調査ファイル 094 [地獄から来た男 Part 3]
「元・・・犯罪者?」
どこからツッコめばいいか、もうわからなくなっていた。
現状、頭の中は真っ白だった。
ただ、殊の外驚きはしなかった。
何故なら―――
「ふむ・・・どうやら訳あり、ということらしいな」
―――そう、彼女である。
こちらの探偵は、泣く子も黙る大怪盗。
いや、正確には“元”大怪盗といったところか。
レイを見ると、罪人であってもそこまで驚愕することはなくなっていた。
・・・ある種の感覚の麻痺ってやつかな。
「でも待ってください。
どうして捜査一課の方が警護を?
部署違うと思うんですが・・・」
僕は先程訪れた真城さんに、面と向かって話した。
一課の人って結構厳つい人多いけど、どうもこの人はそうでもないみたいだ。
だからこうやって目を見て話してはいるけど・・・どうなんだろう。
そんな考えを余所に、真城さんは真顔で返答を口にする。
「たしかに、本来は我々の仕事ではない。
“本来”は、な。」
「どういう意味だ?」
含みのある言い方に、レイは眉を細めた。
「要人警護というのは、総理大臣などの政界関係者が多数を占める。
が、彼のように刑期を全うした人物の警護は非常に稀だ。
故に、残念なことに、札川署はそういった警護をあまりしない」
全ての警察署がそうというわけではない。
だが、実際問題“SP”の活躍の場といえば、政治に携わる人物が圧倒的に多い。
元犯罪者の警護なんて、前の職場でも聞いたことはない。
「それに・・・」
「・・・それに?」
突然、真城さんの表情が曇った。
その変化に気付き、僕は一歩引いた顔で続きを促した。
「―――彼は、大罪人だ」
トーンも低めに、真城さんはそう言った。
まぁ・・・・・・この目付きなら、ねぇ―――
ソファで未だに冷気と瘴気を放ち続ける男性を見て、僕はそう思った。
「なるほど。
・・・参考までに聞くが、一体何をした?」
レイは臆することなく、男に問う。
それどころか、若干目が活き活きしていた。
不謹慎だぞー、おーい。
そして男は、重い口をゆっくり開く。
「―――人を、殺した。」
その瞬間、僕たちのいるこの空間は一瞬にして凍り付いた。
不思議なもので、手足が妙に冷たくなっているのを、それとなく感じていた。
レイも、驚愕の表情を浮かべていた。
そんな僕たちを見かねて、真城さんが解氷してくれた。
「10年前の事件を覚えているかい?」
「10年前・・・?」
僕が中学2年生の頃だ。
なんかあったっけ?
大罪人、事件、殺人――――――あ、もしかして!
「・・・思い出した、あの小学校の?」
「小学校で、何かあったのか?」
そうか、レイは知らないのか。
当時の年齢でいえば8歳、知らないのも無理ないか。
「どこのテレビも同じニュースばっかりだったんだよ。
それぐらい凄い事件だったんだから」
「津田君の言う通りだ。
世間を震撼させた、とはまさにこの事だろう」
僕と真城さんは、当時を振り返り、目で見た恐怖の映像を思い返していた。
そんな僕らを見て、相変わらずハテナを浮かべていた。
「・・・いや、全く知らないな。
10年前―――日本にいなかったからな・・・」
どうやら日本育ち、というわけでもないらしい。
それはそれで知らなかった・・・
「それで、その事件とは?」
「ああ。
10年前、とある小学校に刃物を持った人物が侵入し、小学生を殺害した・・・という事件だ。
迷うことなく一つのクラスに行きつき、片っ端から刃物で―――
私は事件に関わっていなかったから、後で聞いた話だが、1つのクラスが消滅したらしい。
その犯人こそが―――」
その犯人こそが・・・今回の依頼者らしい。
ここまで聞いてしまえば、僕でさえ身構えてしまう。
「・・・・・・」
ソファの男は、相変わらず黙りを決め込んでいる。
それが返って怖いんだって―の!
「・・・なるほど。
では改めて聞こう、誰を探せと?」
この娘も負けじと踏ん反り返って答えている。
「・・・・・・兼ねての、知り合いだ」
男が言うには、以前親交のあった人物を探してほしいとのこと。
依頼内容は思ったよりあっけないものだった。
いやそりゃ依頼ともなればしっかり任を全うするけどさ、こうも拍子抜けするというか何というか。
「ふむ・・・」
すると、レイは顎に手を当て、考える仕草をしながら黙した。
5秒くらいだろうか、考えた後、彼女なりに決心したらしい。
「相分かった、その依頼―――引き受けよう」
レイは依頼を引き受けることにした。
それでも、男の顔は・・・冷ややかなままだった。
ちょっとは嬉しい仕草でもしたら?
・・・なんて言えないですよねー!
「では参考までに聞くが、その人物を特定できる物はあるか?
写真とか、かつての住所とか」
落ち着いたトーンで問い掛けると、男もまた静かに、ゆっくりと首を振った。
希望の縦ではなく、絶望の横に。
「そうか、ならいい。
ではその人物の名前を教えてほしい」
そう、これがないと何も始まらない。
多分名前さえわかればある程度は絞れる・・・はず。
この質問を受けても首を横に振る、なんてことはないだろう。
そんな期待を察したのかしてないのか、今までの行動から見てもよりスムーズにパッパと話し始めた。
―――言うて遅いけどね。
「・・・・・・飯島、紀洋。
・・・当時は、35歳だった」
渋く重心のある声で、呟く様に話した。
その言葉を聞き、レイはようやく警戒の眼差しを解いた。
そして―――
「了解した」
―――そう、言った。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




