調査ファイル XX10 [バレンタインデー大作戦 Part 7]
「いや~、よかったね~・・・」
「ホントですよね~・・・」
双方の後ろの方で、ちょっとオバチャマチックなリアクションをしている二人。
その瞬間、そういえば僕たちだけじゃなかったんだ、と・・・気付かされたのである。
「いや~、お熱いね~・・・」
「ホントですよね~・・・」
「なっ―――!」
「ち、違う!
僕たちは別にそんな関係じゃ・・・!」
茶化すような目線で、二人してニヤニヤ笑っていらっしゃる。
ニャロー、デコピン喰らわすぞチキショーめ。
「・・・でも、ありがとな」
「・・・ん」
僕は優希に、改めて礼を言った。
やっぱ一緒にいた時間が長いのもあったのだろう。
励ましてくれる存在は、かなり大きいらしい。
何より、少し嬉しかった。
「春香ちゃんも、ありがとね」
振り返り、春香ちゃんにも礼を言った。
照れくさそうに頭をポリポリと掻いていた。
「・・・それはそうと、津田君は何故怒りを覚えたんだ?」
ああ、そういえばそうだ。
別段恋愛感情を抱いているわけではないのに、何故だろう。
「実際のところ、よくわからないんだ。
二人でいる瞬間を見た途端、何故だかこう沸々と・・・」
「ふむ・・・」
僕とレイは同時に腕を組み、一緒に考え込み出していた。
それを余所に、優希と春香ちゃんは―――
「それって・・・」
「・・・そうだよね?」
互いに理解し合っていた。
けれど僕は気に留めることもなく、未だ考え込んでいた。
「それじゃ帰りますか、丸く収まったところで。
ほーら、二人とも!」
優希につられ、僕たちは事務所へと戻っていった。
「こいつは・・・また大そうなことで」
男は、先程レイたちがいた場所に立っていた。
地面に落ちていた石のようなものを拾い、そのまま地面に落とし、右足で踏みつける。
足の裏でタバコを消すように2~3回グリグリと潰し、そのまま地面を削るように右側へと蹴った。
粉々になった“それ”は宙に舞い、風に乗ってどこかへと消えていった。
「次は気を付けろよ―――レイ」
その言葉を残し、男もまたどこかへと消えていった―――
僕たちは事務所に戻ってきた。
扉を開けると、そこには美羽がいた。
「あ、兄さん・・・」
「美羽、どうしてここに?」
「家にも警察署にもいないから、探しに来たのよ。
あと考えられるのは、ここかなって」
妹よ、警察署を親戚の家か何かと勘違いしていないか。
そう易々と『いますか?』なんて探しにいける場所ではないのですわよ。
―――って、説明するのも何度目なのだろうか。
「あれ、美羽ちゃん!」
「優希さん!
ご無沙汰しています。
レイさん、春香ちゃん、こんにちは」
「いらっしゃい、美羽」
「美羽お姉ちゃんだ!」
・・・とまあ、事務所がいい感じに賑わってきたところで、優希が突然―――
「よし、そんじゃあ今日はパーティーでもやりますか!」
―――なんて切り出してきたのである。
「パーティー!?
ここでか?」
「ここ以外どこでやるのさ。
レイちゃん、いいよね?」
普通は先に家主に許可を得て然りだろうに。
レイだっていきなりは―――
「ああ」
いいのかよ。
二つ返事とはこれ如何に。
でもまあ、たまにはこういうのも・・・
「悪くない、かな」
「それじゃあ兄さん、買い出し行ってきて」
「な、俺が!?」
「そうよ。
荷物持ちは男の仕事、でしょ?」
始まったよ、学祭の諸葛亮め。
こういうパーティーや出し物系になると、あれやこれや仕切りたがる、美羽の悪い癖。
しかもいくらゴネても聞く耳すら持たないという超絶一方通行。
こうなっては、従う他選択肢はない。
「はいはい、わかりましたよ」
早速出掛けようとした時だった。
「おう、みんなお揃いか」
「やっほー、みんな!」
前田さんと宮川さんが、何故かいらっしゃっていた。
「お二人とも・・・どうしたんですか!?」
「ここに来る途中、バッタリ会ってな」
「私は神山さんから連絡貰ったから来たの」
優希・・・まさか、帰る途中で既に実行を決めていたのか。
何と抜け目のない奴、いやはや。
「んで、俺はお前を探しに―――」
今度はどぎつい視線をぶつけられてしまった。
え、僕なんかしたっけ。
「・・・ご用件は?」
「お前、昨日サボったろ」
あ、いっけね。
「明日、ペナで残業な」
うへー・・・
警察官として、やってはいけないこととは重々承知ではあるが―――
しかし、普通の警察官と違い、重罰という重罰は課せられない。
僕の所属は探偵課、一課や二課などの表沙汰の部署ではないからだ。
とはいえ、職務放棄ともなれば、それくらいは最低ラインか。
「・・・了解です」
「心配すんな、俺も手伝ってやる」
前田さん・・・!
――――――またサボらない為の見張り役とかそんなんじゃないですよね、違いますよね!?
「ま、それはそれだ。
なんだよ、随分と楽しそうじゃねえかよ。
飲むんなら俺も混ぜてくれ」
・・・といった具合に、探偵事務所は本日、パーティーの為休業となりました。
だいぶ夕方になってはいたが、こんな時間から大人組はアルコールに洒落込んでいた。
未成年組も、今回ばかりはカロリー無視の食事を堪能していた。
誤解の解けた明彦とレイは、仲間たちと遅くまではしゃぎ騒いでいた。
胸元に着けたブローチも、祝福の輝きを静かに放っていた。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




