表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
番外編 ~ Valentine Rhapsody ~
108/129

調査ファイル XX9 [バレンタインデー大作戦 Part 6]

「レイ―――」




「あ・・・」




僕はレイを見つめながら、言葉を失ってしまっていた。

レイも、どうやら同じらしい。


「ほーらっ!」


「頑張ってっ!」


優希は僕の背中を少し強めに押した。

春香ちゃんも、同様にレイの背中を押していた。

押し出された僕たちは前方に数歩歩かされ、触れられる程の距離まで近づいていた。


「・・・・・・」


「――――――」


相変わらず、言葉は息を潜めていた。

しかしこのままでは埒があかない。

僕は優希からの、見えない応援を受け、無理くり言葉を捻り出した。




「「あ、あの・・・!」」




言葉は、二人分放たれた。

白い息だけが宙に舞い、静かに消えていった。

そしてそのまま―――沈黙に帰っていった。


「・・・・・・」


「――――――」


勇気を出した結果、その頑張りが相殺されてしまったのが、少しショックだった。

まさか、レイからも勇気をぶつけられたとは。

そこから静かに顔を上げ、レイの顔を見つめていた。

時折、目線を反らしながら。


それは、レイも同じだった。


「あの・・・その・・・」


今度こそ・・・!




「「―――ゴメン!!!!」」




またもや、勇気と勇気のぶつかり合いだった。

しかし、先程とは違い、今度は意思表示がハッキリしていた。


「え・・・?」


「えっと・・・え?」


互いにハテナマークが頭の上に浮かんでいた。

ナニ、ドユコト?


「なんでレイが謝るんだ?」


「津田君こそ・・・」


不意に視線を奥にやると、どうやら優希も想定外だったようだ。

同様に頭の上にハテナマークが浮かんでいた。


「僕は、その・・・レイとあの男と二人でいることに、何故だか無性にイライラしていたんだ。

なんで怒りが込み上がってきたのかは、よくわからないんだけど・・・」


僕はとうとう、本心を彼女に話した。

しかし、当の本人は―――まるで理解してないどころか、疑問を抱いている感じを漂わせていた。


「どういうことだ・・・?

私が津田君に対して隠し事をしているから、怒ったのではないのか?」


「隠し事・・・?

それって、あの男と密会してることだろ?」


「密会?何のことだ?

昨日も言っていたが、あの男とは?」


「昨日駅前で男と会ってただろ」


その言葉に気付き、レイはハッとしていた。





「ああ、あの人か。

彼は私が依頼を持ち掛けた――――――料理の先生だ」




りょ・・・料理の、先生!?


「ちょ、ちょっと待って。

あんなに楽しそうにしていて、仕舞いには閑散とした場所に向かって、ビルの中に―――」


「ああ、入っていったさ。

あの中にクッキングスタジオがあるんだ」


「す、スタジオッ!?」


ってことは、レイがついていったのは料理する場所で、その手引きをしたのが―――先生だった、ってことか?


「それより、津田君は私が隠し事をして、そのことに腹を立てていたのではないのか?

招待状の件を君に黙って出向いて、帰ってきた時狼狽していたじゃないか」


「たしかにあの時は色々な感情がグルグル駆け巡ったよ。

でも無事だったから良かった、それだけだよ。

それに、レイが秘密にしていることはもっとたくさんあるだろ?」


出生について、僕は何も知らない。

レイ自身が話せる時になるまで保留、ということで落ち着いている。


「あ・・・言われてみればそうだな」


二人で見合って、数秒間の静止が観測された。


「ってことは僕たち・・・」


「・・・互いに勘違いしていた、ということか」




結論が、出た。

それもとーっても、ベタ。


そう、『勘違い』。


互いに物事の先を見て、それが原因だと思い込んでしまっていたらしい。

まあともあれ、しこりが取れたようで良かった。


「あ、そうだ。

これ―――」


僕はポケットから小さな箱を取り出す。

そしてそのまま、レイへと渡した。


「これは・・・?」


「開けてみて」


きょとんとした顔で、渡された箱をパカッと開けた。


「・・・!!」


「その・・・なんというか、日頃のお礼にと思って」


箱の中には、青黒く光るブローチ。

リボンが(こしら)えており、派手過ぎない印象を秘めていた。


「あ・・・ありがとう」


レイは、笑顔を(にじ)ませていた。

その嬉しそうな感じを見ているだけ、僕も嬉しく感じていた。


「それはよかった」


「あの―――私からも、これ・・・」


そういうと、レイも小さな袋を取り出した。

受け取って早速中を取り出すと、ハート型の箱が入っていた。


「レイ、これって・・・」


「その・・・今日ってバレンタインデーだろ。

私も、日頃のお礼をと、思って―――」


レイは、顔をより赤らめて、視線を反らしていた。

よく見ると、服装はより女性らしく、これからデートですと言わんばかりに着飾っていた。

髪は素直に下ろし、白いカーディガンを羽織り、ベージュの少し長めのスカートを履いていた。

足元は黒いストッキングで包み、可愛らしいムートンブーツを履いていた。

どうやら、今日この時の為に、本気だったらしい。

そして箱の中身は、箱と同じく形成された、ハート形のチョコレートだった。


「これ、本当に僕に?」


「ああ。

受け取って、もらえるか?」


ここまできてそれを言うかキミは。

ハハ・・・言うまでもない。


「―――もちろん!」




赤らめた顔が、より赤らんでいた。

比例するように、笑顔もより明るいものへと変わっていった。




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ