。
つい最近まで呼吸をし、ちゃんと生きていたであろう、人間。
見るも無残に、血塗れになって倒れていた。
彼の後頭部付近には血溜りが出来ており、首が以上に赤黒く映えていた。
「参ったな、これは・・・」
そんな僕の声を聞き付け、恐る恐る優希が出てきてしまっていた。
気付いた時には僕の背後に立っており、運悪く“それ”を見てしまったのである。
「え・・・?」
その一言から間も無く、優希は手を口に当て、容赦なく声を上げた。
天まで劈く程の強烈な声は、マンションを覆い尽くすが如く、響き渡っていた。
「落ち着け優希、まずは警察に連絡だ」
慌てふためく優希を宥め、すぐさま警察に連絡させた。
その間、僕は携帯を取り出し、レイへと電話を掛けた。
正直、僕も少しパニックになっている。
まさか、この男性・・・飯島さんが亡くなっているとは、思ってもみなかったからだ。
「津田君、どうした!?」
「飯島さんが―――何者かに殺された」
「何だと!?」
普通じゃないトーンを聞き、先生は私に問う。
「どうしたんだい?」
その問いに、電話を耳から離し、マイク部分に手を掛け、端的に先生へ伝えた。
「死体が、発見された」
「何だって!?」
「私は現場に向かう。
もしもし津田君、場所を教えてくれ・・・」
再び携帯を耳に当て、現場の住所を聞こうとした。
「僕も行くよ、すぐに車を用意する」
一瞬驚いたが、私はアイコンタクトで了承をした。
「すまない、もう一度場所を言ってくれ」
懐からメモを取り出し、住所をメモした。
程なくして一台の車が私の前に止まる。
急いで乗り込み、先生の運転の下、現場へと向かった。
「津田君!」
「ああ、レイ!」
「状況は?」
「ご覧のありさまさ」
僕はレイたちに凄惨な現場を見せた。
・・・・・・ん、レイ“たち”?
「久しぶりだね、津田さん」
「あなたは・・・病院の先生!」
「高柳宗一です、改めてお見知り置きを」
「話はその辺にして、まずは実況見分だ」
そう言って、そそくさと行動しようとしているレイ。
実況見分って・・・僕と先生はともかく、レイが先導切ってやるのは何かな・・・
「ほら、ボヤッとしない!」
こうして、警察が到着するまでの間、僕たちは“勝手に”実況見分を行っていた。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




