調査ファイル XX9 [バレンタインデー大作戦 Part 6]
「レイ―――」
「あ・・・」
僕はレイを見つめながら、言葉を失ってしまっていた。
レイも、どうやら同じらしい。
「ほーらっ!」
「頑張ってっ!」
優希は僕の背中を少し強めに押した。
春香ちゃんも、同様にレイの背中を押していた。
押し出された僕たちは前方に数歩歩かされ、触れられる程の距離まで近づいていた。
「・・・・・・」
「――――――」
相変わらず、言葉は息を潜めていた。
しかしこのままでは埒があかない。
僕は優希からの、見えない応援を受け、無理くり言葉を捻り出した。
「「あ、あの・・・!」」
言葉は、二人分放たれた。
白い息だけが宙に舞い、静かに消えていった。
そしてそのまま―――沈黙に帰っていった。
「・・・・・・」
「――――――」
勇気を出した結果、その頑張りが相殺されてしまったのが、少しショックだった。
まさか、レイからも勇気をぶつけられたとは。
そこから静かに顔を上げ、レイの顔を見つめていた。
時折、目線を反らしながら。
それは、レイも同じだった。
「あの・・・その・・・」
今度こそ・・・!
「「―――ゴメン!!!!」」
またもや、勇気と勇気のぶつかり合いだった。
しかし、先程とは違い、今度は意思表示がハッキリしていた。
「え・・・?」
「えっと・・・え?」
互いにハテナマークが頭の上に浮かんでいた。
ナニ、ドユコト?
「なんでレイが謝るんだ?」
「津田君こそ・・・」
不意に視線を奥にやると、どうやら優希も想定外だったようだ。
同様に頭の上にハテナマークが浮かんでいた。
「僕は、その・・・レイとあの男と二人でいることに、何故だか無性にイライラしていたんだ。
なんで怒りが込み上がってきたのかは、よくわからないんだけど・・・」
僕はとうとう、本心を彼女に話した。
しかし、当の本人は―――まるで理解してないどころか、疑問を抱いている感じを漂わせていた。
「どういうことだ・・・?
私が津田君に対して隠し事をしているから、怒ったのではないのか?」
「隠し事・・・?
それって、あの男と密会してることだろ?」
「密会?何のことだ?
昨日も言っていたが、あの男とは?」
「昨日駅前で男と会ってただろ」
その言葉に気付き、レイはハッとしていた。
「ああ、あの人か。
彼は私が依頼を持ち掛けた――――――料理の先生だ」
りょ・・・料理の、先生!?
「ちょ、ちょっと待って。
あんなに楽しそうにしていて、仕舞いには閑散とした場所に向かって、ビルの中に―――」
「ああ、入っていったさ。
あの中にクッキングスタジオがあるんだ」
「す、スタジオッ!?」
ってことは、レイがついていったのは料理する場所で、その手引きをしたのが―――先生だった、ってことか?
「それより、津田君は私が隠し事をして、そのことに腹を立てていたのではないのか?
招待状の件を君に黙って出向いて、帰ってきた時狼狽していたじゃないか」
「たしかにあの時は色々な感情がグルグル駆け巡ったよ。
でも無事だったから良かった、それだけだよ。
それに、レイが秘密にしていることはもっとたくさんあるだろ?」
出生について、僕は何も知らない。
レイ自身が話せる時になるまで保留、ということで落ち着いている。
「あ・・・言われてみればそうだな」
二人で見合って、数秒間の静止が観測された。
「ってことは僕たち・・・」
「・・・互いに勘違いしていた、ということか」
結論が、出た。
それもとーっても、ベタ。
そう、『勘違い』。
互いに物事の先を見て、それが原因だと思い込んでしまっていたらしい。
まあともあれ、しこりが取れたようで良かった。
「あ、そうだ。
これ―――」
僕はポケットから小さな箱を取り出す。
そしてそのまま、レイへと渡した。
「これは・・・?」
「開けてみて」
きょとんとした顔で、渡された箱をパカッと開けた。
「・・・!!」
「その・・・なんというか、日頃のお礼にと思って」
箱の中には、青黒く光るブローチ。
リボンが拵えており、派手過ぎない印象を秘めていた。
「あ・・・ありがとう」
レイは、笑顔を滲ませていた。
その嬉しそうな感じを見ているだけ、僕も嬉しく感じていた。
「それはよかった」
「あの―――私からも、これ・・・」
そういうと、レイも小さな袋を取り出した。
受け取って早速中を取り出すと、ハート型の箱が入っていた。
「レイ、これって・・・」
「その・・・今日ってバレンタインデーだろ。
私も、日頃のお礼をと、思って―――」
レイは、顔をより赤らめて、視線を反らしていた。
よく見ると、服装はより女性らしく、これからデートですと言わんばかりに着飾っていた。
髪は素直に下ろし、白いカーディガンを羽織り、ベージュの少し長めのスカートを履いていた。
足元は黒いストッキングで包み、可愛らしいムートンブーツを履いていた。
どうやら、今日この時の為に、本気だったらしい。
そして箱の中身は、箱と同じく形成された、ハート形のチョコレートだった。
「これ、本当に僕に?」
「ああ。
受け取って、もらえるか?」
ここまできてそれを言うかキミは。
ハハ・・・言うまでもない。
「―――もちろん!」
赤らめた顔が、より赤らんでいた。
比例するように、笑顔もより明るいものへと変わっていった。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




