調査ファイル XX6 [バレンタインデー大作戦 Part 3]
男はレイの元へ駆け寄り、何やら楽しそうに話し込んでいた。
少しばかり会話をした後、二人はどこかへと歩き始めた。
「ヤベッ・・・!」
僕はすぐさま後を追った。
付かず、離れず。
暫く歩くと、とあるビルの前まで来ていた。
そこは駅からそう遠くないものの、人気はあまりなく、閑静な場所だった。
男は迷うことなくビルの中に入り、レイも疑うことなく後ろをついていった。
こんな閑静な場所、男女が二人、ビルの中―――
「まさか、そんな・・・!」
今まで感じたことのないショックを、ココロの形容し難い部分で受けていた。
同時に、これまた形容し難い“怒り”を、沸々と滾らせていた。
あれ、何で僕今怒りを覚えたんだろう。
何で、こんな気持ちになったんだろう―――
僕は署に戻ることなく、そのままマンションへと帰っていた。
正直、帰路についてはよく憶えていない。
何もできなかった・・・それだけを考えていた。
「わかんない・・・」
別に恋人というわけでもない、誰と付き合おうとそれはレイの勝手。
別に家族というわけでもない、何をするかを打ち明ける必要も義務もない。
レイは何も悪くない。
でも・・・
「この煮え切らない感情は何だ?」
怒りによく似ていて、だけど少し冷たいこの気持ち。
何となくだけど、僕でもわかりそうな不安定な存在。
そして、抱いちゃいけないような、不確定な存在。
「最低だな、ホント・・・」
気が付けば、カーテンから光が差し込んでいた。
いつの間にか眠っていたらしい。
最近はなくなったと思っていたけど、また再発したらしい。
この癖は、早々に直さねば。
着替えた僕は、昨日の自分を恥じ、気持ちを入れ替えることにした。
結果がどうであれ、感謝の念は忘れちゃいけない。
だからせめて、プレゼントだけでも渡したい。
ネクタイをキチンと結び、マンションを出た。
探偵事務所に向かうと、そこには昨日以上にめかし込んだレイがいた。
打って変わって、今日は女性っぽく、一人のレディとして風格を表していた。
「お、おはよう・・・」
「な!あ、つ、津田君。
お、おはよう・・・」
やはり様子がおかしい。
しかし今は堪えろ、堪えるんだ明彦!
「んー・・・どうしたの?」
「へっ!?」
もはや素っ頓狂な声を上げてしまっている。
嘘が下手なんだかそうじゃないんだか・・・
「服、どうしたの?」
「あ、ああ。
今日は特別、なんだ・・・」
頬を赤らめ、目線を斜め下へと反らしていた。
その姿を見て、僕は昨日の出来事を思い返していた。
思えば、この時の僕はレイ以上に普通ではなかった。
リミッターが、外れていたのかもしれない。
「特別、か・・・」
「え?」
ここから先は、よく憶えていない。
多分、あの冷たい炎のような感情が、理性を乗っ取っていたのだろう。
「あの男に会う為なんだ」
「“あの男”・・・?
津田君、一体何を言って―――」
「そうだよね、あんなに楽しそうにしてたんだもんね。
そりゃ浮かれもするよね。
わかるよ、その気持ち」
「どうした津田君。
今日ちょっとおかしいぞ」
「おかしいのはどっちだよ。
その服装といい、昨日の所業といい、おかしいのはレイの方じゃないのか?」
「・・・まさか、つけていたのか?」
「ああそうだよ、レイの挙動がおかしかったから後を追ったよ。
そしたらあのザマさ、ビックリしたよ。
レイが誰と付き合おうとレイの勝手だよ。
でもデートならデートって言ってほしいね、あんなにコソコソしてないでさ!」
「ちょっと待て、彼とはそんな関係じゃない・・・」
「そんな関係じゃない!?
じゃあどんな関係だ?
疚しい関係なんじゃないのか?」
「・・・言っていいことと悪いことがあるぞ。
大体どうして私の後をつけた?
信用しているんじゃなかったのか!?」
「ああそうだよ、信用していたさ。
だからこそ隠し事はしてほしくなかったね!
身内の事ならまだしも、恋愛面なら隠す必要はないだろ!!」
「だからそういう関係じゃないと言っているだろう!」
「じゃあどういう関係なんだよ!
どうせロクな関係じゃないんだろ!?
コソコソとビルの中に入って、僕の悪口でも言いながら、二人で楽しくヨロシクやってたんじゃないのか!!
言ってみろよ、あ!?」
「・・・・・・」
「言いたいことがあるならハッキリ言えよ!!」
「・・・何も知らないくせに―――
偉そうなこと言うな!!!!!」
僕は、物凄い息切れを起こしていた。
蟀谷辺りから汗が滴り落ちてきている。
何で僕はこんなに疲れているのだろうか。
そしてさっきまで、ここにレイがいたような気がしたんだが・・・
「あれ・・・」
事務所の玄関の戸が、開きっぱなしになっていた。
涼しい風が、室内をいい感じに冷やし始めていた。
「アッキー!」
玄関に優希が立っていた。
いつ来たんだろ。
「アッキー、何があったの?」
「何って・・・何が?」
「凄い汗・・・
じっとしてて」
そういうと、ハンドタオルを取り出し、額の汗を拭ってくれた。
何度かポンポンと額にタオルを当てた後、改まって事情を聞き出していた。
それはもう、大真面目な顔で。
「答えて、アッキー。
レイと何があったの?」
「優希・・・
実は、僕もよく憶えてないんだ」
「憶えてないって・・・
だって、泣いてたんだよ!?」
レイが、泣いていた・・・!?
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




