調査ファイル XX8 [バレンタインデー大作戦 Part 5]
「レイちゃんっ!!」
私はどこまで走ったのだろう。
誰かに呼ばれた声に気付き、足を止めた。
息を切らしながらも顔を上げると、そこはあまり見慣れない場所だった。
丘のような場所で、散歩の休憩に使われそうなところだ。
まだ昼なのに、閑散としていた。
「・・・・・・」
あれだけ涙を流していたのだが、いつしか痕すらも乾ききっていた。
不覚にも、走っている内に気持ちも落ち着いていた。
「レイちゃん・・・」
私は振り返らなかった。
いや、振り返ることができなかった。
申し訳ない気持ちと、この顔を今見られたくない・・・そう思っていたからだ。
しかしこの声は、津田君のものではない。
「一体・・・どうしたの?
大丈・・・夫?」
私以上に息を切らしながら言葉を発する、小さく幼げな声。
見ずしても、正体くらいはすぐにわかった。
「・・・春香ちゃんか」
優希と春香ちゃんが事務所に出向いた際、丁度私は飛び出していったところだった。
声が一つのところをみると、どうやら優希は追ってこなかったらしい。
「ビックリしたよ、いきなり飛び出すんだから!」
「・・・すまない、心配を掛けたな」
ここで初めて、彼女の方を向いた。
春香ちゃんは腰に手を置き、足を少し開きながら、ややムスッとした表情を浮かべていた。
「ホントだよ!
扉をバーンって開けたと思ったら、泣きながら走り出すんだもん」
「すまない・・・」
小学生にここまで心配させてしまった。
正直、面目が立たない。
「レイちゃん、何かあったの?」
本来ならば、深くは話さないつもりなのだが、如何せんこの表情を見ると、言わざるを得なかった。
もし口を紡げば、もっとゴネるだろうと踏んでいたからだ。
「実は―――」
私は洗い浚い話した。
年下ということを忘れて、本気で打ち明けた。
すると春香ちゃんは顔を赤くしながら、今度は驚きの表情を浮かべていた。
「・・・というわけなんだ」
「えーっ!!
ってことは、それって―――」
「・・・まあ、そういうことだ」
年頃の女の子故なのか、春香ちゃんは理解してくれていた。
しかし、何故津田君はあそこまで怒りを露わにしたのか。
「なにもあんなに怒らなくてもな・・・」
「んー、津田さんに何かしたの?」
「いや、心当たりはないが―――」
もし何かしでかしたとしたら、心当たりくらいはあるはず。
あの覇気で来るとなると、恐らく相当のことだとは思うが・・・
「もしかして、あの事を引きずってるのかな?」
「あの事?」
「ほら、前の―――」
春香ちゃんが言うには、例の招待状の件が原因だとか。
たしかに津田君には内緒で出向き、事態を知った彼は相当青ざめていた。
傷だらけの私を見るや否や、まるで過保護の親の如く、てんやわんやしていたしな。
「つまりはアレか、隠し事をしていたから・・・」
「・・・じゃない?」
互いに首を傾げ合っていた。
仮にそれが原因だとすれば、何となく理解できる。
心配、させていたのだな―――
「そうと決まればっ!」
突然発起し出す春香ちゃん。
胸の前に両手をグーにして出し、妙に張り切ったポーズを取っていた。
「・・・どうするつもりだ?」
「仲直りだよ!」
「簡単に言ってくれるな、君は。
津田君から突っかかってきたとはいえ、私も最後には思い切り怒鳴ってしまった。
そんな手前、『謝りたいから』なんて呼び出すのは―――」
恥ずかしい、というより、気まずい。
なかなか一歩を踏み出す勇気が、出てこない。
彼の事を考えると、何故だか足まで震えてきてしまっている。
そんな私を見越してかどうかはわからないが、春香ちゃんは明るい顔で話し出した。
「大丈夫!
レイちゃんなら出来るって!」
「しかしだな・・・」
すると今度は首を横に2回、静かに振った。
「ううん、そうじゃないの。
ほら―――」
彼女は私の後ろの方へ、視線を向けた。
促されるように、私は振り返った。
「・・・・っ!!」
優希と、津田君がいた。
明るい表情の優希と、少しバツの悪そうな表情の津田君が。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




