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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第二章 ~ 探偵の夜明け ~
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調査ファイル 005 [ノーヒント]

2016年2月27日、9時00分。

今日も朝早く出勤する。

他の警察官や職員の方より、若干遅めではある。

理由は僕の所属している課が、警察の中でも最近出来た異色の課だからある。

その名も、『探偵課』。

以前は『怪盗対策課』という何ともチンケなところで、怪盗関連の事件のみ携わることが許される課だった。

一応拳銃の使用も許されてはいたが、生憎僕には許可が下りなくなってしまった。

前述通り最近出来た『異色』の課である故、捜査一課や捜査二課などとは一線どころか十線ほど離れた、いわゆる“窓際”である。


割と自由な場所ではあるが、仕事の内容は探偵との業務提携である。

依頼された仕事を探偵へと持っていき、それを申請するというものだ。

因みに、有名な推理小説のような探偵と助手で行動するということはなく、そんな酔狂なことをやるのは、正直僕だけである。

悲しくなんかないぞ、これは仕事なんだ、そう仕事なんだ―――


色々と考えていた僕は、探偵に渡す書類を貰いに来た・・・わけではなく、車を借りに来たわけで。

電車で行くと運賃を申請しなければならないので、車で行くようにしている。

どうやらこの課は電車賃は申請必須で、ガソリン代は全面支給してくれるらしい。

なんだかなぁ。

ブツブツ言いながらも、僕は探偵事務所へ向かった。


キッカリ30分で到着した(のち)、いつものようにチャイムを鳴らす。

これまたいつも通りスーツ姿でレイは現れた。

ただ、いつもと違うのは、玄関に2足の見慣れない靴があるということだ。


「来客か?」


「ああ、これから話を聞こうとしていたところだ」


レイはグッドタイミングと言わんばかりに口角をクイッと上にあげた。

本当に助手っぽくなってきたな、僕。


部屋に入ると、男女1組がソファに座っていた。

左手に指輪をしているところを見ると、夫婦だろうか。

共に優しそうな人たちだが、一体何の用なのだろうか。


「それで、ご用件は?」


クールな口調で切り出したレイに、二人は少し悲しい表情で話し始めた。


「実は、うちの娘が行方不明なんです」


行方不明―――?

そういやこないだ前田さんがそんな話してたっけな。

たしか書類には小学生の女の子って書いてたような。

しかし、なんで警察ではなく探偵事務所へ?


「すみません、何故警察ではなく探偵事務所へ依頼されたのでしょうか?」


「それは―――」


母親は、黙り込んでしまった。

何か理由があるのだろうけど、少し不自然ではある。


「―――何か事情がおありのようですね。

仰りたくないのであれば、仰らなくて結構です」


何かを察したのか、レイはそれ以上追及しなかった。

探偵は依頼人のプライバシーを守る、これは彼女の理念だ。

その上で話したくないことは無理に聞かない・・・プライバシーを守る人として、例え依頼主であろうとプライバシーを侵害するのはご法度だ、とでも考えているのだろう。

目だけをこちらに向けたレイは、僕にわかってくれ・・・と言ってるような気がした。

僕も警察、無理に深く聞くのは違法行為だと自覚している為、ここは敢えて身を引くことにした。


「それで、お子様の特徴は?」


「はい―――」


レイは話を進める。

母親に代わり、父親が特徴をスラスラと述べていく。

まとめると、小学生3年生の男の子で、名前は「須田(すだ) 冬弥(とうや)」という。

失踪したのは昨日、着用していたのは黄色にお腹辺りに緑色のラインが入ったシャツと、水色の短パンとのこと。

失踪直前、15時頃に友達の家に遊びに行くと伝えたまま行方不明になったらしい。

夕食時になっても帰って来ないのを不思議に思い、行先の友人宅へ電話したら『来ていない』と伝えられ、事が発覚したとのことだ。


「なるほど。それで、他にお変わりになられたことはございませんか?

手紙とか、電話とか」


「いえ、特には・・・」


誘拐―――ではなさそうだな。

身代金の要求がないのが何よりの証拠。

しかし、どこで油売っていなくなったのか。


「わかりました。では、こちらの書類にご記入ください。

何かわかり次第、ご連絡させていただきます」


そう言うと、母親が書類に書き始めた。

左利きの彼女は、綺麗な字でスラスラと書き始める。

一方の父親はというと、そわそわして落ち着きがない。

よほど心配なのだろう、先程から貧乏ゆすりを続けている。


書類を書き終えた後、僕たちに『よろしくお願いします』とお辞儀をし、事務所を後にした。


「それでは、手掛かりを探しに行こうか」


本格的に探偵の助手へとシフトチェンジさせられた僕は、車を走らせた。

どこへ向かうのかもわからず、ただひたすらに。

目的地を教えないレイは、100m手前辺りからしか案内をしない為、どこへ行くかを僕に教えないつもりらしい。

着いてからビーックリ!・・・なんていうのは期待すらしていない。

そんなサプライズいらないからね、ホント。


10分くらい走った頃、レイは車を止めるよう指示した。

そこにあったのは、公園だった。

小さなグラウンドのような場所で、端の方に遊具が揃っていた。


「ここがどうかしたの?」


書類と睨めっこしながら、公園と書類を交互に見ている。


「おそらく、ここに立ち寄った後、行方不明になったのだろう」


核心を突いたような感じに呟くレイ。

書類に書いてあった何を見てそう思ったのだか。

さっぱりわからない僕は、助け舟を要求した。


「何でそう思うんだ、レイ?」


レイは小さく手招きをした。

僕はレイに近寄ると、書類を見せてきた。

先程冬弥くんの母親が書いた書類だ。

名前や住所、電話番号などなど、色々書かれていた。

しかし、ある項目を見て僕は目をしかめる。


「備考欄に『サッカーボール』って書いてあるね」


「そう。ということはつまり―――」


ここでサッカーをしに来た―――

母親の証言と合わせると、冬弥君は友達の家に向かい、友達と合流した後ここに向かおうとしていたということか。


「仮にここで誘拐されたとしたら、ここに冬弥君のサッカーボールがあるはずだ」


「そうか、それを探せば!」


ここに来たという証拠になる。

そうと決まれば、捜索開始だ。


公園はグラウンド部分が敷地内の約7割を覆っていた。

残りの3割の内2割は遊具、残りはグラウンドを囲っている草木だ。

ここでサッカーボールが隠れる場所といえば、遊具の影か草木の中。

しかも実際にサッカーをしたとなると、可能性が高いのは草木の中か。

レイと手分けして草を掻き分け、木の周りを隈なく調べた。




捜索開始10分後、サッカーボールは見つからなかった。




「なあレイ、本当にここに来たのか?」


「その筈だ。ボールを持ち出して家で遊んでいたとは考えにくい」


その道中で誘拐されたのではとも考えられる。

行き帰りのどちらかに犯行が行われたのではないか。

しかし、レイは諦めていなかった。


「津田君、サッカーをやったことはあるかい?」


「ありますよ、学生時代に」


唐突に何なんだ・・・

そりゃあ小中では体育の必修だったし、高校でも選択授業でやったよ。

まさか、今ここでやれとでも?

いや、まさか―――


「やれ・・・なんて、言いませんよね?」


「はあ、今の状況を考えなさい」


怒られた。

そうだよ、今は捜査中なんだ。

真面目にやらねば。


レイは顎に手を当てて考え始めた。

ヒントなしの推理で、どう結論を出すつもりだ?

少しばかり悩んでいたが、何かに気が付いたようで、僕に問いだす。


「津田君、サッカーはスポーツだよな?」


「当然じゃないか」


当たり前のことをさもおかしいかのように聞いてきた。

そりゃあ端から端までボールを蹴りながら走るでしょうに。

2人だけだとしても、ボールの奪い合いとシュートによる攻防ともなれば否が応にでも疲れるから、スポーツになるだろう。


「―――では、スポーツを行って疲れたら、どうする?」


「そりゃ休むに決まって―――あ!」


そうか、遊具!

あそこならベンチもあるし、子供なら遊具の上で休憩することも考えられる。

僕たちは遊具の方に向かい、辺りを調べた。

すると、ボールはシーソーの影に隠れていた。

ご丁寧に名前まで書いてある。


「見つけた―――」


少し嬉しそうに、レイは呟いた。

しかしこれで終わりではない。

すぐにまた手詰まり状態に逆戻りだ。


「また振り出しか・・・」


僕は落胆して顔を下に向けた。

その時、足元に何か転がっている。

ん、何だろうコレ。




足元には、真新しい袋に入っていたアメがあった。




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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