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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第六章 ~ 穢れた正義 ~
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調査ファイル 094 [地獄から来た男 Part 3]

「元・・・犯罪者?」


どこからツッコめばいいか、もうわからなくなっていた。

現状、頭の中は真っ白だった。

ただ、殊の外驚きはしなかった。

何故なら―――




「ふむ・・・どうやら訳あり、ということらしいな」




―――そう、彼女である。

こちらの探偵は、泣く子も黙る大怪盗。

いや、正確には“元”大怪盗といったところか。

レイを見ると、罪人であってもそこまで驚愕することはなくなっていた。

・・・ある種の感覚の麻痺ってやつかな。


「でも待ってください。

どうして捜査一課の方が警護を?

部署違うと思うんですが・・・」


僕は先程訪れた真城さんに、面と向かって話した。

一課の人って結構(いか)つい人多いけど、どうもこの人はそうでもないみたいだ。

だからこうやって目を見て話してはいるけど・・・どうなんだろう。


そんな考えを余所に、真城さんは真顔で返答を口にする。


「たしかに、本来は我々の仕事ではない。

“本来”は、な。」


「どういう意味だ?」


含みのある言い方に、レイは眉を細めた。


「要人警護というのは、総理大臣などの政界関係者が多数を占める。

が、彼のように刑期を全うした人物の警護は非常に稀だ。

故に、残念なことに、札川署はそういった警護をあまりしない」


全ての警察署がそうというわけではない。

だが、実際問題“SP”の活躍の場といえば、政治に携わる人物が圧倒的に多い。

元犯罪者の警護なんて、前の職場でも聞いたことはない。


「それに・・・」


「・・・それに?」


突然、真城さんの表情が曇った。

その変化に気付き、僕は一歩引いた顔で続きを促した。




「―――彼は、大罪人だ」




トーンも低めに、真城さんはそう言った。

まぁ・・・・・・この目付きなら、ねぇ―――

ソファで未だに冷気と瘴気を放ち続ける男性を見て、僕はそう思った。


「なるほど。

・・・参考までに聞くが、一体何をした?」


レイは臆することなく、男に問う。

それどころか、若干目が活き活きしていた。

不謹慎だぞー、おーい。


そして男は、重い口をゆっくり開く。




「―――人を、殺した。」




その瞬間、僕たちのいるこの空間は一瞬にして凍り付いた。

不思議なもので、手足が妙に冷たくなっているのを、それとなく感じていた。

レイも、驚愕の表情を浮かべていた。

そんな僕たちを見かねて、真城さんが解氷してくれた。


「10年前の事件を覚えているかい?」


「10年前・・・?」


僕が中学2年生の頃だ。

なんかあったっけ?

大罪人、事件、殺人――――――あ、もしかして!


「・・・思い出した、あの小学校の?」


「小学校で、何かあったのか?」


そうか、レイは知らないのか。

当時の年齢でいえば8歳、知らないのも無理ないか。


「どこのテレビも同じニュースばっかりだったんだよ。

それぐらい凄い事件だったんだから」


「津田君の言う通りだ。

世間を震撼させた、とはまさにこの事だろう」


僕と真城さんは、当時を振り返り、目で見た恐怖の映像を思い返していた。

そんな僕らを見て、相変わらずハテナを浮かべていた。


「・・・いや、全く知らないな。

10年前―――日本にいなかったからな・・・」


どうやら日本育ち、というわけでもないらしい。

それはそれで知らなかった・・・


「それで、その事件とは?」


「ああ。

10年前、とある小学校に刃物を持った人物が侵入し、小学生を殺害した・・・という事件だ。

迷うことなく一つのクラスに行きつき、片っ端から刃物で―――

私は事件に関わっていなかったから、後で聞いた話だが、1つのクラスが消滅したらしい。

その犯人こそが―――」


その犯人こそが・・・今回の依頼者らしい。

ここまで聞いてしまえば、僕でさえ身構えてしまう。


「・・・・・・」


ソファの男は、相変わらず黙りを決め込んでいる。

それが返って怖いんだって―の!


「・・・なるほど。

では改めて聞こう、誰を探せと?」


この()も負けじと踏ん反り返って答えている。


「・・・・・・兼ねての、知り合いだ」




男が言うには、以前親交のあった人物を探してほしいとのこと。

依頼内容は思ったよりあっけないものだった。

いやそりゃ依頼ともなればしっかり任を全うするけどさ、こうも拍子抜けするというか何というか。


「ふむ・・・」


すると、レイは顎に手を当て、考える仕草をしながら黙した。

5秒くらいだろうか、考えた(のち)、彼女なりに決心したらしい。


「相分かった、その依頼―――引き受けよう」


レイは依頼を引き受けることにした。

それでも、男の顔は・・・冷ややかなままだった。

ちょっとは嬉しい仕草でもしたら?

・・・なんて言えないですよねー!


「では参考までに聞くが、その人物を特定できる物はあるか?

写真とか、かつての住所とか」


落ち着いたトーンで問い掛けると、男もまた静かに、ゆっくりと首を振った。

希望の縦ではなく、絶望の横に。


「そうか、ならいい。

ではその人物の名前を教えてほしい」


そう、これがないと何も始まらない。

多分名前さえわかればある程度は絞れる・・・はず。

この質問を受けても首を横に振る、なんてことはないだろう。

そんな期待を察したのかしてないのか、今までの行動から見てもよりスムーズにパッパと話し始めた。

―――言うて遅いけどね。


「・・・・・・飯島(いいじま)紀洋(のりひろ)

・・・当時は、35歳だった」


渋く重心のある声で、呟く様に話した。

その言葉を聞き、レイはようやく警戒の眼差しを解いた。

そして―――



「了解した」




―――そう、言った。




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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