Prologue -005 [始まりの始まり]
はじめまして、土井 淳といいます。
この度は『探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~』を読んでいただき、誠にありがとうございます。
小説をこういう形で具現化・・・といいますか、文章化させるのははじめてです。
まだまだつたない部分があるかと思われますが、どうぞ最後までお楽しみください。
大怪盗――世界中にある那由多の宝を、ありとあらゆる手段で奪い去る者。
あまりにも鮮やかすぎる手捌きと身のこなしで、どんな困難な場所だろうと目的を遂行する。
警備の隙を盗み、お宝を盗み、最後は人の心でさえ盗んでしまう。
追いかけても追いかけても、捕まえることはできない。
時に空を飛び、時に海へ潜り、時にマジックの如く煙に消えてしまう。
闇に生き、闇をまとい、闇のように消える・・・
そして今日も、華麗にお宝を盗み出す――はずだった。
2016年2月14日。
まだ外は寒く、なかなかコートを手放せない時期だった。
それでも街行く人たちは、どこか浮かれたような雰囲気に思える。
それもそのはず、今日は年に一度の『バレンタインデー』。
男性は期待を膨らませ、女性は告白に胸躍らせる・・・浮かれないほうがおかしい。
が、浮かれ気分になっていない『おかしい』人が、ここにいる。
津田明彦――そう、僕だ。
只今左遷先へ向かっている途中でございます。
もう心身共に疲れ切って、とてもチョコで元気になれる状態じゃない。
しかも・・・
「先輩から貰った地図わかりづらいな・・・」
片手に手書きの地図を持ちながら、2月の季節と裏腹の大量の汗をかいている。
道行く人は時たますんごい顔をして通り過ぎる――まあ無理もない。
荷物こそ郵送だから良かったものの、もしそうでなかったらと考えるとゾッとする。
電車の駅を降りて、街中を歩き回って、かれこれ1時間。
そろそろ誰かに聞こうかな――そう思い始めていた。
「あの、大丈夫ですか?」
誰だろう、女性の人が話しかけてきた。
おそらく額から雨だれを流れる雨のような汗を見て、ただごとじゃないと思ったのだろう。
一瞬焦ってしまったけど、これはシメた。
「だ、大丈夫ですよ。それより一つお聞きしてもよろしいですか?」
女性はどうぞと答えた。
道一つ聞くだけなのに、少し恥ずかしいところを見せてしまったな。
まあいいか、一期一会だし。
「この場所に行きたいのですが――」
刹那、女性の眉間が歪んだ。
また刹那、何もなかったかのように平然とした顔で道なりを教えてくれた。
一瞬の出来事だった、少し不自然に見えたものの、気には留めなかった。
正直、蓄積していた疲労も相まって、それどころじゃない。
僕は女性に感謝の意を唱えてその場を立ち去ろうとした。
ふわっ。
鼻の先端から、徐々に奥の方へと柔らかい風が通る。
僕には到底似つかわしくない、フローラルな香りが顔の辺りに広がる。
ハッと気が付けば、更に柔らかいものが当たっていた。
これは・・・タオル?
女性は何も言わず、吹き出す汗を拭ってくれた。
何度かタオルでポンポンと叩いた後、にこやかな表情で会釈してその場を後にした。
10秒くらい、僕が呆然と立ち尽くしていた。
そりゃそうだよ、ここまでされたら誰だって立ち尽くすって。
優しい・・・あまりにも優しすぎる。
だが、そんな優しさに浸ってもいられなかった。
「うわヤバイ、早く行かないと!」
腕時計の針は思ってたより進んでいた。
せっかく拭ってもらった汗を再び溢れさせながら、僕は走り出す。
地図と先程の道案内をたよりに、一目散に走り出す。
赤信号にイライラしつつも、どうにか到着した。
多分・・・ここだよな?
地図と目の前の建物を交互に見て、確認をとる。
如何せん先輩の地図はミミズが這った様な字で書かれていたため、確認の仕様がないのではあるが。
内心自身はなかったのだが、とりあえず入ってみることにした。
間違っていたら、まあそん時はそん時だ。
ようし・・・行くか!
僕は新天地となる左遷先に無事到着、そして第一歩を踏み出した。
この先どうなるのか、平穏な毎日をやっていけるのか・・・頭の中で色々なことがグルグルと回っていた。
ともあれまずがここで暫く経験を積むことが重要だよな。
んじゃ、いっちょやりますか――刑事として。
To Be Continued...
※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。
今作は『探偵シリーズ』と銘打ってますように、複数の探偵によるシリーズ作品でございます。
『大怪盗の夢』はその作品の一作目として執筆させていただきましたが、これはシリーズ内の歴史の最初・・・というわけではありません。
時系列上では結構真ん中、数字でいうと『±0』の立ち位置です。
そして二作目、三作目がその時系列の前だったり後ろだったり・・・といった感じです。
さて、作品の内容ですが。
タイトル通りマイナスからスタートです。
刑事が怪盗と出会ってタッグを組むとこまでがプロローグです。
内容自体は1~2年前から、頭の中で部分的にぼやけた感じに作ってました。
最近になってからトリックをどうしようかとか、そればっかりです(笑)
割とリアルな感じを狙っていきたいですねぇ、できれば。