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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第五章 ~ 名もなき招待状 [後編] ~
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調査ファイル 089 [執念]

「ギイイヤアアアァァァァ!!!!!」


断末魔と化した男は、辺り一面に響く轟音を響かせていた。

視覚を奪われた代わりに鋭い聴覚を得たようだったが・・・花火の音には耐えられなかったようだ。

小さな話し声が敏感に聞こえる状態なら、尚更の事。

プラスアルファ、その叫び声もダメージ入っていることだろう。

何という無限ループ・・・


剛田はその場に跪き、耳を抑えたまま辺りを転げ回る。

あれ程覇気を見せつけ、平気な顔で人を殺めた人物の末路とは―――

一頻り転げ回った(のち)、奴の動きは完全に静止し、ピクリとも動かなくなっていた。


「やった・・・のか?」


「・・・多分」


コウキ君と鈴音が、恐る恐る聞いてきた。

もはやアレは人ではない、異生物だ。

故にどのような行動に出るかは測り知れない・・・そりゃ心配にもなるだろうに。

そんな意に反して奴が動かないとこを見ると、本当にやっつけたらしい。

いやはや、本当の意味で死にそうだったよ、本当に。


「なら今の内に逃げましょう。

いつまでもこんなとこにいたら―――」




大原が脱出を促した・・・その時だった。




「な、何ですか!?」


「・・・地震?」


地面が強く揺れ始めた。

天井からは小さな石ころや砂がポロポロと落ちてくる。

辺りに気を取られていると、中央のダイヤモンドが一瞬だけ強く光り出した。

ドクン―――ドクン―――

まるで、心臓が動き出すかのように。


「いや、地震じゃない。

みんな走れ!」


次第にペースが速くなっていっている。

私は全員に喚起し、脱出を試みた。


「脱出って・・・出口なんかないですよ!」


「何・・・?」


先程の戦闘のせいだろうか、最初来た時の入口が完全に塞がっていた。

今度は八方塞がりときたか―――




「・・・・・・」




何だ・・・声か・・・?

突如何者かの声が聞こえた、ような気がした。

声というには(いささ)か疑問は残るが、この際構っている暇はない。

再びのイチかバチか、私は声のする方向へ足を進めた。

しかしその方向には、(うずくま)っている剛田の姿があった。


「レイさん、一体何を!?」


「・・・わからない。

だが、恐らく―――」


剛田のすぐ後ろの壁を、私は押した。

ここまで来れば、もはや怪我の事も殆ど忘れていた。

壁が徐々に血だらけになっていることも、気付かないままに。


壁はビクともしない。

本調子じゃないせいか、それとも他に原因があるのか。

それでも一心不乱に壁を押し続けた。


「・・・んっ!」


若干濃厚な色気を振り撒く声で、鈴音も協力を始める。

踏ん張った表情を浮かべ、私と共に壁を押していた。

それに続いてか、コウキ君も必死に押す。

最後に大原も加わり、4人掛かりで壁を押した。

地面が揺れる中、一心不乱に。


「もう少しだ、頑張れっ!」


少しずつだが、壁は奥の方へと傾いていた。

次第に傾斜が付き、大きく傾きかけたあとは、流れるように壁が倒れていった。

最後は大きな響きを、辺りに撒き散らしていた。


「出口だ・・・!」


「感心するのは後だ。

急げ!」


私はコウキ君に喚起し、先を急いだ。

どこに通じているかは知らないが、ここに留まるよりは万倍マシだ。

根拠はないが、そんな気がしていた。




しかし、再び想定外の事態が起こってしまった。




「きゃっ・・・!」


壁の奥に数歩進んだ直後、背後で誰かが声を出した。

振り返ると、コウキ君と鈴音は既に壁の奥に入っていた。

だが、大原の姿がなかった。

よく見ると、彼女はまだこちらに追いつけていなかったのだ。

そして原因が、あまりにも悍まし過ぎていた。


「ガ・・・グア・・・」


倒れて動けないと思われた剛田が、再び動き始めていた。

そしてあろうことか、大原の右足をガッチリと掴んでいた。

化け物の状態のせいか、瀕死の状態で尚その力は未だ衰えていなかった。


「離・・・して!」


必死に振り払おうと足をバタつかせる大原。

剛田も必死に彼女の足を離すまいと、執念を込めていた。


「大原さんっ!」


慌てたコウキ君が彼女を助けに行こうとしていた。

だが、すぐさま鈴音に引き留められた。

彼は何故引き留めるんだ、行かせてくれ・・・と、今にも泣きそうな瞳で訴えかけていた。

鈴音自身も、説得を掛けるような瞳で彼を見つめる。

そして―――首を横に振った。


「私の事はいいわ、先に行きなさい!」


「で、でもっ!」


とうとうコウキ君の目からは、大粒の涙が流れ落ちていた。

それは最悪な結果を予感してのことだった。

同時に、大原も同じことを感じていた。

だから彼女は、こう口にした。

最大限の力で笑顔を作りながら。




「―――さようなら」




コウキ君は鈴音に引っ張られ、その場から離れていった。

大原は最後に私たちに向けて、別れの言葉を呟いた。

徐々に見えなくなっていく私たちを目に焼き付けていた。

崩れ掛けていく、か細い微笑みを浮かべながら・・・


先頭を走っていた私は、声を頼りに足を進めた。

入り組んだ道だったが、何故か知っている道を通っているかのような感覚を覚えていた。

声に傾け過ぎていたのか、それ以外のことは一切考えていなかった。

無心で走り続け、気が付けば目の前に微かな光を感じた。


「見えた・・・!」




そこからの記憶は、一切ない―――




To Be Continued...


※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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