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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第五章 ~ 名もなき招待状 [後編] ~
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調査ファイル 090 [奇跡の夜明け]

気が付くと、私は何処かで眠っていた。

ぼんやりとする視界には、少し広い空間と天井らしきものが見える。

律儀にもベッドの上に、しかも掛け布団まで掛けてくれているとは・・・


「何処だ、ここは・・・」


身体は動かない。

何やら、物凄く重く感じる。

唯一動く首をようやく動かし、辺りを見回す。

何となく見覚えのある部屋に、私は寝ていたようだ。


「っ!

そうだ、私は―――」


少しずつ、断片的に思い出してきたところ、誰かが部屋に入ってきた。

足音は少し重みを感じさせ、若干の威圧感さえも振り撒いている。

やや緊張を走らせていたが―――すぐにその糸は緩むことになった。




「なるほど、元気そうだな」




視界に入った人物は、予想だにしなかった人だった。

何故ここにいるんだ、という感想しか(いだ)くことができなかった。


「前田―――」


「“さん”を付けろ」


困りながらも安堵の笑顔を作る彼は、それなりに心配はしていたらしい。

だが心配している理由が見つからない。

そう、何故彼がこの場所にいるのか。


「私は、一体・・・」


私は寝たままの状態から起き上がった。

だが、上半身を80°程起こしたその瞬間、全身に通ずる驚異的なまでの激痛が走る。

あの時受けた銃弾に匹敵・・・いや、それ以上かもしれない。

刺激を受けた身体は、痛みの許容範囲内ゲージを振り切り、耐え切れず再びベッドへと倒れ込んだ。

疲労の影響か、脳も理解に追いついていない。

それよりも不思議なのは、痛みが伴うのが身体だけでなく“頭”にも響いているということだ。

欠落した記憶の部分で怪我したという可能性も否定できない。

ふいに額に手の甲を置いたが、包帯の類はなかった。

わからない・・・何もかもがわからない・・・


「おいおい、無理をするんじゃない」


「―――そうみたいだな」


観念した私に呆れながら、前田は椅子に座った。


「・・・で、どうしてここにいる。

招待状は来ていないだろう?」


「招待状?何のことだ?

俺は連絡を受けて来たんだよ」


「連絡?」


「お前んトコの嬢ちゃんだよ。

黒川が帰って来ないってな」


そういえば、ここに来てから連絡の類は一切していなかったな。

いつ帰るとも言わなかったし、荷物の量も1日2日程度だったし。

そりゃ心配もするだろうな、あの年頃は。


「春香ちゃんには、迷惑を掛けたな・・・

帰ったら謝らないと―――」


「連絡を寄越したのは姉ちゃんの方だぜ」


その言葉に、思わず驚いてしまった。

結構冷静だと思っていた優希が、春香ちゃんを差し置いて心配か。

人は見かけによらないとは言うが、まさかここで知る羽目になるとは。


「あの子は繊細だ、その辺もちゃんと拾ってやれ」


「ああ、わかっているさ」


言うまでもないさ。

優希は良い子だ、本当に。


「しかし、一人の少女の連絡で(おもむ)くとは、到底思えんのだが?」


密かに茶化し要素を含めながら、前田に問い詰めた。

すると彼は表情を強張らせ、真剣な眼差しで返答を投げ掛けた。


「ここいらで大きな地震があったって、ニュースが流れたんだよ。

テレビでも地味に大きく出たんだぜ、テロップとか。

嬢ちゃんの電話は、あくまでトリガーになっただけだ」


「なるほど・・・」


地震、ねぇ―――

しかし、情があるのかないのか、今一つわからない男だ。

それにしても、列島から見て沖の地震により飛ばされたとしたら、随分と暇な人間のようだ。

その表情とは似つかわしくないのは、言うまでもない。


「んで、ここからは(いち)刑事として聞く。

一体何があったんだ?」


やはりそう来たか。

正直、誰が何と言おうと返答は一つだ。




「―――何もなかったさ」




前田からは、暫く疑いの目を向けていた

だが状態が状態なだけに、どうやら不問にされたようだ。

私は安静を取って、一日ここで休養することになった。

前田がいなくなって、部屋の中が妙に静まり返っていた。


改めて部屋を見渡すと、やはり見覚えがある。

このレイアウト・・・恐らく洋館の一室だと思われる。

そしてあの時―――


「痛っ・・・!」


まだ身体が痛む。

そう、あの時無心で出口へと走っていた。

日の光を見たのかどうかも曖昧な感じだ。

そんな状態の私を、誰がここまで運んだのか。

見たところコウキ君も鈴音もいないが、二人は無事だったのだろうか。

私がこうして生きている以上、殺されたという線は薄い。

同じように、誰かがどこかに運んで助かっている・・・と、信じたい。

そんなことを考えている内に、いつしか眠りに就いていた。







翌日、前田が私のカバンを持って部屋へと訪ねてきた。

不思議と身体も立って歩ける程度までに回復していた。

前田は驚いた表情をしていたが、私はお構いなしに洋館を出ようとしていた。


「そうだ、挨拶―――」


「ん、どうした?」


前田は私を呼び止めた。

その顔も、不思議そうな感じに。


「幾分にも世話になったからな。

せめて別れの挨拶くらいは―――」


「あー・・・」


「どうした?」


前田はバツの悪そうな顔で、渋り渋り口を開いた。




「ここの洋館、誰もいないぞ?」




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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