調査ファイル 089 [執念]
「ギイイヤアアアァァァァ!!!!!」
断末魔と化した男は、辺り一面に響く轟音を響かせていた。
視覚を奪われた代わりに鋭い聴覚を得たようだったが・・・花火の音には耐えられなかったようだ。
小さな話し声が敏感に聞こえる状態なら、尚更の事。
プラスアルファ、その叫び声もダメージ入っていることだろう。
何という無限ループ・・・
剛田はその場に跪き、耳を抑えたまま辺りを転げ回る。
あれ程覇気を見せつけ、平気な顔で人を殺めた人物の末路とは―――
一頻り転げ回った後、奴の動きは完全に静止し、ピクリとも動かなくなっていた。
「やった・・・のか?」
「・・・多分」
コウキ君と鈴音が、恐る恐る聞いてきた。
もはやアレは人ではない、異生物だ。
故にどのような行動に出るかは測り知れない・・・そりゃ心配にもなるだろうに。
そんな意に反して奴が動かないとこを見ると、本当にやっつけたらしい。
いやはや、本当の意味で死にそうだったよ、本当に。
「なら今の内に逃げましょう。
いつまでもこんなとこにいたら―――」
大原が脱出を促した・・・その時だった。
「な、何ですか!?」
「・・・地震?」
地面が強く揺れ始めた。
天井からは小さな石ころや砂がポロポロと落ちてくる。
辺りに気を取られていると、中央のダイヤモンドが一瞬だけ強く光り出した。
ドクン―――ドクン―――
まるで、心臓が動き出すかのように。
「いや、地震じゃない。
みんな走れ!」
次第にペースが速くなっていっている。
私は全員に喚起し、脱出を試みた。
「脱出って・・・出口なんかないですよ!」
「何・・・?」
先程の戦闘のせいだろうか、最初来た時の入口が完全に塞がっていた。
今度は八方塞がりときたか―――
「・・・・・・」
何だ・・・声か・・・?
突如何者かの声が聞こえた、ような気がした。
声というには些か疑問は残るが、この際構っている暇はない。
再びのイチかバチか、私は声のする方向へ足を進めた。
しかしその方向には、蹲っている剛田の姿があった。
「レイさん、一体何を!?」
「・・・わからない。
だが、恐らく―――」
剛田のすぐ後ろの壁を、私は押した。
ここまで来れば、もはや怪我の事も殆ど忘れていた。
壁が徐々に血だらけになっていることも、気付かないままに。
壁はビクともしない。
本調子じゃないせいか、それとも他に原因があるのか。
それでも一心不乱に壁を押し続けた。
「・・・んっ!」
若干濃厚な色気を振り撒く声で、鈴音も協力を始める。
踏ん張った表情を浮かべ、私と共に壁を押していた。
それに続いてか、コウキ君も必死に押す。
最後に大原も加わり、4人掛かりで壁を押した。
地面が揺れる中、一心不乱に。
「もう少しだ、頑張れっ!」
少しずつだが、壁は奥の方へと傾いていた。
次第に傾斜が付き、大きく傾きかけたあとは、流れるように壁が倒れていった。
最後は大きな響きを、辺りに撒き散らしていた。
「出口だ・・・!」
「感心するのは後だ。
急げ!」
私はコウキ君に喚起し、先を急いだ。
どこに通じているかは知らないが、ここに留まるよりは万倍マシだ。
根拠はないが、そんな気がしていた。
しかし、再び想定外の事態が起こってしまった。
「きゃっ・・・!」
壁の奥に数歩進んだ直後、背後で誰かが声を出した。
振り返ると、コウキ君と鈴音は既に壁の奥に入っていた。
だが、大原の姿がなかった。
よく見ると、彼女はまだこちらに追いつけていなかったのだ。
そして原因が、あまりにも悍まし過ぎていた。
「ガ・・・グア・・・」
倒れて動けないと思われた剛田が、再び動き始めていた。
そしてあろうことか、大原の右足をガッチリと掴んでいた。
化け物の状態のせいか、瀕死の状態で尚その力は未だ衰えていなかった。
「離・・・して!」
必死に振り払おうと足をバタつかせる大原。
剛田も必死に彼女の足を離すまいと、執念を込めていた。
「大原さんっ!」
慌てたコウキ君が彼女を助けに行こうとしていた。
だが、すぐさま鈴音に引き留められた。
彼は何故引き留めるんだ、行かせてくれ・・・と、今にも泣きそうな瞳で訴えかけていた。
鈴音自身も、説得を掛けるような瞳で彼を見つめる。
そして―――首を横に振った。
「私の事はいいわ、先に行きなさい!」
「で、でもっ!」
とうとうコウキ君の目からは、大粒の涙が流れ落ちていた。
それは最悪な結果を予感してのことだった。
同時に、大原も同じことを感じていた。
だから彼女は、こう口にした。
最大限の力で笑顔を作りながら。
「―――さようなら」
コウキ君は鈴音に引っ張られ、その場から離れていった。
大原は最後に私たちに向けて、別れの言葉を呟いた。
徐々に見えなくなっていく私たちを目に焼き付けていた。
崩れ掛けていく、か細い微笑みを浮かべながら・・・
先頭を走っていた私は、声を頼りに足を進めた。
入り組んだ道だったが、何故か知っている道を通っているかのような感覚を覚えていた。
声に傾け過ぎていたのか、それ以外のことは一切考えていなかった。
無心で走り続け、気が付けば目の前に微かな光を感じた。
「見えた・・・!」
そこからの記憶は、一切ない―――
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。




